第7話 意外な一面
童顔で、背も低い。昔から歳の離れた姉2人にお人形にされ続けた結果、女だろうが男だろうが、自分の事を可愛いと言ってくる人間が軒並み嫌いになった。
「四ツ谷 海です。趣味は筋トレとゲームです。よろしくお願いします。」
1年の頃、顔に似合わない低い声で自己紹介をした。内容はシンプルだが、可愛いだなんて言われる要素のないものにした。
筈なのだが、早々に女子に捕まり、髪型が可愛いだの、萌え袖が可愛いだの散々な言われようだった。
中学では背が伸びなかったので、自分の成長期は高校で来るのだと信じてサイズの大きい制服を買い、おでこを出すとより幼く見えるので隠しているだけなのだが、周りから見たらあざと可愛いらしい。
とりあえず周りに来た人を睨みつけて、低い声で追い払っているうちに、いつの間にか一匹狼だと思われていて、友達が出来ないまま1年間を過ごした。
その間も、この顔と身長のせいで男女問わず言い寄られたが、中身の方は口も性格も悪いので、少し喋っただけで皆すぐに去っていく。
(俺は、俺のことかっこいいって思う人と付き合う。)
高望みしている訳ではなくて、たったそれだけの条件なのだが、未だに条件に合う人が見つからない。
可愛いと言ってくる人達は、純粋に褒めてくれているのだろう。馬鹿にされている、オモチャにされていると受け取ってしまい、つい嫌な態度を取るこちらが完全に悪い。
それは分かっているが、長年染みついた感覚なのでどうしようもない。
2年に上がると、前の席に座っている柳に声をかけた。
「よう、俺は四ツ谷。よろしく。」
するとビクリと肩を振るわせ、柳が振り返った。何を言ったらいいか、と口をパクパクさせている。
(怖がらせたかな...?)
態度が悪い自覚はある。柳は見た感じ大人しそうなので萎縮させてしまったのかもしれない。
「お、お、俺は、や、柳です。」
それだけ言うとぺこりと頭を下げた。
(なるほどね、俺が怖かったというより喋るのが怖かったのか。)
「好きに喋りなよ。柳は何が好き?」
とりあえず聞き役に回ってみると、恐る恐るといった様子で話し始めた。
「...そ、それで、あ、あの、あの主人公が...」
今までちゃんと話を聞いてくれる人がおらず、臆病になっていただけで、話すこと自体は好きそうだ。話し始めるとするすると話題が出てくる。
だが、
「ちょっと待って。ごめんだけど俺ホラー苦手なんだよ。」
柳の好きなものはホラーだったので、会話に全く付いていけない。というか聞きたくない。
柳はハッとしたような表情をして黙り込んでしまった。
他の話題を振ってみたが、四ツ谷が好きな筋トレやゲームは全くやらないらしく、完全に趣味が合わない事が分かった。
残念ながら会話は盛り上がらないが、柳は四ツ谷の事を可愛いと言ってくるタイプではないので、一緒に行動するようになった。
「よ、よつ、...四ツ谷くん。これ、あげる。」
「だから君付けやめろって。」
何度言っても四ツ谷くんと呼ばれるので、毎回注意しているが一向に直す気がない。お約束のやり取りをしつつ、柳からのプレゼントを受け取る。
「...何これ?」
「...こ、これ、来て欲しい。」
ライブのチケットのようだった。柳にこんな趣味あったか疑問だが、とりあえず受け取っておく。
「1週間後ね。予定空けとく。現地集合でいい?」
そう聞くとコクコクと頷いている。普段喋らない分ジェスチャーは大きめだ。
1週間後、指定のライブハウスに向かうと派手な格好をした人がひしめき合っていた。
あまりこういった場所は来たことがないので、ソワソワしながら柳を探すが、1組目のバンドが始まっても姿が見当たらなかった。
(あいつ...すっぽかしやがった...!)
イライラしてガン飛ばしながら演奏を聴いていると、2組目が登場してきた。
登場してきたメンバーに驚き過ぎて、危うくドリンクを落とすところだった。
「え、え、えっと...きょ今日はありがとうございます。」
真ん中でマイクを持っていたのは柳だった。
自信なさげに肩をすぼめながら、何とかMCをしている。周りの観客からは「頑張れー」と励まされている。
(いやいや!何で柳がステージに立ってんの?!)
半年以上一緒に居たが話題に上がった事がなく、全く知らなかったので困惑していると、柳とバッチリ目が合った。
柳はこちらを見て、大きく深呼吸すると、一息に喋った。
「今日は、大事な友達が来てくれたので...全力で頑張ります。それでは聴いてください。」
ドラムの合図で曲が始まる。
歌い出した柳はまるで別人のようで、あっという間に惹き込まれた。
30分が一瞬で過ぎ去ってしまった。全ての曲を歌い終わると、励ましではなく感動で客席が沸いている。
四ツ谷もテンションが上がって、柳に大きく手を振りながら「サイコー!」と叫ぶと、今まで見たことがない爽やかな笑みを浮かべて退場していった。
「よ、四ツ谷くん。来てくれて、あ、ありがとう。」
まだ火照った様子の柳が出番を終えてやってきた。
「出演者側なら先に言え!あとチケットも次から買うから、やる時言えよ。」
あと君付けやめろ、と言うのも忘れない。
「で、でも...チケットは、プレゼントしたい。」
「いや、今日でファンになったからちゃんと買う。」
そう言うと柳は照れたように顔を逸らしてしまった。
それから何度も柳のライブに足を運んだ。柳の方も、バンドの人気が出たようで、徐々に活動量が増えていった。
冬のある日、バンド活動の忙しさで体力が尽きたのか、柳は風邪をひいて出席停止になってしまった。
高校2年になってから柳以外とまともに喋った事がないので、数日間誰とも関わらず過ごしていたが、体育の授業で急に知らない人と組まされる事になった。
名前は知らないが、平均よりも高い身長に爽やかイケメンといった、自分とは真逆の風貌をしているので癇に障る。
とりあえず不便なので名前を聞くと、三峰と名乗った。
(...なんか聞いたことあるな?)
考えつつコートの反対側に向かう。到着した所でちょうど思い出した。
(あの女好きって有名な野郎か!!)
高校1年生の頃、一匹狼をしていた四ツ谷にさえ噂が届くほどのプレイボーイ。三峰 雪弥その人だった。
見た目に加えて、気に食わないポイントが貯まった結果、渾身の一撃をお見舞いする事になった。
しばらく会話をしてみると、噂通りのイメージでスカした野郎かと思いきや、意外とノリが良く熱い一面がある事に気付いた。
第一印象は最悪だったが、なんだかんだ授業時間ずっと三峰に付き合ってもらい楽しんでしまった。
最後の方など夢中になり過ぎて、挑戦に成功した際には飛び付いていた。
そのまま軽々と抱き止められて、映画のお姫様のようにクルリと一周回されて我に返る。
(こいつ...!力も強いんか...!)
高身長で顔が良く、スポーツが出来て力持ちの女好きときた。気に食わないポイントはどんどん貯まっていくが、性格が悪い訳ではなさそうなので溜飲を下げる。
次の体育では何して遊ぼうか三峰と考えていたが、柳が復帰してきたので、そんな機会も無いまま日々が過ぎていった。
そして、2年が終わり3年に進級した。柳はバンド活動に精を出していて勉強が疎かになったらしく、3-Cになっていた。




