第六十三射目
またもや過去最長だし、ノリと勢いで書いたあとがき含めると更に長くなりました。
あとがきのちょっとした小ネタは本編には一切関係無いので読み飛ばしてもらって構いません。
小ネタの後に少し真面目な話をしているので、そこは読んでいただけると嬉しいです。
そこからは目まぐるしい日々が続いた。
身体が動かせるようになるまで更に一週間かかり、その間ディーセス家と不沈艦の面々は長く屋敷を開けるわけにもいかず、僕と、何故かフランを残して目覚めた次の日には王都を出立した。
目覚めた日にそういえばリックさんの姿が見えない事に気付いて、陛下が退出された後で旦那様に聞くと、
「リックなら今はトルネネじゃないかな?」
との事だった。
どうやら、話にあった黒い飛竜はリックさんが飼い慣らした秘蔵っ子らしく、普段は魔道具【箱庭】に入れられており、必要な時に呼び出しているらしい。
特殊個体の飛竜で通常種よりも速く、長い距離を飛行可能との事。
そのおかげでガルシア団長とアメリア副団長が間に合い、最小限の被害に食い止める事が出来た。
その後も支援物資の連絡や被害状況の確認の為に、色んな所を休みなく飛び回っている。
やっぱりリックさんって優秀なんだなぁ、普段はあんな感じだけど。
そして、アメリア副団長は僕がディーセス家にお邪魔する少し前に方舟の第二騎士団と合同でクルス火山に出向していたらしく、一足先に戻ってきた矢先、今回の件で急遽、文字通り飛んできたらしい。
話してみると、綺麗でスレンダーな見た目と裏腹にガルシア団長に似て豪快な性格だった。
何でも昔から父親よりガルシア団長に懐いていたみたい。
そして、身体が動かせるようになり、本日、陛下から僕への褒美が謁見の間で正式に下賜される。
内容は秘密だとまたも旦那様に聞かされた。
そして、何故か左後ろにフランもいる。
普通は逆じゃない?
「お待たせしました。お入り下さい」
兵士に声を掛けられて気を引き締める。
扉が開かれると謁見の間には新年挨拶の時以上に人がいた。
こんな中で何を貰うのだろう。
旦那様の事だ、何かしらの吃驚要素があるんだろう。
片膝を着き、頭を下げる。
「面をあげよ」
陛下の声が響く。
「良い。面をあげよ」
顔を上げると数日前と変わらない面々が揃っている。
違うといえば最初から凄い敵意の視線を第二王子から向けられているくらいかな?
「ディーセス辺境伯家【鷹の目】ユウリよ。此度の純竜種及び魔獣・魔物の軍勢の進行に置いて、見事純竜種である火炎竜を討ち、勝利に導いた英雄へ褒美を授ける」
「はっ。有難き幸せ、誠に恐れ入ります」
「まずは討伐の報酬として、白金貨十枚を授ける。並びに叙爵する筈であったが、ディーセス辺境伯から聞いたところユウリはそれを望まぬ。と」
周りの貴族達からどよめきの声が上がる。
平民から叙爵される事は大変名誉なんだけど、要らぬしがらみも出てくるので是非とも遠慮したい。
旦那様、流石です。
「その代わりと言ってはなんなのだが。聞けば其方の射る矢はまるで流星の様だった。と方舟の者達が口々に言っておった。そこで其方には余から二つ名を与え、その二つ名と国印が刻まれた短剣を下賜する」
国印付きの短剣の下賜。
これは陛下自ら認めたとの証明、そして国印付きを持つ者の発言は【国王陛下の発言】と準ずるという事だ。
つまり、特定の条件化では高位貴族よりも上の王族に匹敵する発言力を手に入れてしまった。
そんな責任重大な物要らないんだけど……。
「陛下!この様な者に国印付きの短剣など!」
「この者の功績を考えれば妥当だ。それともこれは余が決めた事、何か不満があると申すか?」
「い、いえ。その様な事は……」
名も知らぬ貴族が発言したが一蹴される。
もっと頑張ってよ、名も知らぬ貴族様、貴方が正しいって。
陛下が玉座から立ち上がり、僕の元へと近付いてくる。
「ユウリよ。そなたにはこの短剣と共に二つ名【流星】を授ける。其方の守りたい者の為に、これからより一層精進せよ」
「はっ」
短剣を受け取りながら、陛下に対して改めて頭を下げる。
陛下は満足したように玉座に戻り、その他、僕が属するディーセス家への褒賞を述べて、亡くなった者の家族への見舞金の事を伝え、僕達は退出となった。
息苦しい広間から外に出て、早々に短剣を指輪に入れようとすると、
「ユウリ様、そちらは陛下から下賜された物にございます。せめて王城におられる間は腰に下げておいて下さい」
「あっ、はい」
敢え無く失敗した。
そこへ燕尾服をビシッと着こなした初老の男性がこちらに近付いてくる。
「ユウリ様、どうぞこちらへ」
「はい。あの……フラン様も一緒で構いませんか?」
「はい。陛下からもそう仰せつかっております」
「ではフラン様、こちらに」
さっきからチラチラこちらを見ているフランを置いていく訳にもいかないので、連れて行って良いか尋ねるとあっさり許可が出た。
元々そのつもりだったんだろう。
案内されて通されたのは少し狭い応接室(とは言え、一般貴族の部屋よりも広い)だった。
「御二方、どうぞそちらにお掛けになってお待ちください」
「ありがとうございます」
「失礼致します」
メイドの女性が運んできた紅茶を口にしながら言われた通り待つが、一体何なんだろう?
フランと僕が眠っている間の事を改めて聞いていると扉が開く。
「へ、陛下?」
なんかこの間もあったぞ?これ。
今回は身体が動くので僕とフランは慌てて跪こうとする。
「楽にしていて良い。ここには儂とセバスチャン無いからな」
「ですが……」
「では王命だ。楽にせよ」
「……はい」
こんなところで王命を持ち出すとはこの陛下……。
「ここにいるのは儂と此奴だけだからな。わざわざ面倒な事をする必要ほ無いだろう」
「陛下、面倒というのは些か……」
「良いではないか、セバス。儂が堅苦しい事は苦手なのは知っているだろう?」
「そうでしたね……」
ガキ大将の様な笑顔を見せる陛下を見て、諦めた表情を見せるセバスことセバスチャンさん。
長いからセバスさんと心の中では呼ばせてもらおう。
「さて、ここに呼んだのは他でもない。その短剣と二つ名の意味を説明しようと思ってな」
「意味と言われますと?」
「そう固くなるな。公の場では無いんだ。先程言った通り、この部屋には儂とセバスしかいない。普通で良いぞ、普通で。それで、だ。その二つの意味をどれ位知っている?」
この部屋には。ねぇ。
それに短剣と二つ名の意味とは?
「陛下がそう仰るのであれば、失礼して少し言葉を崩す事をお許し下さい。僕が知っているのは―――」
知っている限りの事を説明した。
「ふむ、概ねその通りだ。だがそれでは七十点と言ったところだな。セバス、説明を」
「はい。国印付きに関してだけを言えば、持つ者の発言が王命に準ずるのは間違いありません。ただし、国印付きが短剣となると我が国では意味合いが変わります」
「短剣とそれ以外が違うということですか?」
「はい。正確には国印が刻まれている物が何であるかによって変わります。現在ある国印付きの品は、陛下のみがお持ちの王印・陛下を始めとする王族の皆様が身に付けているブローチ、そして下賜される可能性がある短剣・錫杖の四種類となります」
「それぞれ持つ意味が違う。と?」
「その通りでございます。王印は陛下のみ、ブローチはそもそも王族のみしか持つ事が叶いません。短剣が効力を発揮するのは、[国に関係する戦全て]でございます。今回の様に大規模な事から賊の討伐の際まであらゆる戦いまで文字通り、全てに」
「では、錫杖は?」
「[国に関係する政や法の全て]になります。勿論、どちらもあくまで陛下が不在の際。と条件がございますが」
「成る程。ありがとうございます」
「つまりは、今回の様な件ではユウリに全騎士団への命令権が与えられる事になる。不謹慎な物言いになるが次も頼んだぞ」
「次が無い事を切に願います……」
「それは儂も同じだ」と笑う陛下。
「以上が王印付きの短剣の説明となります。続いて二つ名の説明に移りますが宜しいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「では、失礼して。二つ名自体は陛下に授けられる以外にも様々呼ばれる場合があります。各ギルドや民衆から尊敬の意味で呼ばれたり、逆に蔑称として呼ばれたり……。稀に自分で名乗りそれがそのまま浸透する事もございます。」
「自分で名乗るのは中々ですね……」
「きっと泊を付けたいのでしょう。名乗る事自体は自由ですから問題ありません。しかし、今回の様に陛下から直接授けられた場合は事情が異なります」
「名乗る事より、誰に授けられたかが大切という事ですか?」
「はい。陛下から公の場で二つ名を授かった場合、その者は叙爵はしていないものの、実質的な権力は王都に屋敷を構える法衣伯爵と同程度となります」
「……え?」
「法衣伯爵が持つ発言権や命令権、婚礼の際に必要とされていた爵位と同じ等の様々な権利が与えられます。三つ目に関して我が国は既に撤廃しているので実質無い様なものですが、それでも未だに気にする者もおりますのであって損はありません」
「では、納税や義務も同じ様に?」
「いえ、そこはあくまで平民となりますので発生しません。つまりはただの良いとこ取りでございます」
「それはそれは……。本当の伯爵様に嫌われそうな立場ですね」
「案外そうでもありません。特にユウリ様の場合は短剣が下賜されているので、一目で力があるのは貴族以上は皆分かります。むしろ、我が家に来ないかと勧誘される事が多いでしょう」
「……頂いた短剣と二つ名を返却する事は可能ですか?」
「それは陛下に弓を引く事と同義ですが?」
「実際に弓しか引けませんからね、僕は」
僕の無駄な抵抗も陛下は笑って受け流す。
「出来ればそのまま受け取ってほしいな。お主が敵となれば儂どころか騎士団を崩壊させられそうだ」
「つまりユウリ様は危険度厄災級ですか」
「人を魔物扱いするの、辞めてもらえませんか!?」
何か危険度付けられたし、ずっと真面目に聞いていたフランは俯いて肩を震わせて笑いを堪えているし。
「……ふぅ。分かりました。短剣と二つ名、有り難く頂戴いたします」
「うむ。そうしてくれ」
「因みにですが、陛下から頂いた【流星】を名乗らずに、ディーセス辺境伯から頂いた【鷹の目】を名乗る事は不敬でしょうか?」
「それは構わん。その時々で適材適所、使い分けると良い。一般人からすればどちらも変わらんからな」
「変わらないと申しますと?」
「うん?聞いておらんのか?貴族爵を持つ者から与えられた二つ名は騎士爵と同様の立場となるぞ?」
「まじかー……」
旦那様、やっぱり今度ぶん殴ってやる。
「しかし、これで公の場でも堂々もフラン嬢との婚約を発表する事が出来るな?」
「へぅえっ!?ゆ、ユウリと婚約っ!?」
「そうですね。その点は有り難い限りです」
「ゆ、ゆゆ、ユウリ!?」
顔を真っ赤にして焦るフランを陛下と一緒に誂って、笑い合う。
話は終わったので僕らは退出する事になった。
これで王城での用事は終わったので、今日は宿に泊まり、明日の朝一でアリアに向けて出発する事も陛下に伝えた。
退出する間際、
「あ、そうでした、陛下。一つ宜しいでしょうか?」
「うむ。どうした?」
「この部屋の天井にいる女性の方に伝えておいて下さい。まぁ、聞こえているとは思いますが。僕の護衛、今日までありがとうございました。と」
「…………いつから知っておった?」
「僕がクランベイン団長に勝った日から。ですね。その時は何処にいるか漠然としか分からず、監視だと思っていたし、性別も分からなかったんですが。戦いの後、目覚めた次の日辺りからどうも加護が敏感になったみたいで、今何処に居て、性別・身長・体重・隠し持ってる武器まで分かる様になりました」
「流石は伝説級の加護と行ったところか。分かった。改めて儂の口からそう伝えておこう」
「ありがとうございます」
「儂からも一つ良いか?何故今それを伝えたのだ?」
「散々陛下に弄ばれた気がしたので、直接手を出すわけにはいかないからその代わりに。意趣返しみたいなもんですよ。では失礼いたします」
不敬極まりないが、僕はそれだけ言って退出した。
やっと明日からアリアへの帰路に着き、いつもの日常に戻れる。
長かった王都初訪問は、様々な有り得ない事に遭遇しながらも無事、幕を閉じる事にとなった。
【目覚めた後のユウリ】
「あ、じっと見てた人女の人だったんだ。武器沢山持ってるけど重くないのかな?割と胸がおお……」
「ユウリ?どうしたの?独り言?」
「いや、何でも無いよ(口に出してしまってた、危ない)」
【お風呂中のユウリ】
「初日から見られていたから慣れたけど、これ男女逆の場合どうするんだろう?」
「因みに私達は劣情を抱かない訓練をしているので、男女問わずその任に最適な者が担当します」
『なんか独りで喋ってる……』
【お手洗い中のユウリ】
「こんな時まで居るんだ……。流石に見られてはないみたいだけど……」
「任務であれば仕方ないが、今回は護衛目的なので最低限プライバシーに配慮しております」
『お風呂の時もだったけど誰に話しかけているんだろう?』
【就寝前のユウリ】
「寝る時に見られていると、寝付けないんだよなぁ。加護を完全に遮断して寝よう」
「この年頃の健全な男子が普通に就寝するなんて……。まさか私が見ているせいで……?これは迅速に処理すべきなのか……」
『加護使ってないのに何故だが貞操の危機を感じる』
何となく書きたくてノリと勢いで書きました。
閑話休題。
これにて第四章は終わりとなります。
話の区切り的に、【ディーセス辺境伯領】だったのを【ディーセス領〜王都編】に変えさせていただきました。
あと二・三話閑話を挟んで次章に移ります。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。




