第4話 体育の時。
風邪で休みの人数が多いので、授業内容は好きに打ってて、という雑なものになった。やる気のない生徒は端っこで駄弁っている。
コートが丸々一面空いたので、四ツ谷とそこへ向かうことにした。別にやる気がある訳ではなく、話すこともないのでテニスをしていた方がマシだと考えたのだ。
「四ツ谷くん、あそこ空いたから2人で使っちゃおうか」
「君付けキモいから呼び捨てにして。俺も三峰のこと呼び捨てにするから。」
「あ、はい。」
四ツ谷とちゃんと話すのは初めてだが、可愛い系の見た目に反して冷たい態度と、低い声だったので驚いた。
四ツ谷はボールをいくつかポケットに入れてコートの反対側へ行った。
「うぉおおらぁ!!!」
「?!?!」
急にデカい声を出したと思ったら思いっきりサーブを打たれて呆然とする。
「あれ?三峰、動けもせん?」
そう言いながら四ツ谷はニヤニヤと笑っている。
(もしかして俺、四ツ谷のこと勘違いしてた...?)
スッとボールを拾うと、深く息を吸う。
「動けるわ!!」
負けじと大声を出しながら、手加減無しの本気サーブを打った。
だが、ちゃんと練習した事もないので思いっきりアウトだ。
それでも四ツ谷は嬉しそうにしている。
「今のめっちゃ速いやん!もっかい!次はちゃんとコートに入れて!」
四ツ谷が構えて待っている。何回打っても「もう一回」と言われ、何度もサーブをさせられた。
「はぁ...はぁ...もう、勘弁して...」
流石に肩が痛いのでギブアップする。
「まだ1球も返せてないんだけど...俺が返せるまで打ってよ。」
そもそも自分がノーコンなので、10球につき3、4球しかコートに入らない。しかも、入っても中々返してくれないので全く終わりが見えない。
「一旦交代して...」
時間稼ぎを申し出た。
四ツ谷のサーブは三峰ほどのスピードは無いが、ちゃんとコートに入ってくる。授業時間が残り半分になって、やっとラリーが続いた。
しばらく打ち合っていたが、やっぱり諦めきれなかったようで、再度サーブを打ってくれと頼まれた。
「10球だけでいい...?」
「えー......じゃあ、せめてコートに入った球の数にして。」
交渉が成立したので、カウントしながらラケットを振った。
「さーーーん!!」
「今の入ってないからノーカン!!」
わいわいぎゃあぎゃあ言いながら、最後の1球になった。他の生徒は片付けを始めている。
「じゅーーーーーーう!!!」
パコンッと良い音が響く。
最後の最後で上手く返してくれたようだ。
「やっ...たぁーーー!!」
四ツ谷が走ってこちらまで来て、そのまま飛びついてきた。
周りも密かに応援していたらしく、拍手が沸き起こる。丁度良くチャイムも鳴ったので、皆満足げに教室へ戻った。
「なぁ、来週は漫画の技が出来るかチャレンジしてみん?」
教室に戻る道すがら四ツ谷が話しかけてきた。
「良いけど、あんなのほとんど出来ないでしょ」
「だからこそ楽しいんだよ!」
四ツ谷はケラケラ笑っている。本当に最初のイメージとは全く違う性格らしい。
思い返せば女子との絡みも無かったし、なんなら進級したての頃に女子から話しかけられていたが、追い返していた。
(勝手に勘違いして、悪い事したな...)
とりあえず心の中で謝っておく。
その後も約束した訳ではないが、なんとなく一緒に行動するようになった。
昼休み開始のチャイムが鳴ると、自分から四ツ谷の席に向かう。近くの椅子を取り、向かい合う形で席に着くが、特に拒絶されなかったので構わずに弁当を広げた。
「.........」
「.........」
体育の話題以外は話す事がないのでお互い無言で食事をする。
他の人と居るときは “何か喋らなきゃ” と焦るが、なぜか四ツ谷の前だと無言が苦痛ではなかった。
相手の方はどう思っているか分からないが、チラッと盗み見た四ツ谷の表情から察するに、何とも思っていなさそうだった。
一緒の席にわざわざ集まったが、一言も喋らないまま食事が終わった。
「三峰ー。連絡先教えて。」
「ん?いいよー」
残りの休み時間は、お互いスマホをいじって過ごしていたが、急に四ツ谷から話しかけられた。
連絡先を交換すると『よろしく』とスタンプが来て、その後すぐに長文が送られてきた。
「ダンクスマッシュ、ジャックナイフ、バギーホイップショット......何これ?」
「次の体育の授業でやるやつ。」
「いや、素人には無理だろー」
2人でやり方の解説動画を検索して見漁ったが、当然出来そうもない。一方四ツ谷は、何故かやる気満々の様子だ。
帰宅後も暇が出来ると、気付いたら動画を見ていたし、無意識にイメージトレーニングまでしていた。
なんだかんだ言って自分も挑戦するのが楽しみらしい。
次の日
登校してすぐ、四ツ谷に話しかけようと思い教室を見渡すと、四ツ谷の隣には柳が居た。2人は何やら会話中の様子だ。
どうやら柳は、佐伯や桃山よりも先にインフルになっていたらしく、今日から復帰するようだ。
(なんか...話しかけにくいな...)
いつメンが居ない間だけの関係だったので、柳は三峰と四ツ谷が一緒に居た事を知らない。そんな状況で2人が話している所へ割って入る勇気はない。
何とも言えないもの悲しさを感じつつ、1人で席についた。




