第10話 友愛、情愛、家族愛
土曜日の朝、休日なので普段より遅い10時ごろに目が覚めた。昨日の夜はゲームが楽しくて、ついつい夜更かしをしてしまった。
ノソノソと起き上がり顔を洗いに洗面所へ向かう。朝の支度を一通り終えて、優雅に朝ごはん兼昼ごはんを食べているとチャイムが鳴った。
(なんか配達でも来たんかな。)
どうせ親が出るだろうと、気にも止めずに咀嚼を続ける。
「雪弥ー。友達来てるわよ。」
母親の言葉に、ボーっとしていた頭がみるみる覚醒していった。
「やばっ!今日約束してたわ!10分時間稼いで!!」
「はぁ?!」
母親に無理難題を押し付け、急いで自室に向かう。
見事なまでに足の踏み場がない。こういう時だけ、日頃から片付けておけば良かったと後悔する。
ガサガサと、とりあえずクローゼットに入るだけ詰め込んで、床が見えるようにする。
目に付くゴミをまとめて袋に入れて、慌ててリビングに戻ると、既に四ツ谷が家の中に通されていた。
四ツ谷は母親からお茶とお菓子を貰ったらしく、大人しく座って待っている。
2人からジトっとした視線を寄越されて目を逸らす。
「海くん、こんな息子で本当にごめんなさいね。」
「いえいえ、雪弥のお母さんが謝ることじゃないですよ。...本人の問題なので。」
「......四ツ谷。こっちが俺の部屋です。」
どことなく棘のある会話に耐えきれず、四ツ谷を連れて自室に逃げ込んだ。
三峰家なので、四ツ谷が親の前で雪弥と呼ぶのは分かるが、母親の方は海くん呼びじゃなくてもいいだろ、と関係ない事を考えて心を落ち着ける。
「うわっ!汚っ!!」
自分の中では割と片付けられた方だと思ったが、一般的に見たらそうでもないらしい。
「...好きなとこ座ってください。」
「えぇ...じゃあベッドの上でもいい?」
ベッドは毎日使うものなので比較的床より綺麗にしている。そして自分は当然潔癖症ではないので、他人がベッドに乗っても平気だ。
恐る恐るといった感じで、床に散らばる物を避けつつベッドに辿り着いた四ツ谷は、ベッドの端にちょこんと座った。
流石にこの反応は傷つくので、口だけではなく本気で今後は片付けようと心に誓った。
来てもらって早々に待たせてしまったので、リクエストされていた漫画を全巻、せっせと急いでベッドの上に運ぶ。
「ありがと。手とか漫画が汚れない系のお菓子持ってきたから食べて良いよ。」
「まじ?準備いいね。」
仕上げにいただいたお菓子を並べて準備が整った。四ツ谷は早速読み始めるが、黙々と読んでいる間暇なので、自分も別の漫画を取り出して読むことにした。
他の人とだと、無言でそれぞれが黙って漫画を読む空間に耐えられないが、四ツ谷とだと不思議と落ち着く。
感覚としては友達というより家族に近いものがある。
ぐぅ〜、とお腹の鳴る音で我に返る。時計を見ると、もう13時過ぎだった。自分はさっき朝ごはんを食べたばかりだが空腹になっている。四ツ谷の方はもっとお腹が空いているだろう。
「四ツ谷。近くのコンビニに飯買いに行く?」
「んー。行く。あとちょっと待って。」
キリのいい所まで読むと、四ツ谷が立ち上がって伸びをした。
家の近所を案内しながらコンビニまで歩く。今更だが、四ツ谷の私服はオーバーサイズではなくピッタリサイズで、服の系統もシンプルで落ち着いている。
(制服もピッタリサイズのが良かったんじゃ...)
「なに?なんかあった?」
じろじろ見たつもりは無かったが、視線に敏感な四ツ谷にはバレてしまった。
「いや...私服姿を見てただけ...です。」
「三峰って定期的に俺のこと見てるよなー。どう?私服チェックは合格?」
何となく後ろめたさを感じて思わず敬語になってしまったが、四ツ谷はあまり気にしていない様子だ。
「スタイリッシュで良い感じです。合格。」
「ふっ、何だそれ。」
誤魔化すようにふざけた返事をしてしまい、より恥ずかしさが増す。
早く帰りたくなる気持ちに比例して徐々に歩くスピードが上がった。
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
昼食を調達して再び家に戻る。戻ってからもお互い別の漫画を黙ってダラダラと読み続けた。
一通り読みたい漫画を読み終えて一息つく。固まった体をほぐして時計を見ると、もう夕方になっていた。
そろそろ帰らなくていいのか四ツ谷に聞こうと思い振り返ると、三峰のベッドですやすや眠る四ツ谷の姿がそこにあった。
(うぉっ?!寝てる...)
こういう場合は、すぐに起こした方が良いのか、もう少し寝かせておくのがいいのか、今まで一度も同じ状況に置かれたことが無いので対応に困る。
(とりあえず、迷ったら何もしないに限るな。)
思考を放棄して床に寝転がる。記憶があるのはそこまでだった。
「三峰...三峰!」
「うわぁ?!誰っ?!なにっ?!」
いきなり体を揺さぶられてプチパニックの状態で目が覚めた。
「ごめん。そんなビビると思わんくて...流石に三峰の家にも迷惑だから帰るわ。」
そういってお礼の言葉と共にさっさと帰ってしまった。
しばらくボーっとしていたが、お見送りすらしていない事に気付いた。リビングに降りると母親がご立腹の様子で詰め寄ってくる。
「海くん、帰るから戸締りお願いしますって言いにきたわよ!あんたお客様放置して寝てたんだってね!」
しばらくお説教が続いたが、真面目に聞いているフリをして四ツ谷のことを考えていた。
(四ツ谷は相手が寝てたら時間ギリギリまで寝かせとく派か...)




