第五十六射目
《五感強化反転・遮断》
加護で強化される筈の五感を逆に完全に無感覚にする技。
今回は味覚と嗅覚を遮断した。
例えば五感の感覚を水、その感覚器を桶とする。
五つ全ての桶の容量は足して百、それらに注げる水の量も最大百。
人によって差はあるけど、ある程度均等に振り分けられている。
五感超強化はそれらの桶の容量を各百ずつとし、更に注げる水の量も合計五百に出来る加護。
だが、常に全て百にしているとすぐ魔力切れを起こしたり、過負荷が掛かって反動が大きいので普段は多くても一つ辺り七十程の水しか注ぐ事はしない。
それらの桶の内、今回二つを完全に遮断して取り除き、桶を別の桶に追加する事で一つ辺りの容量の底上げをする。
尚且つ、水の量自体は増加した五百のままなので、五つで五百を三つで五百にする。
それにより今までと比べ、更に感覚を研ぎ澄ます事が出来る。
この戦いでは視力に二百と触覚に二百、聴覚が百の計五百を総動員する事にした。
「《上限限定開放》」
通常の強化の更に倍まで強化する《上限限定開放》、ここまで視覚の強化をすると、もう一種の魔眼になる。
目に見えない魔力を完全に可視化し、筋肉の動きすら視えるほぼ透視の状態に加えて、小さい物だと吐息に含まれる水分量すら視える。
触覚強化による空気の振動感知と併用すれば、相手の筋肉の振動と僅かな動きを捉えてほぼ未来視だ。
「お待たせしました。では、参ります!」
「っ!?」
身体の動きを完全に制御した状態の反応速度は人間のそれを軽く凌駕している。
魔空庫の指輪から古代樹の長弓・弐式を取り出し、矢筒は出さず指輪から直接弓に番える様に出す。
それを雨のように相手へと放つが、そこはこの国の最強格の一人。
雷の力を身に纏いながら僕の矢を躱しているが、それが徐々に掠り始めてきた。
疑似的な未来視によって、次にクランベイン団長が何処に動くかを察知して、動き出す直前にその場所に矢を置いておく。
すると、段々動きを制限されて僕の思い通りの方向にしか逃げられる場所が無くなり……。
「そこだ」
とうとう一本の矢が太腿を貫いた。
機動力が削がれたクランベイン団長は足を止めはしないものの明らかに反応が鈍くなっている。
そこに更に三本の弓を番えて当時に放つ。
頭・首・心臓を的確に捉えた僕の矢はクランベイン団長の身体を貫き……、
「やばっ……。やり過ぎた……」
張ってある魔道具の結界をも通り抜けて、何も遮蔽物が無いかの様に闘技場の壁の中へ吸い込まれる様に消えていった。
目を疑う光景だったのだろうか。
クランベイン団長が負けるという衝撃的な展開で静寂に包まれた会場。
少し時間を置いて陛下の試合終了の声が掛かり、歓声も何も起こらない中、僕は逃げるように会場を後にした。
〜試合が終わった直後【三人称視点】〜
「ガルシアと戦った時より更に凄い事になってない?あの子」
「はい。確実にあの時よりも強くなっておりますな。儂とやった時の最後の一射。あれを三射同時に、的確に、しかもその上普通に歩いて退場まで……。いやはや、もうユウリの矢を止められる者はおらんでしょう」
以前の戦いを知っている辺境伯と不沈艦の面々は、ユウリの成長に肝を冷やしていた。
あの頃ですらガルシアの防御を貫いていたのに、今ではその威力かそれ以上を連射する事が出来ている。
つまりはもうこの国にユウリの矢を防ぐ術は存在しない、全ての国を見渡しても存在するか怪しい程だ。
「それに加えて、フランを救出した時に聞いた長射程と鉱山で瞬く間に魔獣を殲滅した隠密性。敵になれば恐ろしいどころの騒ぎでは無いけど、味方であればこれ程心強い者はそういないね」
「これからはユウリが敵対しないよう、我々が頭を下げねばなりませんな」
「本当だよ。フランに頑張ってもらってユウリを誘惑してもらわなきゃね」
「お、おお、おおおお父様!?ゆ、誘惑なんて……」
敵になれば脅威。
けれど、そんな事にはならないと信じてやまない彼らは終始穏やかな雰囲気であった。
「まさかディーセスの若造にあんな隠し玉がいたとはな……」
「はい……。話には聞いていましたが、あれ程とは思ってもおりませんでした」
「計画に支障が出なければ良いが……」
「父上、あまり外でその様な話はしない方が……」
シンフォニア王国を守護する四つの辺境伯家の一つ、北のローリアル家。
領主ミージック=ローリアルとその長男ラジーク=ローリアルは苦虫を潰した様な表情で誰も居なくなった闘技場を見ていた。
所有する騎士団【不夜城】は日々、オスリア大森林から王国に現れる魔獣魔物を討伐しており、対人ではないが実戦経験を多く積んでいる為、他家の騎士団よりも強靭だと自負していた。
しかし今回の事で、ディーセス辺境伯家にユウリがいる事が分かり焦りが出ていた。
二人は部下達を引き連れて早々に立ち去りたい気分だが、国王がまだその場にいる中で自分達だけが席を立つ訳もいかず、もどかしさを感じながらもその場を離れられずに居た。
一方、今回の試験を催しとして許可した国王ノーベルト=フォン=シンフォニアは思わぬ収穫に喜びを隠せずにいた。
まさか、方舟の第三騎士団長であり弓の名手である天弓ロクス=クランベインを一対一の模擬戦とはいえ打ち破るほどの逸材が我が国にいる。
しかも新王派として有名で、娘であるルナマリア第二王女と懇意にしているフラン=ディーセスを娘に持つノイ=ディーセス辺境伯に付いている者であればその喜びはひとしおだ。
「ディーセス辺境伯に伝えよ。明日の謁見にはあのユウリという少年も同行させるようにと」
「はっ。かしこまりました、陛下」
「明日が楽しみだ。戯れが過ぎたと思っておったが、まさかこんな収穫があるとはな」
様々な思惑がユウリを取り囲みつつある中、当の本人は控室でどんな顔して出ていけば良いかを真剣に悩んでいるのであった。
次回からユウリ視点に戻ります。




