第二十六射目
待ちに待った朝食……の前に、まずは衛兵隊や門兵との情報の共有があり、その後に遅めの朝食もとい、昼食になってしまったので予定していた食料の調達は出来ずに時間が過ぎていった。
「あぁー、もう昼過ぎになっちゃった」
「これではユウリ様との街の散策も出来ませんねぇ」
「いやいや、二人共。あんな事の後に二人だけで街ブラなんてさせる訳ないでしょう」
「ユウリ様がいれば心強い護衛になりますよ?」
フラン様、それリックさんの心の傷を抉るだけですよ?
「ぐっ……。でも確かに自分の力不足を実感しましたよ。多分俺以上に副隊長や先輩は感じているでしょうけど」
確かに、リックさんと違ってあの二人は戦闘向きの職種だ。
特にロビンさんはクウネルと直接戦って手も足も出なかったんだから、より悔しい筈。
「にしても、本当にユウリは何者?あんな奴をいとも簡単に追い詰めるなんてうちでも隊長級か副団長に近い実力あるんじゃない?」
「はは。爺ちゃんが厳しかったもので」
「あいつよりも強かった?」
「そうですね、戦い方が違うので直接比べることは難しいですけど少なくともあの人には負ける気がしなかったです」
「ユウリの爺ちゃんえげつないな」
何故か爺ちゃんの話で盛り上がりつつ、僕らが向かっているのは実質的なこの街の長、マウロ=モイの屋敷だ。
朝食中に使いの者が来て、ソーラさんとロビンさんは情報共有後直ぐに向かい、僕らは食事を終えた後に向かう事になった。
着いたのは住宅街のど真ん中、一際大きい屋敷が建っている場所の前だ。
これ、そこら辺の貴族の家より遥かに大きいような気がするけど揉め事とかは起きないのかな?
「遅くなりましたー。フラン様達をお連れしました」
「お待ちしておりました。旦那様とお連れ様の下へ案内しろ」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
メイドさんに連れられて屋敷の中に入ると高そうな装飾品や調度品がこれでもかと並べられている。
それよりも気になるのが……。
「メイドさん……。獣人?」
「はい、私は犬の獣人と呼ばれる、【犬人族】です」
「珍しいですね」
「旦那様は能力さえあれば性別や年齢、種族すら関係なく自分の部下として雇っております」
「奴隷としてでしょうか?」
「奴隷以外も多いですよ。勿論、奴隷として買われた者もおります。借金奴隷の場合は買われた金額分の仕事をしたと見なされれば奴隷から開放されます」
「開放された後はどうしてるんですか?」
「殆どの者はそのままこちらにお世話になっておりますね」
「成る程、それだけの魅力がある人物なんですね」
国内屈指の商人マウロ=モイの人柄が何となく分かった気がする。
そんな話を聞いている間に到着したみたいだ。
犬耳メイドさんがノックして中に招き入れられる。
「御無沙汰しております、フランお嬢様」
「そちらもお元気そうですね、モイ様」
「そして、貴男がユウリ様ですね。お初にお目にかかります。私はマウロ=モイ。しがない商人でございます」
「初めまして。ユウリと言います。こんな屋敷を持った方がしがない商人だとしたら、他の商人はおままごとですね」
「これは中々、話に聞いた通り度胸のある方だ」
「何を聞いたのか気になりますが、今は素直に称賛と受け取っておきます」
扉から入ったフラン様にソファから立ち上がり一礼とともに挨拶を述べた人物。
綺麗な白髪頭をオールバックにまとめ、商人というよりはウィルみたいな上位貴族の執事みたいな方だ。
「立ち話もなんですし、そちらに掛けられてください」
「ありがとうございます」
「お二人にもお茶を持ってこい」
「かしこまりました」
声をかけられたメイドが直ぐにお茶を準備してくれた。
「貴男はお座りにならないんですか?」
「私は秘書として、マウロ様に従事する身。一緒の席に着くなど有り得ません」
「……?そうなんですか?分かりました。差し出がましい事を言って申し訳ありません」
「すまないな。日頃からもっと柔軟に対応しろと言っているのだが」
「……いえ、問題ありません」
僕の様子を不思議に思ったソーラさんに声を掛けられた。
「どうした、ユウリ君。何だか納得してない顔だが」
「いや、特に。ただ、何で秘書さんが座って、モイ様が立っているんだろうって不思議だっただけです。色んな考え方があるんだなぁと」
「ゆ、ユウリ君!?君は……」
「すみません。失礼でしたよね……」
ソーラさんが吃驚している様子を見て、自分が失礼な発言をたのかと思ったが、僕の横で大きな笑い声が聞こえた。
自称マウロ=モイと秘書?が笑っていたのだ。
「こんなに笑ったのは久し振りだ。ロン、もう良いぞ。僕が替わる」
「はい、どうぞこちらに」
「うむ。失礼したな、少年。僕が正真正銘、商人ギルドの長マウロ=モイだ」
「改めまして、ユウリと申します」
改めて挨拶を交わす僕とモイ様。
「ユウリ、知っていたの?ロンさんがモイ様の偽物だって」
「僕この国についてまだ3日目ですよ?知っていると思います?」
「だろうな。という事はユウリ君は見てから気付いたのか」
「はい、ロンさんの言動は上に立つ者ではなく、誰かに従う雰囲気でした。それに一番は……」
「一番は……?」
「そこは秘密にしときます。秘密は商人の武器ですもんね、モイ様」
「確かにその通りだな。ユウリと言ったか。僕は有能な人間が大好きだ。良ければ我が商会で働かないか?」
「有り難い話ですが、お断りさせていただきます」
「即決か。理由を聞いても?」
「僕には先約がありまして。フラン様をアリアまで無事送り届けなければいけません」
シンフォニア王国内を色々見て回れる商人も魅力的ではあるんだけど、最初にした約束すら守れない人間が商人に向いている訳ない。
「それは残念だ。だが僕は君を気に入った。力になれる事があればいつでも力になろう」
「そんなに気に入ってもらえるなんて……。僕、何かしましたか?」
「そこは私からご説明をいたします」
「私とロビンさんはもう一通り話を聞いている。あとはお嬢様とユウリ君次第だ」
「私達次第?」
「ねぇ副隊長、俺は?」
「お前は決定に従え」
「はーい」
とりあえず気に入ってもらえて満足だが、今から一体何を聞かされるのやら。
こっち系の話し合いよりも、今朝の戦いの方がよっぽど楽だなと感じる僕だった。
【補足説明(2023/8/27追記)】
・魔封じの魔道具がユウリに効かない理由
魔封じはあくまで[魔力を体外から出すのを妨げる]魔道具なので、体内で魔力を練って、感覚器の感度を上げるだけのユウリの五感超強化には効かない。




