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あの日、あの時、あの場所で。【BL】  作者: 杷木 うきは
第1章 三峰と四ツ谷

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第9話 視線に込めるもの



 四ツ谷が最初に言った通り、何度も弓道衣を着付けられているうちに、いつの間にか自分で着られるようになっていた。


 三峰が自分で出来ると分かってからは、四ツ谷はさっさと着替えて先に弓道場へ行ってしまうようになった。




「四ツ谷ー、お待たせ...」



「最近はもう三峰の専属コーチだな。」

「まぁな。結構上達してきたっしょ?」

  既に準備を終えていた四ツ谷と相澤が三峰自身の話をしていたので、黙って四ツ谷の横に控えておく。


「教え方が良かったんじゃない?まぁ日吉先輩の教え方まんまだったけど。」

 相澤の言葉に、四ツ谷はハッとした表情をした後みるみる青ざめていった。



「三峰!ごめん。ベタベタして気持ち悪かったよな...」

「んぇ?!...いや。全然気持ち悪くないけど...?」

 急に謝られたこともそうだが、珍しくしおらしい様子の四ツ谷に驚いて、なんと返事したらいいか戸惑う。



「日吉先輩って四ツ谷にだけ距離近かったもんなー。よく1年も耐えたよ。」

 相澤の言葉で弓道部の人間関係と、四ツ谷の表情の理由が察せられた。



「三峰...ほんとに気持ち悪くなかった?」

「うん。全くそんなこと思わなかったよ。四ツ谷に下心無いのは分かってるし...。」

 どちらかというと自分の方が邪な感情を抱きかけていたので言葉尻が弱くなっていく。


「......確かにな。じゃ、いっか。」

 三峰の言葉に四ツ谷はしばらく考え込んだが、納得してくれたようだ。





「もっと力抜いて。」

 授業が始まると、今まで通りの距離感で指導をされるが、いつも以上に優しい。なまじ良い声をしているので気を抜くと意識を持っていかれそうになる。



(やっぱりもう少し距離を取ってって言えば良かったな...)




 なんとか集中力を保ち続けて、ようやく授業が終わった。毎回緊張で大量に汗をかくので早く着替えたい。四ツ谷と共に更衣室に向かった。


「そういえば相澤は弓道場の更衣室使わないの?」

 途中で相澤とすれ違ったので、今まで疑問に思っていたことをついでに聞いてみる。

 ずっと四ツ谷と2人だけで弓道場に備え付けてある更衣室を使っていたが、相澤も弓道部なので使用する権利があるはずだ。



「んー。四ツ谷、他人に着替え見られんの嫌いじゃん?だから別に俺はあっちの更衣室でいいよ。」

 そう言って袴のまま急いで着替えに向かっていった。



(四ツ谷...着替え見られるの嫌いだったんだ。)

 最初に腹筋をガン見したのが思い出される。



「あのさ......前にめっちゃ腹筋見ちゃってごめん。」

「ん?...んふっ、いやあれは面白かったから良いよ。」

 くっくっと笑いながら、あっさりと許してくれた。ここ最近四ツ谷がどんどん優しくなっている気がする。身内に甘いタイプらしい。


「...俺もあっちで着替えた方が良かったら言って。」

「三峰はいいよ。下心無いの分かってるから。」

 にやりとしながら返される。自分の言葉をそのまま引用されてしまった。





「俺、こんな見た目だから男に変な目で見られる事多くてさ。」

 着替えていると、四ツ谷がポツポツと自分の話を始めてくれた。


「それが嫌だから人が多いとこで着替えしないようにしたり、筋トレしたりしてさ。」


「...必死すぎてかっこ悪いよな。」



「いや!それは無いでしょ!四ツ谷はかっこいいよ!」

 どう考えても、勝手に性的な目でじろじろ見る方が悪い。

 それに三峰からすると、四ツ谷は腹筋や低い声を持っている所だけでなく、肝が据わっていて、芯がある性格をしている。どちらかというと ”漢“ という風でかっこいい。



「ふーん?三峰は俺の事かっこいいって思ってんだ?」

 四ツ谷はあからさまに嬉しそうにしている。


「具体的に、どこがかっこいいか言ってみ?」

 言うまで逃さないと言わんばかりに近付いてきた。




「えー...っと。声とか...性格とか...あと腹筋もかっこいい、かな。」

「ふんふん。なるほどね。」

 四ツ谷の方は喜びを噛み締めている様子だが、こちらとしては、いきなり褒めさせられてとんだ羞恥プレイだ。



 ニコニコした四ツ谷がさらに近付いてくる。嫌な予感しかしない。



「そんなに気に入ったなら触って良いよ。」

 四ツ谷が三峰の手を取ってお腹に導く。指先が筋肉の溝に触れた。


(硬い...)


 ツツツ...とそのまま溝をなぞると、四ツ谷から声が漏れる。



「ちょっ...!それくすぐったいわ...!」

 四ツ谷は笑いを堪えるように手で口を押さえている。



 くすぐったくないように、今度はつついて触ってみるが、それもくすぐったいようで、手の隙間から息が漏れ出る。




 2人きりの狭い空間で、この雰囲気はまずい。慌てて両手をあげると、四ツ谷が首を傾げている。



「そろそろ!教室戻らないと!」

 完全に不審者の挙動だが、雰囲気を変えなければ大事な友達を変な目で見てしまいそうだ。有無を言わさず教室に向かった。







 1学期の濃密な弓道選択が終わると、時間が瞬く間に過ぎていき、冬が訪れた。


 夏服から冬服に衣替えすると、四ツ谷の萌え袖が復活するので季節の変わり目を感じる。



「なぁ、今やってるアニメにハマったんだけど、三峰も見てる?」

「ん?見てるよー。俺も好きだから漫画も全巻持ってる。」

 四ツ谷とは相変わらず雑多な話をしたり、無言でただ近くに居たりと、自分を飾らずに自然体で過ごせている。



「マジ?!原作読んでみたい!三峰んち行ってもいい?」

「いいけど...」

 自然な会話の流れで急遽四ツ谷が自宅に遊びに来ることになった。

 思い返せば、もう高校3年生になって半年経つが、四ツ谷とは学校以外で遊んだ事がない。


 桃山と佐伯とは頻繁に遊んでいたが、2人ともアウトドア派なので家に呼んだ事はなかった。

 高校1年生の頃も遊び歩いてばかりだったので、高校になって初めて家に上げる友達が四ツ谷ということになる。



(本気で片付けなきゃな...)


 自室の散らかりようを思い浮かべ、げんなりした。









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