第五十七射目
今回は少し文字数多めです。
クランベイン団長との戦いから一夜が明け、今日は旦那様達が国王陛下に新年の挨拶をする為に王城へと向かい、護衛として王都に出向いた僕とソーラさん達は何かあればすぐに駆け付けられるようにしつつも王都の散策に精を出す。
筈だったのに何故か今僕は旦那様達と同じ馬車で王城へと向かっていた。
「……やっぱり僕は逃げても良いでしょうか?本当に本気で」
「そうだねぇ。ユウリが全力で逃げ出そうとすれば私達は誰も捕まえる事が出来ないだろうから勘弁してほしいかな」
「何故いきなり僕まで同行する事になったんでしょうか?」
「さぁ?私達もただ昨日の夜に訪ねてきた者に『ユウリを同行させるように。と陛下からのお達しです』と言われただけだから詳しくは分からないけど……」
「昨日のあれですよね……」
「そうだろうね」
「やっぱり僕はこのままさよならして良いでしょうか?」
「そのせいで私達の首が物理的に飛んでいくのも辞さないのであれば止めないし、止められないよ」
「……その言い方はズルいですよ」
「ユウリ!私は一緒に王城に行けて嬉しいよ!マリアにもユウリを紹介したいし、仲良くなってほしい!」
「ははは……」
フラン様の純粋なお気持ちと視線が痛い。
僕を慰める為に言ってくれているのは分かっているんだけど、その結果マリア様、つまりルナマリア第二王女と面会する事になるなんて泣きっ面に蜂も良いところだ。
「まぁ、ユウリなら礼儀作法は大丈夫だろうから心配は要らないだろうし。きっと昨日の件でお褒めの言葉をいただけるんじゃないかな?」
「自分の国の団長を模擬戦とはいえ打ち負かした者を褒めますかね?」
「敵対しているのであればまた話は変わるけど、そうじゃないなら戦力は多いに越した事はない。それに、模擬戦だけがその人物の実力じゃないのはユウリが一番良く分かっているだろう?」
「それはそうですけど……」
昨日のギルド昇級試験と言う名のクランベイン団長との模擬戦。
僕が勝利を収めたけど、会場の雰囲気は僕を祝福してくれる喜ばしいものだけでは無かった。
一切敵意を隠さずに、僕を危険視する視線が色んな所から向けられるのを感じていた。
結果的に無事黄金級に上がり、旦那様からの課題の一つ【史上最年少且つ史上最速の黄金級への到達】を達成出来た事は嬉しいんだけど。
ゴネても仕方ないのは分かっているけど、王城への馬車の中一縷の望みに掛けて僕は今からでもどうにか出来ないか無駄な努力を続けていた。
そして僕の努力は一切実る事無く、無事王城へと辿り着いた。
御者の人が門兵に伝えて門の中へと通される。
入口には白銀の鎧を着た壮年の男性が待っており、僕らが馬車から降りると綺麗な角度で頭を下げる。
「お待ちしておりました。ディーセス辺境伯とそのご家族様、それに【鷹の目】のユウリ殿。早速ですが私に続き、謁見の間までお願いいたします。扉の前にセラス殿もお待ちです」
「わざわざ君が出迎えてくれるとはね。短い間だけどよろしくお願いするよ、レディオン」
「私もディーセス辺境伯をご案内出来る事を嬉しく思います。さぁ、こちらへどうぞ」
「あの人はレディオン=ミュリアムさん。方舟の第一騎士団副団長で元々は不沈艦の部隊長だった人だよ」
出迎えの騎士と旦那様が仲良さげに話しているのを見て疑問に思っていたのが顔に出ていたのか、フラン様が小声で教えてくれる。
普通は自分の騎士団から上の立場とはいえ他の騎士団に移籍するのを快く思わないだろうけど、旦那様を見る限りそんな雰囲気は感じない。
むしろ、自分の部下が出世してるのを喜んでるようにすら思える。
これも偏に旦那様の人柄なんだろうな。
先頭の二人が和気あいあいと会話しながら王城を進むと一際荘厳な扉の前に出る。
そこにもう一人の人物が笑顔でこちらを見ていた。
「お久し振りです、父上。お元気そうで何よりです」
「セラス、話は聞いているよ。頑張ってるみたいで私も鼻が高い」
「ありがとうございます。でも私もまだまだです。これからも精進したいと思います」
「あぁ、頑張っておくれ。でもくれぐれも身体だけは大切にね」
「はいっ!」
ディーセス辺境伯家の長男のセラス様は旦那様とそっくりで、きっと若い頃の旦那様はこんな感じなんだろうと容易に想像出来た。
「久しぶりの再開で積もる話もあるが、陛下をお待たせするわけにはいかない。そろそろ入ろうか」
扉の前の騎士達にレディオンさんが声を掛けると扉が開かれる。
高い天井と広い空間には扉に負けず劣らず、荘厳な空間が広がっている。
その最奥、数段高い所に鎮座する方々の前まで進み、僕らは片膝をつき、頭を下げる。
「面をあげよ」
声が響くも、誰も頭を上げる事はしない。
面倒だが、それが決まりだからだ。
「良い、面をあげよ」
二度目の言葉でようやく頭を上げる。
玉座に腰掛けこちらを見る男性こそ、シンフォニア王国の国王ノーベルト=フォン=シンフォニア陛下だ。
その横には現第一王妃マチルダ=フォン=シンフォニア様が座っており、その反対側に第一王女のアリステラ様、第二王女ルナマリア様、第二王子のエドワード様が立っている。
「ディーセス卿よ、遠路はるばるご苦労であった。今年の一年もまた其方の活躍を期待しておるぞ」
「ありがたきお言葉。国王陛下に置かれましても――――」
陛下と旦那様とで挨拶の常套句を用いた会話が続く。
ざっくり言えば、
「来てくれてありがとう。今年もよろしく」
「どういたしまして。こちらこそよろしく」
って感じの事を大袈裟に伝えているだけで、中身はスカスカの会話だ。
「さて、いつもならばこれで終わりなのだがもう少し時間をもらって良いか?」
「はっ、勿論にございます」
「すまないな。ディーセス辺境伯家【鷹の目】ユウリよ」
「……はっ」
危ないところだった。
自分は関係無いからと周りを視てたらまさかの陛下から直々に声を掛けられて少し反応が遅れてしまった。
「余から訪ねたい事がある。直答を許す故、其方の思うがままに答えよ」
「はっ」
「まずは先のクランベインとの戦い、見事であった。余の知らぬ所に其方の様な実力を若者が居たとは余も嬉しい限りだ」
「勿体無きお言葉でございます」
「その実力を見込んで提案がある。其方、我が国の誇る騎士団方舟に入らんか?」
やっぱりそうきたか……。
昨日の戦いを見ていたとなれば、自分の手元に置いておきたいと思うのは当然の事だと思う。
失礼だけど、正直今この場にいる騎士達に襲われても一部の人間を除けば負けない自信がある。
勿論、ディーセス家の皆を守りながらの戦いになると、それはまた分野が違うから話は変わるんけど……。
国王陛下からの誘い、断れば不敬どころの騒ぎでは無いが、僕の返事は決まっている。
「私のような者を陛下自らお誘いいただき、誠に嬉しく思います。御命令とあらば、今すぐに方舟として力を奮う所存でございます」
フラン様の不安そうな表情ご眼に入るが、この返事に関してはしょうがない。
この国に住んでいるのであれば、国王陛下からの命令に逆らう事は何人たりとも不可能だ。
そうこれが命令だったら。
「ほぅ……。命令とあらば。か……。命令ではないとしたらどうなのだ?」
「はっ。私の弓は既にディーセス辺境伯、そしてそのご息女であるフラン様に捧げております。故に大変魅力的なお話ですが、ご要望に添う事は出来かねます」
僕の発言と共に広間にどよめきが起こる。
陛下直々の誘いを断ったんだ、不敬罪で牢屋にぶち込まれてもしょうがない言動だから。
「貴様ぁ!陛下自らのお誘いを無下にするとはどういう事だぁ!」
僕を怒鳴りつけるのはエドワード王子だ。
陛下の手前他の人達はそんな事はしないが、多分そうしたい者も少なからずいるだろう。
「良い、エドワード。余の思い付きで申しただけだ」
「しかし、陛下っ!」
「良いと言っているのだ。聞こえなかったか?」
「くっ……。申し訳ございません。出過ぎだ真似を……」
「ユウリもすまなかった。エドワードに悪気はない。気を悪くしないでくれ」
「勿論でございます。エドワード様の陛下や国を想うお気持ちがあるが故だと承知いたしております」
「感謝する。フラン嬢よ」
「は、はいっ!」
「良い騎士を見つけたな。これからも大切にするが良い。決して手放すではないぞ」
「はいっ!私の一生を掛けてユウリを手放す事はいたしませんっ!」
今度は広間内に笑いが起こる。
フラン様は緊張して何で皆が笑っているか分からないみたいだけど・・・。
「それは頼もしい。ではディーセス卿、次の者をそう長く待たせるわけにもいかん。もう少し話を聞きたかったがこので終いとしよう」
「はっ。本日は陛下の貴重お時間をいただき、誠にありがとうございました。失礼いたします」
旦那様が最後の挨拶をした後、僕らは退出する。
騎士の一人が扉を開ける直前、街を守る兵士の一人が扉から無礼を承知で飛び込んできた。
『王都の北方に突如一匹竜と魔獣の軍勢が現れて、こちらに向かってきている』
と最悪の報せと共に。
ユウリの戦闘スタイル的に戦いが簡潔になりやすいので、相対的に今回みたいな政治関連は文字数が多く感じてしまう・・・。




