第四十射目
ディーセス家の屋敷から馬車で二・三キリルなのですぐに到着した。
モイ商会アリア店本部は国外からの物流を担う入口であり、国外に輸出をする出口でもある。
その為本部の出入りは原則お断り、関係者や一部の認められた者しか入れず、家族ですら無理らしい。
そんな場所の目の前に馬車を止めた……まぁ、警戒されるよね。
今回はディーセス家の紋章入ってない馬車だし。
「貴様ら、ここに何の用だ!」
「すみません、モイ会長にお会いしたくて」
「そのような話は聞いていない!立ち去れ!」
「ユウリ、あれ見せなきゃ」
「あ、そうだった。はい、これを」
「それが何だ……。しょ、少々お待ち下さいっ!」
「あ、急がなくても……って行っちゃった。やっぱりこれ凄いんだね」
「うちの短剣みたいな物なんじゃない?」
「成る程」
懐中時計の話をしていると、先程の兵士が一人の男性と共に戻ってきた。
「ロンさん、お久しぶりです」
「これはこれはユウリ様とフランお嬢様。よくぞいらしてくれました。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
「さ、先程は申し訳ありませんでしたぁ!」
兵士さん、凄い謝ってくる。
「いきなり押し掛けた僕達が悪いんです。頭を上げて下さい」
「ユウリ様のお慈悲に感謝なさい」
「ありがとうございますっ!」
「ロンさん、そんな事言わなくても……」
「いえ、会長の大切なご友人に無礼を働いたのです。上司諸共指導が必要です」
兵士さん、名も知らぬ上司さん、本当にごめんなさい。
各商会にあるマロさん専用の執務室に通されて、マロさんの到着を待っている間、見たこと無いお菓子を出されてフラン様はご機嫌だ。
「これは今度我が商会から売り出す予定の新作ケーキでございます。これ…………」
長い、説明が長いよロンさん。
あ、この黒い飲み物美味しい。
「ロンさん、この飲み物は?」
「これは珈琲と申しまして、特殊な環境下で栽培した豆を・・・」
しまった、聞くんじゃなかった・・・。
話を上手く逸らそう。
「その豆を細かく砕いて水分をしっかり抜けば、挽きたてには劣りそうですけど何処でもお湯さえ注げば飲めますね」
「なっ!なんとっ!?その話詳しく……」
しまった、更に悪化させてしまった。
ただ、思い付いた事を口に出したら思いもよらずロンさんに刺さってしまったらしい。
そんな根掘り葉掘り聞かれても詳しく考えてないけど……いや、これは回復薬にも使えるのかも……?
マロさんを待つ間、フラン様を放置してロンさんと話し込んでしまった。
フラン様、気付いてないだろうと僕のお菓子食べてるのは視えてますからね?
「すまない、待たせてしまった。だがまぁ随分と盛り上がってたみたいだな」
「マロさん、お久しぶりです」
「モイ会長お久しぶりです」
「あぁ、久しぶり。フランお嬢様もお久しぶりでございます」
「モイ会長、私にも気楽に接して下さい。ユウリと友人なら私とも友人です」
「成る程、噂は本当だったんですね。ではお言葉に甘えて少しだけ崩させていただきます」
「ありがとうございます。ではユウリの話を聞いてあげてください」
「分かりました。さてと。ユウリ、今回は挨拶に来ただけではないだろ?」
待て待て待て待て。
噂ってなんだ、噂って。
「その前にマロさん、噂ってなんですか?」
「そりゃユウリがディーセス辺境伯家で【鷹の目】の役職をいただいた話とその他諸々だ」
「うわぁ。流石商人。話が早い」
「僕らにとって情報は最大の武器だからな。早いに越したことはない」
「そうですよねー」
「話の途中に失礼します。会長、先程ユウリ様と話していた件なのですが……」
「構わん。好きにしろ。ユウリが言ったのなら、僕が責任を持つ」
「はっ。早速取り掛かります。契約は?」
「前回と同じだ」
「かしこまりました。では皆様、失礼致します」
「マロさん?さっきのって?」
「ロンがあれだけ食い付いたんだ。ユウリが何か言ったのだろう?だから、許可した。契約は?回復薬と同じ様に結んで金は振り込むから心配するな」
「心配の方向性間違ってるんだよなぁ」
珈琲の粉末化が決まって話も進んで契約も勝手にされてるけど僕の意見や人権はここにありますか?
「言っただろう?早さが大事だと」
「情報の精査も大事だと思いますけど?」
「お前が言ったなら必要無い。信用している」
「誰も彼も信用が重い……」
「モイ会長?何のお話だったんですか?」
フラン様が置いてけぼりになっているので、マロさんが簡単に説明してくれた。
「ユウリの案で我が商会が儲けて、結果ユウリはまた金が入るんです」
「的確だけど凄く雑な説明をありがとう、マロさん」
「それは素晴らしい事です。ね、ユウリ」
「まぁそうなんだけどさ……」
さて、話が終わったところで本題の説明。
「分かった。奴隷商を案内しよう」
「え?マロさんが?」
「僕が行くのが一番話が早いだろう?」
「仕事は……?」
「そんなの全部断るか後回しだ。僕にとって唯一無二の友人を優先して何が悪い」
「それ皆が困るんじゃ」
「だって僕はこの商会の代表だ。問題ない」
「わぁ、清々しい職権乱用」
商会の方には申し訳ないが、話が早く進むのは有り難い。
休みも多い訳ではないし、他にもやらなければいけない事があるからね。
「では早速行こうか。歩いて行ける場所だからそのまま向かって良かろう?」
「フランが良いなら」
「私は大丈夫だよ」
マロさんの許可が出たので僕らはようやく奴隷商に迎えることになった。
毎回何かしらあるから話が進まないと愚痴を呟いたら「そういう星の下に生まれたんだろ」と言われたが何も聞こえない。
話が進まないのはユウリのせいではなく、作者のせいですね。
2023/7/15
奴隷商の話で第二十九射目で触れた部分と第三十九射目に相違がありましたので、一部加筆修正をいたしました。
誠に申し訳ありません。




