第3話 冬の日。
「ぶぇっくしょん!!」
「佐伯、汚いぞ。」
佐伯はここ最近くしゃみばかりしている。
「俺、寒いの苦手ー...」
気持ちは分かるが、佐伯は上下共にジャージを2枚重ねで着ており、マフラーも手袋もしている。なんならカイロも両ポケットに入れている。
(むしろ暑いだろ、その格好。)
体育の授業だと言うのに、全く動く気が感じられない出で立ちだ。
仕方がないので桃山とペアを組んで準備体操をする。テニスコートに入り、他の人に当たらないよう狭いスペースでダラダラと打ち合う。
「寒いんだから室内スポーツが良いよなー!」
コートの向こう側に届くように大きな声で話す。
「暑い時期に熱中症対策で屋内スポーツやってっから、冬は屋外になっちゃうらしいよー!」
流石、スポーツ好きを自称するだけあって詳しい。
桃山の格好は、上はジャージを着ているが下は半ズボンを履いている。佐伯に何度も寒くないのか聞かれていたが、全然寒くないと言っていた。
(何となく長ズボンはダサいって理由で半ズボンにしたけど寒いな...変な見栄張らずに長ズボンにすれば良かった...)
佐伯はジャージを2枚重ねしているので、1枚くらい奪ってもいいのでは、と考えるがサイズが合わないので諦めた。
たいして何の練習にもならない打ち合いを終えて、試合形式の時間になった。
佐伯は相変わらず動かないので、桃山とダブルスを組んで試合に挑む。流石にテニス部相手には勝てないが、自分も桃山もスポーツ全般出来るタイプなので中々の好成績で授業が終わった。
「あー!動き足りない!!もっとコートが広かったらなー」
桃山が着替えながら愚痴っている。
「テニス選択思ったより多かったな」
冬期間の体育はテニスとサッカーで選択出来た。
なので、人数が少なくて広々練習が出来ると踏んでテニスにしたのだが、蓋を開けてみればサッカーと半々くらいだった。
なんならグラウンドよりテニスコートの方が狭いので、人口密度でいったらテニスの方が高い状態になっている。
2人で話しながら着替えていたが、ふと佐伯を見ると、まだジャージのままで動いてなかった。
「航ー?次の授業もそれで行くのか?」
別に怒られはしないだろうが、何だか様子がおかしい。桃山と顔を見合わせる。
「おい、佐伯?大丈夫か?」
顔を覗き込むと、目がとろんとしていて頬が赤い。額に手を当てると、明らかに高熱だった。
「やばい!保健室行くぞ!」
慌てて2人で佐伯を抱えて連れていく。
「鶴ちゃーーん!急患!!」
保健室に着くと、養護教諭の鶴先生が居た。
「桃山くん。その子は?」
「2-Bの佐伯 航!めっちゃ熱高いから寝かせてやって」
「分かった。そこのベッド使って。」
そういうと鶴先生は素早く体温計や掛け布団の準備をする。
「いつ頃から体調悪そうだったか分かる?」
「うーん。ここ3日くらいずっとくしゃみしてて、体育の授業では全く動かず寒いって言ってた。」
「そっか。ありがとう。後は見ておくから2人は授業に戻りなさい。」
こちらを安心させるように優しい声色で話してくれる。任せておけば大丈夫そうではあるが、心配なもんは心配だ。
残りの授業は佐伯の事を考えているうちに終わっていた。
帰りに桃山と保健室に寄ってみる。
「鶴ちゃん。佐伯は大丈夫そう?」
「あぁ。桃山くん。佐伯くんは家に帰したよ。ご家族にインフルに罹っている人が居たみたいで、おそらく移ったんだろうって。」
もしインフルだったのなら1週間ほど会えなさそうだ。
(なんか少し寂しいな...)
無駄に存在感がデカいので、居ないと物足りない感じがする。
次の日
桃山とお見舞いに行こうと計画し始めたが、佐伯の家は本当にど田舎なので、学校帰りに家に寄ったら、その後のバスが2時間後だと判明してお見舞いは断念した。
心配なので佐伯にメッセージを送ってみているが、昼に『ごめん寝てた』と返事が来たっきりなので、まだ体調は悪そうだ。
さらに次の日
教室に入ると、いつも居るはずの桃山が居なかった。クラスメイトも少ないように見える。
「おはよー。今日は欠席6名いるけど学級閉鎖じゃないらしいぞ。」
担任のヤマセンが入ってきて早々に残念なお知らせを持ってきた。
(まさか、あのスポーツバカが風邪?!)
前日までピンピンしていたので信じられずにメッセージを送ると、すぐに体温計の写真だけ送り返された。
(38.9℃...めっちゃ熱じゃん)
『お大事に』と返信すると、
『俺もインフルで草。めっちゃ暇だから構って!』とすぐに返事が返ってきた。
どうやら桃山は熱でも元気なタイプらしい。
佐伯はまだ元気がないし、桃山は元気でもインフルなら出席停止だ。これから1週間程ぼっち生活が確定してしまった。
ぼっちな日に限って体育の授業がある。
インフルになったのはテニス選択側ばかりだったらしく、人数がもの凄く少ない。
準備体操で2人組みを作らないといけないので、同じくぼっちの人を探す。
ぐるっと見渡すと、女子と男子が1人ずつ余っている。
女子は大人しそうなタイプの新見、男子は勝手に苦手意識を持っている四ツ谷だった。
正直言ってどちらも嫌だ。
去年の荒れた時期のせいで、極力女と関わりたくないし、チャラそうな男も遠慮したい。
四ツ谷はジャージもオーバーサイズで萌え袖をしていて、下は半ズボンの格好だ。その辺の女子と同じような、あざと可愛い系の見た目をしている。
普段は柳と一緒に居たと思うが、今日は柳も休みらしい。
(もうぼっちでもいっか。)
「男子はそこの2人で組んで、女子はそこ3人でやって」
諦めて授業に臨んだのだが、すぐに教師から的確な指示が飛んでしまい、渋々ペアを組んだ。
「えっと...四ツ谷くん。よろしく。」
「ん?あぁ。よろしく。名前何だっけ?」
「...三峰です。」
もう同じクラスになって8ヶ月以上経っているのに、未だに名前すら覚えられていないらしい。
(そうですか!男には興味ないですか!)
虚しさと怒りでヤケになりつつ準備体操を終えた。




