第12話 新生活
「ただいまー。」
「おかえり。今夜は焼きそばだぞー。」
「やった!ありがと!」
好物が食卓に出ると分かって、急いで手を洗いに行く。
合格発表後に引越しをして、3月末から始まった四ツ谷とのルームシェアは、大きな問題も無く2週間が経過した。
既にお互いバイト先を見つけて、少しずつシフトを入れている。
大学の入学式を明日に控え、2人とも少しテンションが高い。
「スーツの準備した?」
「当たり前だろ。三峰は?」
「まだ...バイトしてたし...」
「入学式前日くらいゆっくりしとけよ。」
何気ない会話が心地いい。これから4年間ずっとこんな日が続くと思うと胸が躍る。
翌日
3度目のアラームを止めて起きる。自室から共有スペースのリビングに向かうと、既に支度を終えた四ツ谷がゆっくりコーヒーを飲んでいた。
「あと10分で支度終わらなかったら先行くから。」
共同生活の最初にいくつかルールを決めたが、その中の1つに “三峰を起こさない” というものがある。
どれだけ重要な日でも、寝坊したら三峰自身の責任。当たり前の事だが、明確にルール化しないと相手のせいにしたり、負担をかけてしまうと思い、三峰の方から提案した。
最初の入学式くらいは一緒に行こうと、慌てて支度をする。
「パンはついでに焼いといた。」
四ツ谷が皿を差し出す。起きる時間は2人とも違うので、朝ごはんはそれぞれが自分の分を用意する事になっている。
だが四ツ谷は意外と優しいので、よくこうやって三峰の分もパンを焼いてくれている。
焼いてから少し時間が経って固くなったトーストをバリバリ食べ、雑にヘアセットをし、急いでスーツを着て、支度を完了させた。
「朝メシありがと!お待たせ。」
「ん。じゃあ行くか。あ、待って。」
足を止めた四ツ谷に胸ぐらを掴まれて焦る。痛みに耐えようと目を瞑るが、殴られるわけでは無く、ネクタイを綺麗に結び直してくれた。
「三峰って結構不器用だよな。」
「...ありがと。」
(新婚みたいだ...)
普段スーツを着ないので、ルームシェアをしてから初めてのイベントに困惑する。前から距離が近いのは知っていたが、こういうドキドキイベントも平然とやってのける。
(4年間心臓持つかな...)
四ツ谷のことは大事な友達だと思っているし、恋愛的に見られるのも好きじゃなさそうなので、変な目で見ないように細心の注意を払っている。
だが、こうも距離が近いと思うところがある。四ツ谷の方にももう少し警戒心を持ってほしいものだ。
入学式は何事もなく終わり、会場から出ると、外では多くの先輩が待ち構えていた。
先輩達は熱心にチラシを配ってサークルの勧誘をしている。
「大学って公式のサークルと、非公式のサークルがあるんだな...」
「弓道は公式サークル無かったわ。非公式にあるかどうやって探すんだろ。」
チラシを山ほど受け取りながら2人で悩む。
「え?!そこの可愛いネーチャン!弓道に興味ある?!」
胡散臭い雰囲気の明らかに先輩だと分かる人が話しかけて来た。
「あ?うるせぇよ。」
あまりに物怖じしない四ツ谷の態度に、こちらが冷や汗をかいてしまう。
「ん?...よく見たら男の子か!ゴメンゴメン!」
ヘラヘラした態度で四ツ谷の地雷踏み抜いていく。三峰はこの場から早く立ち去りたくなった。
怪しい先輩は無視を決め込む四ツ谷に構わず話し続ける。
「弓道サークル作ったんだけど、アーチェリーのが人気で人数足りなくてさー。公式サークルにするために人集めてんの!」
チラシを四ツ谷と、三峰にも押し付けて颯爽と去っていった。
「...四ツ谷は入る?」
「ぜってーー嫌だ。」
1週間ほど、お互い別々に気になったサークルの新歓、という名のタダ飯会に参加した。
「ただいま。」
「おかえりー。今日はどこ行ってきたの?」
今日の晩飯担当は三峰だったが、四ツ谷が新歓に行っていたので、1人でコンビニ飯を食べていた。
「弓道サークル。」
「え?!行かないんじゃなかった?」
意外な返事に驚くが、四ツ谷は渋い顔をしている。
「たまたま会って、しつこく勧誘されたから、入るかどうか賭けて勝負してきた。」
「...結果は?」
「......俺の話おしまい!!三峰は?」
言葉を濁したので、負けたのだろう。四ツ谷は高校の中では1番上手かったはずなので意外な結果だ。
「俺は昨日参加したAll Sportsってサークルに入るよ。定期的に集まって色んなスポーツするらしい。」
「ふーん。三峰にピッタリだな。」
「うん...サークルって掛け持ち出来るから、俺も弓道サークル入ろうかなー。」
「やめとけ。」
割と真面目に入ろうかと思ったが、軽くあしらわれてしまったので諦める。
結局サークルも、選択した授業もバラバラで、同じ大学の同じ学部だが、ずっと一緒という程でもなくなった。
仲良しこよしをしたかった訳でも無いし、四六時中一緒もしんどいので程よい距離感だ。
「四ツ谷ー!今日この後さ...」
「ごめん。今日サークル行ってくる。晩飯も要らない。」
「...おっけー。」
今日は一緒にリビングに置くソファを見に行きたかったが、残念ながら予定が合わなかった。
四ツ谷は嫌々入った割には頻繁にサークルに顔を出している。
三峰もサークル飲み会の連絡が来ていたが、まだ未成年なので行く気はなかった。
(暇になったし参加してみるか...)
気分が乗らないので、ダラダラ支度をして居酒屋に向かった。




