第五十八射目
『竜と魔獣の軍勢が突然現れた』
一人の兵士の発言は場を混乱させるには充分だった。
すぐさま陛下が騎士団に指示を出し、クランベイン団長や他の騎士団長らしき人物が部下達に檄を飛ばす。
宰相であろう人は内務官達と共にバタバタと広間から出ていく。
その他の周りに居た法衣貴族だろう公爵や侯爵達は狼狽えるだけの者や絶望して呆然としている者がいる。
ただ少し気になるのは……。
「……旦那様、あそこにいる方々は?」
「ん?あぁ、ハーヴェル=カイエナ侯爵だよ。それがどうしたの?」
「いや、少し気になる発言が聴こえまして」
「そう……。因みに何て言っていたのかな?」
「『予定よりも早過ぎる。まさかあの男、我々も一緒に消す気なのかもしれん』と……」
「……ちょっと陛下の所に行ってくる。見張っててもらっていいかな?」
「はい、ちゃんと視ておきますので」
「頼むよ」
旦那様に伝えた所、急いで陛下の下へ走っていった。
その間カイエナ侯爵を視ていたが、一先ずここから動く気配が無い。
留まるという事は、ここが安全なのか?
陛下が騎士に何か指示を出した後、カイエナ侯爵は騎士に案内されて広間を出た。
流石陛下だ、騎士に命令して『ここは危ないので、一先ず応接室に案内します。護衛もこちらで用意しますので』と口八丁で連れ出して、軟禁しておくのだろう。
戻ってきた旦那様がこちらを見て口角を上げた、カッコいい人に笑顔は似合うなぁ。
さて……、僕はどう動くのが正解なのか……。
「旦那様、どうしましょうか?僕も向かった方が良いですか?」
「そうだね……。ユウリが行けば戦力になるのは間違いないないんだけど……」
「駄目だよっ!危ないからここにいよう?ユウリが怪我しちゃうよ」
「フラン様……」
「方舟の騎士団員がいるからすぐにどうこうなる事は無いだろう……。一時は大丈夫だと思うんだけど……」
「何か不安が?」
「あぁ、昨年末から方舟総騎士団長が率いて、第一騎士団と宮廷魔導師団は合同でオスリア大森林の探索に、第二騎士団はクルス火山の方に出向いているんだ。今残っているのは第三〜第五騎士団だけなんだ」
「遠距離からの魔法攻撃手段が無いってことですね・・・」
「無い事は無いんだよ。クランベイン団長が率いる第三騎士団は弓兵と騎馬兵メインだからね。魔法矢を使える者も多くいる」
「じゃあ問題無いんじゃないですか?」
「第四騎士団は主に後方からの支援、第五騎士団は防衛が主な仕事なんだよ。戦えない事は無いけど……」
「攻撃には向かない……ですか」
「あぁ……」
「それなら余計に言っちゃ駄目だよ、ユウリ!」
「フラン、ユウリを困らせてはいけませんよ」
旦那様と僕の話を聞いていたフラン様は、僕を防衛に向かわせないように必死だ。
奥様は興奮するフラン様を宥めているが効果は薄い。
どうしようか考えていると、見知った人物が近付いてきた。
「すまない、少し良いかな?」
「クランベイン団長……。僕は構いませんが……」
「ディーセス辺境伯、不躾で申し訳無いのですが、ユウリを第三騎士団に貸してはいただけないでしょうか?ご存知の通り……」
「あぁ、それが一番だと私も分かっている。ただ、ユウリが忠誠を使った本人が……ね?」
「成る程。……フランお嬢様、王都は今危機的状況に陥りそうになっております。我々の力不足が原因ですが、戦力が少しでも多く欲しいのです。ですのでユウリに手を貸してほしいのですが、許可をいただけませんか?」
「……ユウリに危険はありませんか?」
「必ず守ります。とは言えません。我々が守らなければならないのは王都、この国とその民です」
「……ユウリはこの国の民ではないと言いたいのですか?」
「いえ、違います。ユウリは人を守る力があります。だから守られる側ではない。そう思うのです」
「でも……。もし、ユウリが……」
「クランベイン団長、少しだけお時間よろしいですか?すぐ終わりますので……」
「あぁ。私は少し外そう」
「お心遣い感謝します」
案の定、クランベイン団長は協力を願い出て、フラン様は反対した。
俯き、涙を流すフラン様の元へ行き僕の気持ちを話す。
「フラン様、聞いて下さい。僕はクランベイン団長に付いて行こうと思います」
「でも、それじゃあユウリが……」
「フラン様は僕の力を信じられませんか?」
「そんな事、無い……」
「こんな事言ったらいけないのは承知ですが、敢えて言わせていただきます。僕はこの国の行く末はどうでも良いんです」
「えっ……?」
「僕一人が守れるものなんて限られています。僕が守りたいのはディーセス辺境伯家の皆様、不沈艦の皆さん、そして一番はフラン様、貴女です」
「私……?」
「はい、フラン様に出会えたお陰でこんなに楽しい日々を過ごす事が出来ました。次は僕が恩返しをする番です。フラン様に弓を捧げた騎士として。ディーセス家に仕える【鷹の目】として」
「必ず……、必ず帰ってきてくれる?」
「公の場では本当は駄目なんだろうけど……。今は緊急事態だし良いかな……?大丈夫、僕は必ず君の元へ帰ってくるよ、フラン」
「……っ!?うんっ!うんっ!必ず帰ってきてね!ユウリ!」
「じゃあ行ってくる。旦那様、奥様、セラス様、行って参ります」
「あぁ、この国を……。いやユウリは違うんだったね。情けないけど私達を守ってくれ。よろしく頼む」
「いってらっしゃい。フランの為にも必ず無事戻るんですよ」
「僕は初めて会うけど……。皆の反応を見る限り、君ともっと話したいと思った。だから戻ってきたら色々話を聞かせてほしい」
皆に見送られて扉の方で待つクランベイン団長の元へ急ぐ。
この未曾有の危機、僕の力が何処まで助けになるのか分からないけど、やれるだけやろう。
必ずあの人達の元へ帰る。
もう一度皆の言葉を噛み締めて僕は前を視る。
8/24
五十七射目以前の文章を少し修正作業をしていきます。
話の内容は一切変更しませんので、ここまで読んでいただいてくれた皆様はこのまま読んでいただいても問題ありません。
私の文章力というか小説の基礎知識が足りない部分が露呈してしまっていたらしく、お恥ずかしい限りです。




