第11話 受験
高校3年生の冬になると、教室の空気がピリピリしてくる。
自分はそこまで頭が良い方ではないので、県内にある私立の4年制大学に進学する予定だ。模試ではA判定だったので、他の人よりはストレスを感じていない。
自分が余裕だとしても、周りに気を遣って遊び歩いたりしないように、というのが学校の方針なので、大人しく従って程々に勉強しつつ過ごしている。
四ツ谷の状況も気になる所だが、こういった話題は触れづらいので、四ツ谷から話してくれるのを待っているが、未だに何一つ教えてもらっていなかった。
自由登校になってから3-Bにはほとんど人が居ない。
四ツ谷とは約束した訳ではないが、なんとなく登校して一緒に勉強を続けている。
「大学行って1人暮らししたら、虫ってどうしたら良いと思う?」
三峰と四ツ谷の2人だけが登校した日、四ツ谷がやって来てすぐに話しかけてきた。
「虫かー。高い階に住むとか?」
「高層階か...予算的にきつそうだな...三峰はどうすんの?」
「俺も1人暮らししたいんだけど、微妙に通える距離だから多分実家暮らし。」
「あー。確かに。三峰の家からだったら快晴大学通えるか。」
「...えっ?!なんで志望校知ってんの?!」
今まで一度も志望校の話をしたことが無いので驚いた。四ツ谷はキョトンとした顔をしている。
「担任と面談した時に志望校言ったら “お前ら大学も一緒かよ” って言われて知ってたんだけど...三峰は聞いてなかったん?」
「全く聞いてない。...ってか、一緒ってつまり...?」
「ん。俺も快晴大学行く予定。」
あまりの情報量に思考が追いつかない。同じ大学という可能性を少しも考えていなかった。
「あっ、じゃあさ!大学行ったらルームシェアしようよ!俺は虫平気だし!」
こんがらがった頭のせいで、普段だったら思いついても言わないセリフを吐いていた。
「ルームシェアかー。でも三峰、部屋散らかしそうだしなー。」
四ツ谷は冗談ではなく本気と受け取ってくれたらしく、真剣に悩んでいる。
三峰は親から、1人暮らしをするには生活力が足りなくて心配だからという理由で反対されていた。
なので今まで部屋探しをしておらず、全くイメージが付いていない。
一方四ツ谷は結構調べていたようで、家賃が折半ならもっと良い部屋借りられる、などとメリットとデメリットを比較して真剣に悩んでいた。
しばらく四ツ谷がぶつぶつ言っているのを眺めていると、返事が決まったようでこちらを真っ直ぐ見てきた。
「良いぜ。一緒に住もう。」
「!!」
「じゃあ今日は勉強休んで部屋探しするぞ!まずは親に許可取れよ。」
三峰はすぐさま親に電話した。事情を説明すると、しっかり者の海くんが一緒なら、と快諾された。
ついさっき同じ大学志望と分かったばかりなのに、とんとん拍子に話が進みすぎて逆に怖い。
2人がそれぞれ挙げた条件に合う物件を探して、いくつか候補を挙げていった。
ある程度絞った所で四ツ谷が立ち上がった。
「じゃあ内見行くぞ。急だから今日内見が無理でも外観くらいは見に行くぞ。」
行動力の高さに唖然とするが、こういう人に引っ張って貰えるのはありがたい。
帰り支度をさっさと済ませて教室を出る四ツ谷を慌てて追いかけた。
「「つかれたぁ〜」」
急な話だったが、ちょうど手が空いていたらしく、候補に挙げていた3ヶ所とも内見が出来た。
見るだけではあるが、考えることが多くてどっと疲れが襲ってくる。
頑張った甲斐あって住みたい部屋は1ヶ所に絞る事が出来た。後はお互いの親に話して契約するのみだ。
一日中家探しをしていてすっかり夕方だ。
「一緒に住むの、楽しみだな。」
オレンジ色に染まった空を背景に佇み、満面の笑みを浮かべて振り返った四ツ谷は、あまりに綺麗で眩しかった。
受験当日は同じ大学が目的地ではあるが、会ったら気が抜けてしまうのでお互い別々に会場へ向かった。
試験が終わった後は合流して、2人でファミレスに直行した。
「「かんぱーい!」」
ドリンクバーのジュースを飲みつつ、山ほど注文した食事を楽しむ。
「三峰は引越し準備してる?」
「いや、全くしてない。」
「俺も。」
お互い模試ではA判定だったし、今日の試験も手応えはあったので、おそらく2人とも合格するはずだ。
次に控えているルームシェアについて長々と話し合った。
「料理は交代制にしたいけど、お互いの授業とかバイトの日程分かってから決めるか。」
「...オッケー。頑張る。」
「不安だな...」
四ツ谷にも三峰の生活力が皆無なのはバレているし、なんなら自分でも出来る気がしていないので先行きが不安だ。
四ツ谷と解散した後も、家事をどうするか考えながら帰宅すると、母親が玄関で仁王立ちしながら待ち構えていた。
「おかえり♪ 雪弥。」
「......」
嫌な予感がして再び外に出ようとすると腕を掴まれた。
「受験も終わった事だし、海くんに迷惑かけないように特訓しよっか。」
有無を言わさない笑顔が怖いが、何とか逃れようと声を絞る。
「まだ滑り止めの受験が残ってるから...」
三峰の訴えは残念ながら聞こえなかった事にされ、ずるずるとキッチンまで連行されていった。
その日からしばらく、スパルタ特訓を受け続けて、米の炊き方すら知らない状態から、何とか自炊が出来る程度まで成長した。
合格発表の日。
こんな日でも三峰の寝起きは悪く、母親に叩き起こされて目が覚めた。
大学のサイトを開き、自分の受験番号があるか確認する。合格していると分かっていても緊張してしまう。
自分の番号はすぐに見つかり、事前に聞いておいた四ツ谷の番号もすぐに発見した。
片方だけ合格という最悪のパターンは避けられたようで、ホッと胸を撫で下ろす。
ちょうどそのタイミングで四ツ谷から電話がかかってきた。
「もしもし。さっきまで寝てただろ。」
「よく分かったね...」
「まぁな。合格おめでと。これからよろしくな。」
「ありがとう。四ツ谷もおめでとう。こちらこそよろしく。」
それだけの短い会話で通話が切れたが、四ツ谷の声を聞いて、合格発表を見た時よりもテンションが上がった。
(これからの生活楽しみすぎる!!)




