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web拍手お礼小話②もしもアリアとディドがカメラ好きだったら

※念の為 もう一度注意書き※




3話同時更新の残り2話(前のページこのページと)は、擬人化現代ifのSSです。

連載初期にweb拍手お礼小話にしていたもので、本編とはほぼ別物です。

タイトル通り、2人が人間で、現代の某国(英語圏の国)で暮らしている設定です。

好みに合わないと思う方は、ここでお帰りください。

目に入らないように、余白を多めに入れてあります。

大丈夫な方は、スクロールしてお進みください。










































※設定


ディド:40歳。プロカメラマン。三年前から隠居中

アリア:17歳。アルバイト。写真はある目的のため

ウィル:25歳。プロモデル兼モデルクラブ幹部


ディドさん視点です。


☆☆☆☆☆☆☆


 写真を始めて三十年、プロのカメラマンになって二十年が経った。

 偶然と運に恵まれて、一流と呼ばれるまでになったが、仕事に追われているうちに、自分が何を撮りたかったのかがわからなくなった。

 都会と人づきあいに疲れて、田舎の土地を買って隠居した。

 私有地の中の森や湖や時折現れる動物を撮っても、心が動かない。

 自分が求めていたものを探してWebをさまよっていた時に、その写真ブログを見つけた。

 初期設定ばかりのごくそっけないデザインで、アップされているのは青空の写真だけ。それに『AA』と名乗る管理人の短いコメントがついていた。

 かなり解像度の低いデジカメで撮っているらしく、鮮明さはないし、ほぼ毎回同じ時間帯に同じ場所から撮っているようで、目新しさもない。

 ありふれた素人のブログだったが、その写真とコメントに、なぜか興味をひかれた。


『風が強い。追いかけることもできない速さで雲が流れていく』


『三日ぶりの晴れ。町も空も洗われて、いつより少し綺麗』


『羊雲。あたたかそう。さわってみたい』


 コメントから推察すると、管理人は十代後半から二十代前半の、おそらくは女性だろう。

 見つけた時点で投稿されていた数十枚の写真を、コメントを読みながらさかのぼっていく。

 最初の一枚にたどりつくと、今までより長いコメントがついていた。


『あの日、父さんと母さんと兄さんと一緒に見た空。

 雲ひとつなく晴れわたって、淡く澄んで、きれいで、みんなが笑ってた。

 もう二度と見られないと、わかってる。

 それでも、もう一度見てみたい。

 だから、写真を撮ってみる』


 意味深な内容だった。

 おそらく、一緒に見た家族は、死別したか離別したかで、会えないのだろう。

 家族と一緒に空を見た時の、幸せなきもちを思い出したい、という意味だろうか。

 過去にとらわれているようで、前向きな意思も感じられた。


 最初からもう一度、今度は感想を書きこんだ相手への返信も読みながら、写真を見ていく。

 断片的だが、管理人について、いくつかのことがわかった。

 働いていて、昼休みに食事で外に出たついでに写真を撮っている。

 写真を撮っているのもブログのアップに使っているのもスマートフォンで、選んだ理由は両方できるから。パソコンは持っていないようだ。

 スマートフォンを買うのに貯金のほとんどをつぎこんだが、それでも最低ランクの物しか買えなかった。生活はかなり厳しいようだ。

 写真を撮るだけでなくWeb上のブログにアップするのは、もし元データがなくなってもWeb上に残るから。おそらく家族と別れた時に、家族の写真もなくしてしまったのだろう。


 家族と別れ、厳しい生活をしていながらも、AAのコメントには、どこか強さがあった。

 都会から逃げ出してひきこもっている自分にはない強さだ。

 その強さに、惹かれた。

 その日以来、AAのブログをチェックするのが日課になった。


☆☆☆☆☆☆☆


 最初は見ているだけだったが、一ヶ月すぎた頃から、AAのブログに感想を書きこむようになった。

 『雲がきれいだ』とか『角度をもう少し上げるといい』とか、簡単な感想や技術的なアドバイスだ。

 AAは、『ありがとう』とか『試してみる』とか、短いながらも毎回律儀に返事をくれた。

 他の感想を書きこむ者にも同じように返事をしているから、自分だけが特別ではないとわかっていても、答えてくれることが嬉しかった。

 『DD』と名乗って短いやりとりを続けるうちに、だんだんAAに会いたいと思うようになった。

 短いやりとりだけでなく、もっといろんな話をしたい。

 Webが発達した今なら、直接会うのは無理でも、チャットなどで会話ができる。

 だが、顔も名前も知らない、しかも生活に追われている相手に、働く必要がないうえにかなり年上の自分と話す時間を作ってくれとは、言えなかった。

 そんな時間があったら、きっと寝ていたいだろう。

 そう思いながらも、AAと会って話をしたいと思うきもちは、日々募っていた。


☆☆☆☆☆☆☆


 AAのブログを見つけてから、半年近くがすぎた。

 その日の写真は、きれいに晴れた空だったが、全体的に白っぽかった。

 コメントには『晴れすぎてまぶしい。光が強くてうまく撮れなかった』とあった。

 晴天の空を撮るのは、高性能な一眼レフでも難しい。

 スマートフォンなら、よけい難しいだろう。

 しばらく考えてから、感想を書きこむ。


『スマートフォンでは難しいだろうな。デジカメを買ったらどうだ? 中古ならそんなに高くない。

 明るさやピントも自動で調整かかるから、撮りやすいぞ』


 夜になって、AAから返事がきた。


『そんなお金ない。

 それに、高いカメラを使って、納得できる写真が撮れたとしても、満足できる写真は撮れないだろうから、スマートフォンでいい』


「……っ」


 それを読んだ瞬間、心をぐさりと刺された気がした。

 AAが撮りたいのは、見たいのは、『きれいな空』じゃない。

 きれいだねと家族と笑いあえる空、いや、きれいだねと笑う家族の顔なのだ。

 技術には意味がないのだ。

 わかっていたつもりのことが心に刺さるのは、隠居前の数年間、『技術的に納得できる写真』ばかり撮っていたからだ。

 『自分が満足できる写真』を、撮れていなかった。

 仕事としては最善を尽くしていたが、自分の心には響かなかった。

 だから、写真を続けられなくなったのだ。

 そんな簡単なことに気づかず逃げて、自分の半分ほどの年齢らしい少女に教えられるとは、滑稽だ。

 思わず苦笑いがもれる。

 ゆっくりと息を吐いて、突然今までにない強い欲求がこみあげる。



 AAに、会いたい。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 AAがいつも写真を撮っている場所は、予想がついていた。

 時々写真の隅に写る不思議なデザインの尖塔に、見覚えがあった。

 あの角度で見えるのは、中央公園の南東ゲートからしばらく中央に進んで、噴水のまわりにベンチがある小さな広場だ。

 若い頃にその近くに住んでいて、よくそこで休憩ついでに噴水の写真や尖塔の写真を撮っていたから、間違いないだろう。

 昼間そこに行けば、AAに会えるはずだ。

 顔も名前も知らないが、スマートフォンで空の写真を撮っている女性がいれば、それがAAだろう。



 数年ぶりに訪れた街は、相変わらず人が多くて忙しなかった。

 ホテルで一泊して時間を調整して、昼頃に公園に向かう。

 公園沿いの歩道を歩いていると、横を通りすぎた高級車が数メートル先で急停止した。

「ディド! やっぱりディドだね!」

 降りてきた青年を見て、思わず舌打ちする。

 国内最大手のモデルクラブの社長の息子で、自分自身もモデルとして活躍しているウィルだ。

 そういえば、ウィルの屋敷はこの公園の近くだった。

 ナニーに連れられて公園で遊んでいた幼いウィルの写真を撮ったのが、俺のプロデビューのきっかけだった。

 現像して渡したその写真を見たウィルの父親に気に入られて、ウィルがキッズモデルとしてデビューする際の写真を頼まれて、その後ウィルが一躍有名になり、モデルクラブの専属カメラマンに雇われた俺も名前が売れていった。

 感謝してはいるが、今一番会いたくない奴だった。

「……用事があるから、またな」

 そっけなく言って横を通りすぎようとしたが、ウィルは後をついてくる。

「三年ぶりに会えたのに、つれないな。

 ようやく復帰してくれる気になったのかい?」

「その気はない」

「だけど、写真はやめられないんだろう?」

 にっこり笑って言われて、また舌打ちする。

 AAに話しかけるきっかけにするために、デジカメを肩から下げていたのを、目ざとく見つけられたようだ。



「……写真をやめないのと、復帰するのとは別だ」

 南東ゲートから、公園の中に入る。

 それでもウィルはついてくる。

「そうかもしれないが、可能性がないわけでもないだろう?

 君以外に撮られた写真では、どうも納得できないんだ。

 私のために、戻ってきてくれないか」

 初めて写真を撮った時から、ウィルはなぜか俺になついていた。

 父親も母親も元モデルなのに、ウィルは写真嫌いで、誰がカメラを向けてもすぐ泣きわめいて、まともな写真が撮れなかったらしい。

 なのに俺には満面の笑みの写真を撮らせたから、ウィルの父親は驚きつつもチャンスだと俺に依頼してきたのだ。

 五歳でデビューしてから十年間、俺以外には撮らせないままだったのは、父親にも俺にも予想外だったが。

 高校に入ったウィルは心身共に成長したのか、俺の仕事が増えてスケジュールの都合がつかない時は他の者にも撮らせるようになったが、俺へのなつきっぷりは変わらず、会えば仔犬のようにようにまとわりついてくる。

 売れてる俺達への嫉妬から、面倒な噂を立てられたこともあったほどだ。

 今思えば、ウィル絡みの人間関係の対処に疲れたのが、隠居を決めた理由の一つだった。



「人に会う用事があるんだ。ついてくるな」

 きっぱり言っても、ウィルはひるまない。

「だったら、終わるまで待ってるよ。

 私はどうしても君を諦めることはできないんだ」

 まるでくどき文句のような言葉は、この三年間ずっとメールや電話で聞かされ続けている。

 問答は諦めて、ひたすら早足で歩く。

 目的の広場について、ぐるりと見回すと、奥のほうに細身の女性が見えた。

 無造作に結んだ青みがかった銀髪を風になびかせながら、スマートフォンを空に向けている。

 後ろ姿だが、間違いないだろう。

 女性はスマートフォンをおろし、何か操作する。

 深呼吸してから、ゆっくり近づいた。

「やあ。いい写真撮れたかい?」

 なにげなさを装って声をかけると、女性はびくりとしてふりむく。

 淡い空色の瞳にまっすぐに見つめられて、息が止まった。

 ややきつい印象があるが、文句なしの美少女だ。

 一流モデルを見慣れた俺でさえ、目を奪われる。

 だが、少女の警戒するような表情を見て、我に返った。

 肩からかけていたカメラをつかんで、軽くかかげて見せる。

「俺もここからよく写真を撮ってたんだが、今の季節のこの時間帯に晴れてると、光が強すぎてうまく撮れないだろ」

 カメラ仲間だとアピールすると、少女のまなざしが少しだけゆるむ。

 それに内心ほっとして、もう一歩近づこうとした時、横から大声がした。



「君っ、モデルにならないか!?」



 俺の横をすりぬけたウィルが、興奮した口調で言いながら少女に近づく。

 少女が明らかに警戒した表情で後ずさったのを見て、とっさにその襟首をつかんで止めた。

「ぅぐっ、何するんだディド」

「うるさい、勝手に割りこんでおいて文句を言うな。

 しかも怪しすぎるぞ」

「何言ってるんだ、あんな素晴らしい素材を無視するなんて、できるわけないだろう!」

 ウィルは俺の手から逃れようとじたばた暴れて、少女がさらに後ずさった。

 今にも逃げられそうで、あわててカメラを離し、ウィルの首を抱えこむ。

「すまん、こいつは某モデルクラブの社長の息子で、いずれ後を継ぐから、スカウトもやってるんだ。

 怪しいが、悪い奴じゃないんだ」

「その言い方はひどいぞ」

 押さえこまれたままウィルが文句を言うが、無視する。

「…………」

 少女は黙ったまま、俺とウィルを見比べる。

「……モデルクラブの人って、悪い奴でしょう?」

 初めて聞いた声は、見た目と同じく硬質だったが、少女の雰囲気には合っていた。

「いや、まあ確かに悪い奴も多いが、こいつのところはまともだ。

 ……嫌な思い出でもあるのか?」

 これほどの美少女なら、スカウトの奴らが放っておかないだろう。

 中には強引な奴もいて、悪い印象を持っているのかもしれない。



「……家族が死んだ後、大家に売り飛ばされたモデルクラブで、客を取らされそうになった」

「なっ……」

 少女が言った内容は予想以上にひどくて、言葉を失う。

 腕の中のウィルも驚いたのか、もがくのをやめて少女を見つめる。

 深呼吸してきもちをおちつけて、慎重に言葉を選ぶ。

「……自力で、逃げだしたのか?」

 『取らされそうになった』ということは、未遂ですんだ、はずだ。

「……私は、笑えなかったから、客に嫌がられて、愛想よくできるようになるまで飯抜きだって、物置に閉じこめられた。

 餓死する直前に、警察が踏みこんできて、助けてもらった」

「……そうか……」

 それを『良かった』と言っていいのかはわからないが、とりあえず安堵する。

「……その後入れられた孤児院で、モデルクラブのスカウトは売春宿と結託してるから、モデルにならないかって声かけられても絶対ついてっちゃだめだと、年上の女の子が教えてくれた」

「……なるほどな」

 それなら警戒されて当然だ。


「……確かにそういうモデルクラブも多いが、こいつのところはまともだから、心配はいらない。

 そもそも、モデルのスカウトに来たわけじゃないんだ」

「なっ、じゃあいったい」

「おまえは黙ってろ、話が進まない」

 わめくウィルの口をふさいで、また警戒する表情になった少女を見る。

「俺の名前はディドという。

 職業は、一応プロのカメラマンだ。

 君の名前を、教えてくれないか」

 静かに言うと、少女はしばらく迷うような間を置いてから、小さな声で答える。

「……アリア」

「アリア、か。いい名前だ」

 やはり、AAで間違いないようだ。

 あんなに会いたいと思っていたのに、本人を目の前にすると、何をしたかったのかわからなくなる。

 だが、さっきの話を聞いていて、思いついたことがあった。



「……さっきも言ったが、俺は一応プロのカメラマンだ。

 君が『満足できる写真』を撮る手伝いを、させてくれないか?」

 少女……アリアはしばらく戸惑うような表情で俺を見ていたが、何かを思いついたように瞬きをする。

「……ディド……『DD』?」

 気づいてもらえたことが嬉しくて、思わず笑みを浮かべる。

「そうだ、『AA』。

 リアルでははじめまして、だな」

「……はじめまして。

 でも……どうして?」

「さっき言ったとおり、君の手伝いをさせてほしくなったんだ。

 とりあえずは、俺の助手にならないか?

 ここ三年ほどは隠居してたが、一応一流と言われてたから、給料も待遇も今のバイトより良いのは保証する」

「……どうして?」

 くりかえされる問いは当然で、苦笑する。

「理由はいろいろあるが、一番簡単なのは、君の写真が好きだから、だな。

 今は生活に苦労してるみたいだから、自由になった君がどんな写真を撮るのか、見てみたいんだ」

「……私が撮る、写真?」

「ああ。

 カメラを変えるだけでも、撮れる物の幅が広がる。

 技術だけじゃ意味ないことはわかってるが、技術があれば、君が『満足できる写真』を撮るのに役立つはずだ」

「…………」

 アリアはまだ迷う表情で俺を見ていたが、はっとして腕時計に視線をやる。



「……昼休み、終わっちゃう」

「ああ、そうだったな、悪かった。

 仕事が終わるのは何時だ?」

「……6時だけど」

「ここでまた会えないか?

 今日が無理なら、明日の昼、この時間にまた来る」

「…………」

 アリアはじっと俺を見つめた後、スマートフォンをポケットに入れる。

「……今日、6時15分に、ここで」

 約束をくれたことにほっとしてうなずく。

「わかった、6時15分だな。

 ああ、こいつは追い払っておくから、安心してくれ」

「……ん」

「ひどいぞディ……っ」

 ウィルが何かわめこうとするのを、再び口を押さえて封じる。

「仕事がんばってこい。

 後で、またな」

「……うん」

 こくりとうなずいたアリアは、早足で歩きさっていく。

 その姿を見送りながら、うめいているウィルをどう片付けようか考えていた。

ウィルさんの残念さと扱いのひどさは通常運転です(笑)。

  


お読みいただき、ありがとうございました。

☆とかリアクションとか感想とか、なんでもかまわないので、反応をいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
うおおおお!!! 数年を経て、また読めるとは…… 何度も読み返してたら新作と言うか、投稿されてて嬉しいです!!
書籍化されたのですね、おめでとう御座います。 この小説の世界観?2人の関係性?みたいな雰囲気が好きなので、おまけでも読めて嬉しいです。 ありがとうございました♪
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