第三十九射目
今回はあとがきにいくつかの補足説明があります。
2023/7/15
奴隷商の話で第二十九射目で触れた部分と相違がありましたので、一部加筆修正をいたしました。
誠に申し訳ありません。
僕が【鷹の目】の任に付いて早一ヶ月と少し、来月はもう年末近くになる。
因みに【〜ヶ月】というのはシンフォニア王国独自の日の数え方らしい。
一年が三百日、夏と冬が百日・春と秋が五十日。
それを十日単位で一週間として、ここまでが各国の共通認識。
それを更に五十日で分けてそれを一ヶ月として数えると教えてもらった。
僕が森を出たのが秋の一日目で一週間弱でアリアに到着し、そこから月日が流れて今はもう冬の二十八日目。
イース公国と違って雪は殆ど降らないみたいだが、そこそこ寒くなってきている。
今は地下の錬金室に居るから暑いくらいなんだけどね。
今日は休みの日なんだけど、旦那様に出したもう一つの条件を試したくてここにいる。
『もう一つの条件、それは今までとは違う新しい回復薬を作りたいので、その協力をお願いします』
その言葉の通り、回復薬の開発に着手し始めている。
新しいと言っても効果が変わったり、必要素材が変わる訳でもない。
形状を変えるだけ。
たったそれだけだけど、これが中々難しい。
回復薬自体が完成され過ぎていて、変に手を加えると効果が著しく下がったり、そもそも効果が無くなってしまう。
その為、形状を変えるのにも不純物を混ぜる関係上どうしても失敗が続いてしまう。
効果が少し落ちても最低限の品質を保つようにすれば良いのだが、コストが掛かり過ぎてしまうのもいただけない。
薬草と水。
これだけで造れる回復薬の改良は困難を極めた。
「あ、水に魔力を宿したらどうだろう?そうなると水系統の加護持ちの人がいたら……」
ロビンさんが頭に浮かぶが、不沈艦の人をほいほい借りることは難しいだろうし、いざ必要な時にいないと困る。
「…………駄目だ。ベリックさんにでも相談しよう」
僕は研究所から出て、この時間なら昼食の準備をしているだろうベリックさんを探しに食堂に向かった。
まだ旦那様や奥様方が食堂にいる時間ではないものの、念の為ノックをしてから食堂に入る。
因みに旦那様から出された課題の一つに、「私達の呼び方を変えてほしい」というのがあった。
旦那様と奥様は義父様と義母様との要望があったが却下。
フラン様に関しては、屋敷内か公の場以外は敬語も敬称も使わずに話してほしいとの事。
最初は渋ったものの、結局押し切られてしまったので、今では普通に友人として話している。
「ユウリ殿。昼食はまだになりますよ」
「ベリックさん、僕が食いしん坊だと思ってません……?」
ベリックさんには敬称をやめてほしいと言ったのだが、辺境伯一家と同列に扱われてしまう現在の立場上難しいらしく、様は無し、殿付けで手を打ってもらった。
僕はそのまま、長年辺境伯家に仕えてきた敬意を込めてさん付けで妥協してもらった。
相談してみるとあっさり答えが返ってきた。
「それならば奴隷契約はいかがですか?」
「奴隷……か……」
正直、奴隷に良い印象はない。
イース公国において奴隷に人権は一切無く、物として扱われる存在だった。
実際にそのような場面は何度も見ている。
この国はそのような事は無いらしいが、どうにも……ね。
「ユウリ殿の生まれた国ではどのような扱いをされていたのかは何となくしか分かりませんが、我が国では基本的に酷い扱いをすれば厳しく罰せられるので心配は無用だと思われます」
「基本的に。ですよね」
「はい。心苦しいですが、やはり一部の者はそういった偏見を持ったままの者もおります故……」
「…………」
「ですが知らないで忌避するよりも、ちゃんと知った上で判断された方が良いと思います。不安があるのであれば、信用のある紹介にお願いするのも手です」
「モイ商会ですか?」
「あの国内最大の商会に希望の奴隷がいないと思いますか?」
「無い訳が無い。ですよね」
「その通りです。ユウリ殿なら好条件で購入も可能かと思います」
「そうですね……。一度行ってみようと思います。旦那様は今どちらに?」
「旦那様でしたら執務室に居られると思いますが」
「ありがとうございます。一応許可をいただいてから行ってみようと思います」
ベリックさんにお礼を伝え、食堂を後にする。
まさか自分が奴隷を買うなんて、思ってもみなかった。
勿論、まだ買うのが決まった訳ではないが、知らない事を知らないままにする方が良くないよな。
折角だから休みの日は研究もだけど、自分の知らない事を調べる為に図書館に行ってみようかな。
「良いよ」
旦那様に奴隷購入の許可を得るために執務室を訪ねたら、あっさり許可をもらえた。
「むしろ一人での研究は効率が良くないし、ギルドに行く時間も取れないだろう?」
確かに……。
ギルド階級はこの一ヶ月で鉄階級に上がった。
しかし鉄階級からは遠方の討伐が増えて、時間が掛かってしまい中々数をこなせなくなってしまっている。
それなら、僕がいない時間に研究を手伝ってくれる人材は必要だ。
「奴隷商の紹介は……君には要らないかな?」
「そうですね。モイ商会を訪ねようと思います」
「それなら丁度良い。今モイ会長がこの街に来ているらしいし」
渡りに船とは正にこの事だ。
お礼も兼ねて訪ねてみよう。
「ユウリ君が尋ねれば今日にでも会えるだろうね。馬車を出す事も出来るけどどうする?」
「いえ、自分で行きますよ。場所は一度訪ねたので知って……。やはりお願いしても?」
「私は構わないけど急にどうしたの?」
「さっきから扉の向こうでソワソワしてる方が多分一緒に行こうとしているみたいなので……」
「あぁ……そういう事か。本当だね。フラン、入ってきなさい」
「は、はい……」
急に名前を呼ばれ気まずそうに入ってくるフラン様。
僕と旦那様が揃っていてバレない訳がないのに。
僕はいつも通り五感超強化の加護で、旦那様は英雄級の職種【鑑定王】で見抜いて。
「フラン!これからマロさんの所に向かうけど折角だから一緒に行かない?」
「良いのっ?」
「だって連れて行かないと結局付いてくるつもりだったでしょ?」
「うっ……、そ、それは……」
「フランにも良い社会勉強だ。一緒に行ってくると良いよ。ユウリ君が一緒なら護衛としても申し分ない筈だろう?」
「は、はい!ユウリ、一緒に行かせてもらうね!」
「うん、喜んで」
こうして初の奴隷商訪問はフラン様と二人でのお出掛けとなった。
因みに頭の中ではついフランではなく、フラン様と呼んでしまうのはどうしょうもない癖である。
【補足説明】
・ノイ=ディーセス辺境伯の職種
英雄級の職種【鑑定王】
生物・無機物問わず、相手の事を知ることが出来る職種【鑑定使い】の英雄級。
等級によって、知る事が出来る情報が違う。
鑑定王となれば、余程強い封印や認知阻害がかけられてなければ知りたい情報の殆どを知る事が可能となり、多少の遮蔽物であれば透過して鑑定する事も出来る。
また、副産物として相手の発言の真偽も見抜けるが、虚実が混じる発言は使用者本人の知識や精査する能力が問われる。
マウロ=モイが普段から使用する鑑定の単眼鏡は上級の鑑定師程度になる。
現ディーセス辺境伯ノイ=ディーセスはこの職種により、他の辺境伯の中でも一番強い発言力を有している。
・シンフォニア王国内最大の貴族階級
権限の強い順に左から、
王>王妃≧継承権のある王族>その他王族>公爵>侯爵=辺境伯>伯爵>子爵>男爵>>>(騎士爵)
となり、基本的にはこの階級は絶対である。
なお、年功序列や古くから続く家系の発言力も少なからずあるので、必ずしもではないらしいが。




