第四十二射目
今回は回復薬研究の手伝いが出来る人材の確保。
それの目的で奴隷商に来たので、その条件を伝える。
「最低限の礼儀作法と文字の読み書きが出来て、水系統の加護を持つ方を希望します。職種に関しては錬金系統が一番ですが、優先順位は高くありません」
「年齢や性別に希望はございますか?」
「どちらも特に希望は無いのですが、あまり固定観念が強くない方が有り難いので、そうなると若いほうが良いかもしれません」
「固定観念の点で言えば、錬金系統の職種持ちは逆に向かないかもしれませんね。あとは戦闘能力はどうでしょう?」
「戦えなくても良いのですが、ある程度の自衛能力があると助かります」
「ふむ、そうであれば紹介出来る奴隷も多くなるとは思います。しかし若いとなるとそれだけで値段が上がってしまいますが・・・」
「構いません。と言いたいのですが、金額によっては難しいと思います」
「かしこまりました。条件自体はかなり緩いので該当する者は多く居ます。そこから私が厳選した者と実際に話してみましょう」
「はい、お願いします」
「では、こちらにどうぞ。フランお嬢様もご一緒に」
「はい、ありがとうございます」
ルーデンスさんに連れられ商会の奥にある地下の階段を下る。
見た目は普通の扉で鍵を開けて中に招かれると、そこは僕が昔見た奴隷商会とは全く別物だった。
部屋の廊下側は鉄格子になり、広さはそこまでだけど各自個室が与えられている。
街の安宿よりよっぽど良い環境だ。
ルーデンスさんが選んだ奴隷を紹介してもらいながら、自分の有能さを語る者、自分の魅力を最大限に活かして誘惑するかのような者、何も話さずこちらを見定めるような者と色々な奴隷と接したが、誰も琴線に触れる事はなかった。
一番奥まで来るとそこは普通の宿のようにしっかり扉があり、完全な個室となっていた。
「ここは?」
「こちらは特殊奴隷の部屋でございます。ここの者は先程の説明通り少々込み入った事情持ちが多いのでこうやって個室にしてあります。また、奴隷が自ら主人を選ぶ権利も持ち、拒否する事も可能です」
「相手にも選ばれなければ買えないって事ですか」
「そうです。また、値が張る者や条件が難しい者も多いので、中々買い手がおらず、苦労してるところもあります」
苦笑しながらルーデンスさんが内情を教えてくれた。
「一応紹介の為にご案内いたしましたが、こちらにはユウリ様のご要望に添えるのはおりませんので、下の階も見てみましょうか」
ルーデンスさんが来た道を引き返そうとすると、突如加護が発動した。
周りを視ても危険は無さそうだが、気になる場所が一点あった。
「ルーデンスさん。ここの一番奥、あの部屋の奴隷に会うことは出来ますか?」
「あちらの部屋……ですか……」
そう、この特殊奴隷の部屋の最奥にある部屋に鼻と耳が反応している。
しかし危険な感じもしないので、加護に従い提案したのだが、ルーデンスさんは難色を示している。
「何か問題が?」
「実はここの者の中でも特段ややこしい事情がありまして、お会いした方全てを奴隷自ら断っているのです。それでも?」
「はい、一度話してみたいんです」
何やら思案顔のルーデンスさんだったが、観念した様に案内してくれた。
扉をノックして、声を掛ける。
「クレア。クルト。お客様がお前達にお会いしたいとおっしゃっている。開けるぞ」
鍵を開けて扉を開くとそこは今まで見た部屋より一層広い部屋だった。
トルネネで泊まったあの部屋と遜色無い程。
その部屋の奥にある二つ並んだベッドの片側にベッドから起き上がりこちらを見る女性と、その隣の椅子から敵意を隠す事もせずに睨みつける男性。
女性は月明かりの様な銀色で真っ直ぐの長髪に、切れ長の目から覗く夕暮れの様な朱色の瞳。
布団を掛けているので全身は分からないが、陶器のように白い肌とスラッとした手、そし服の上からでも分かる豊満な胸……って視過ぎては駄目だ。
男性は髪色や目、肌の色は全くの同じだが、髪は顎の位置で綺麗に切れ揃えられており、細身ながらも筋肉質なのが分かる。
「二人共、こちらは……」
「ルーデンスさん、自分で伝えます。はじめまして、僕はディーセス辺境伯家で【鷹の目】役職に就いてるユウリと言います。」
「私はディーセス辺境伯家次女、フラン=ディーセスと申します」
「あら、ご丁寧にどうも。私はクレアと言います。こっちは弟のクルトです」
「…………」
「クレアさんにクルトさんですね、よろしくお願いします」
「よろしくも何も無いっ!早くここから出ていけっ!」
「こら、クルト。そんな事を言っては駄目よ」
「でも姉さん……」
成る程、そっくりなのは二人が姉弟だからか。
そして、最初から気になっていることを聞く。
「失礼ですが、単刀直入にお聞きします。お二人は【狐人族】と人族の混血種ですよね?」
「っつ……!!ルーデンス!お前!」
「待ちなさい、クルト!ユウリ様、それをどちらで?」
「今知りましたよ。僕は人より少しだけ鼻が良いもので。匂いで分かりました。勿論、狐人族特有の銀髪と朱色の瞳ですし」
「狐人族は人族嫌いの方が多いから私は始めて見たけど、ユウリは会った事あるの?」
「……会ったと言える程ではないけどね」
子どもの頃に一度だけで他の公爵家の人が連れているのを見たことがあっただけ。
勿論、奴隷としてだけど。
「ユウリ様を私達をお買いになるおつもりですか?」
「いえ、今日は見に来ただけ。良い方がいれば一緒に帰りたいと思ってはいますが……。ところで私達?」
「はい、私とクルトは二人同時に買っていただけない場合はお断りさせていただいているのです」
「理由を聞いても?」
「そんなの決まっているだろ!下心ばかりの奴から姉さんを守る為だ!」
「そうですか。確かにクレアさんはお綺麗ですもんね」
「ちょっと、ユウリ!?」
「あら、綺麗だなんて。嘘でも嬉しいわ」
「お前の目的もそれか!どうせ人族なんて!」
「いい加減にせんか、クルト!」
「ルーデンスさん、大丈夫ですよ。二人の加護を聞いても良いですか?混血種なら加護を持っている場合もありますよね」
「そうですね。姉のクレアは残念ながら加護は授かっておりません。しかし弟のクルトは下級加護ですが《水の加護》を持っているおります」
「成る程、クレアさんは狐人族の血が濃くて、クルトさんは人族の血が濃いんですね」
「その通りでございます」
「……お二人を買う条件は二人一緒に買う事、それとクレアさんの本当の姿を他人にバラさない事。辺りですかね?」
「ユウリ様は何でもご存知なのですね。そうです、私は今狐人族の固有能力で人族の姿をしております」
「姉さん!こんな奴にわざわざ教えなくても!」
「良いのよクルト。どうせバレていたんだもの、隠す必要無いわ」
「でもっ!どうせこいつも姉さん目当てで・・・」
「あ、勘違いしてるみたいですけど、僕はクルトさんを購入したいと思ってます」
「あらあら。クルト狙いだったのね」
「お、おお、おま、お前ぇぇぇ!」
「まさかユウリ様がその様な……」
「ユウリそうだったの?私知らなかった……」
ちょっと待て。何故そうなる。
流石の僕も堪忍袋の緒が切れたので、全員(クレアさんは除く)を正座させて改めて僕の必要な奴隷の条件を笑顔で、懇切丁寧に教えてあげたのだった。
ユウリ、男好き説浮上。




