第三十八射目
2023/1/13
コメントでご指摘いただいた部分を修正・変更いたしました。
修正前
マロさんを頼るか自分で最終的するので辞退させてもらう。
修正後
マロさんを頼るか自分で採集するので辞退させてもらった。
ご指摘いただきありがとうございます。
住み込みの家庭教師になると決まってからは慌ただしく、じゃあ本日からとはならなかった。
最初は何処の部屋を借りるか。
辺境伯夫婦は「もう実質家族なんだから」とフラン様と同室にしようとしたり、それが無理なら隣にしようとしたり。
結局、執事長のベリックさんから窘められて、今日寝ていた客間をそのまま僕の部屋として借りることにした。
因みに僕とフラン様は二人の勢いとベリックさんの圧であわあわしていただけ。
次は報酬の話。
僕的には屋敷の一室を借りて、食事も出してくれると言われたので辞退しようとしたのだが、それでは体裁がよろしくない。
そこで、最初に会った執事のクライヴさんの報酬と同等を申し出たがそれもまたベリックさんに「一従者と専属指導者は一緒にするのは良くない」と言われて、妥協案としてこの屋敷の従者を取り仕切るベリックさんと同等の一週間で銀貨三十枚、年間金貨九枚となった。
それに加えて、モイさんからの契約金と売上金もあるからそこそこの小金持ちではないだろうか?
その後の服装や家具の話だったが、そこはスムーズだった。
服に関しては爺ちゃんが造ってくれた物以上は中々無いので、普段はそのまま礼服のみを数点お願いすることにした。
家具はとりあえず備え付けの物で問題なさそうだった。
一つだけ、僕からお願いしたのは回復薬等の制作場所。
モイ商会に行けば実質無料で貰えるが、自分でも造れる分は造っておきたいので、専用の大鍋と火を取り扱える場所が欲しかった。
しかし、意外とスムーズにその問題も解決した。
それはこの屋敷の地下4階、錬金工房や武具工房が作られており、空いてる時間に好きに使って良いとのこと。
また、必要な薬草類も言ってもらえれば用意出来るらしい。
それに関してはマロさんを頼るか自分で採集するので辞退させてもらった。
その他細かいところを決めていったら後は任命式。
屋敷の庭には今ここにいる辺境伯一家と不沈艦の面々が整列揃っていた。
辺境伯閣下こらの一言と、僕からの簡単な自己紹介と挨拶。
それとディーセス家の家紋入りの銀の短剣を渡された。
これがあればディーセス家に雇われている者ではなく、縁のある者として扱われるそうだ。
逆にこれを使って良からぬ事をすれば、ディーセス家の名に傷を付けてしまう。
基本的には必要な際に使用したり、身分の証明として扱う。
そしてもう一つ、フラン様専属家庭教師兼不沈艦指導者及びお目付け役の立場を授かり、長すぎるので役職名が付けられた。
その名は、【鷹の目】。
立場上はディーセス家の者だが、あくまで第三者として、俯瞰的に全体を視れる僕の加護から付けられた名前だ。
役職名が付けられるなんて聞いてなかったから皆の前で吃驚して笑われたけど、悪い気はしなかった。
その夕食後、改めて辺境伯閣下の執務室に呼ばれた。
部屋に入ると、ガルシア団長とベリックさんもいる。
「今日一日お疲れ様。疲れはないかい?」
この方はいつも相手を気遣っている。
貴族としては変わり者だろうが、そういうところが皆に好かれる理由だろう。
僕は苦手だけど。
「はい、一応元貴族ですので」
「ははっ、そうだよね。じゃあベリックも怖いしすぐにでも本題に入ろうか」
「旦那様、相変わらず一言余計です」
「僕はそういう性格だからね」
悪びれもせずからからと笑う辺境伯閣下とため息を付きながら話を催促するベリックさん、良い組み合わせなのかもしれない。
「さて、ユウリ君。今日から【鷹の目】としての任に付いたわけだけど、君に対して私からいくつかの課題を出したい」
「はい、なんなりと」
「まず一つ、冒険者ギルドに登録しているよね?君は今一番下の石階級だ。それを一年で最低でも銀階級、出来れば黄金階級まで上げてほしい」
一年で銀もしくは黄金階級か……。
一つの街にも黄金階級は数人しかいない程の実力者だ、そんな簡単になれるもんじゃない。
「案ずるな。一年でそこまで階級を上げるのは簡単な事ではないが、前例がおらん訳ではない」
「まさか自分がそうだったとか言わないですよね」
「そのまさかですよ。ガルシア殿は史上最速の黄金階級到達者です」
「とは言ったものの儂が登録したのは二十の時で、一年と夏丸々使ってしまったからな」
「それをいえばベリック、君は最年少銀階級到達者だろう?十七歳でだったかな?」
「昔の話です」
つまり、化け物が二人も目の前にいるって事ですね。
そして僕は、この二人を超えなければならないと。
「……史上最速・最年少で黄金階級まで到達出来なかった場合は?」
「さぁ、どうしようか?そこは出来ると信じてるから考えてないや」
いや、信頼が重い。
「次に二つ目だが、君の造る回復薬をわたし達に提供してほしい。勿論、その分の報酬は払うよ」
「それに関しては報酬は必要ありません。その代わりに二つお願いがあります」
「……続きを」
「一つはこれです」
僕は腰に付けているポーチを差し出した。
「これは……魔法鞄……かな?」
「そうです。爺ちゃんが造った最小の魔法鞄になります。因みに容量は大体この部屋一つ分より少し小さい程度。これの量産をお抱えの錬金の加護持ちの方々にお願いします。こちらは研究の為に提供しますので」
「成る程……。期限は?」
「一年以内に」
「……もし出来なかったら?」
「出来ると信用していますので考えていません」
「ふっ。ユウリよ、お館様に意趣返しとは中々やりおる」
「全く、私の部下を過労死させる気かな?」
「その言葉そっくりそのままお返しします」
「旦那様、私達の負けでしょうな」
「そうだね、じゃあもう一つの条件を聞こうかな」
「次の提案は辺境伯閣下に個人的にお願いしたいことで……」
こうして、辺境伯閣下からの課題と僕の提案を確認し、煮詰めていきながら夜は更けていった。




