第15話 無自覚の好意
「ねー。本当に好きじゃないの?」
「だから!違いますって!」
あれからしばらく、先輩から四ツ谷の事をどう思っているか何度も確認されている。
「うーん...両想いだと思ったんだけどなー。」
「四ツ谷は昔から “変な男” に好かれやすいから、友人として心配なだけです!」
”変な男“ の部分を強調して、今まで揶揄われた分の小さな仕返しをする。
「だはは!君たちってホント僕のこと敬わないよねー!」
揶揄う目的が無いと、いくら煽っても全く乗ってこないので、むしろ負けた気分にさせられる。
(なんだかんだで大人だよな。この先輩...)
「まぁ、冗談はさておき。海のこと、真剣に考えないと後悔するよ?」
いつになく真剣な表情で忠告されて、冷や汗が一筋垂れる。
「い、や...真剣にとか分かんないです。ほんと、ただの友達なんで...」
「ふーん。これ以上言っても無駄か。」
丁度四ツ谷も来たので、先輩は話を切り上げて練習を始めた。
四ツ谷との日常生活は、相変わらず平和で落ち着くものだった。
だが、最近は以前よりも更に距離が近くなった気がする。
「三峰ー。暇なら一緒に映画見ようぜー。」
「ん。いいよ。」
未だにリビング用のソファを買っていないので床に座ると、四ツ谷は三峰の膝の上に座ってすっぽりと腕の中におさまってきた。
「...四ツ谷さーん?俺はソファじゃ無いんですけど...」
「重い?」
「いや...ダイジョウブデス。」
そこから2時間、映画よりも四ツ谷の体温や匂いに意識を持って行かれる。
「んー!面白かったな!」
「え?あぁ、そうだね...」
満足気に伸びをしている四ツ谷には申し訳ないが、映画の内容はほとんど頭に入ってこなかった。
冬になると、四ツ谷は夜寝辛そうにしている。
今まで知らなかったが、結構寒がりらしい。
「なぁ。三峰。」
「どしたー?」
「......一緒に寝ていい?」
想像していなかったお誘いに目眩がした。
「暖房じゃ足りない感じ?」
「暖房付けたままだと、乾燥で寝れん。」
「なるほど...分かった。」
少し弱った様子の四ツ谷に庇護欲が湧き立ち、冬の間は一緒に寝ることにした。
「お邪魔します...」
「はい。どーぞ。」
普段の傍若無人さは全く無く、緊張してる様子を見せられ変な気分になりかける。
(煩悩消えろ、煩悩消えろ、煩悩消えろ...)
無心になるべく、頭の中を空っぽにしたいのに、四ツ谷は三峰で暖を取ろうと体をくっ付けて、足を絡めてくる。
「四ツ谷、足冷たいねー!」
「そう。いつも足が冷えて寝れねぇ。」
誤魔化すように明るく振る舞うが、四ツ谷は眠いのか落ち着いたトーンでいつも以上に低い声で返してくる。
間違っても体が反応してしまわないように、気持ちが冷める事を考え続けていたら、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。
(四ツ谷寝れたんだ......何で四ツ谷っていい匂いするんだろ。同じシャンプーなのに...)
眠ったのをいいことに、ピッタリくっ付いている四ツ谷を抱きしめて匂いを嗅ぐ。檜のような落ち着く良い香りがする。
寝顔を見ると、いつも以上に幼くて天使のようだった。少し開いた口から寝息が漏れていて愛おしい。
そんな事をしていたせいか、体は反応したし、三峰は朝まで寝られなかった。
翌朝
「んー!よく寝れた!」
「おはよう...」
「うぉ!?三峰!この時間に起きてるなんて珍しいな。」
起きれた訳ではなく、寝られなかっただけだが、心配をかけたくないので誤魔化した。
「人が居ると起きれるのかも。今夜も一緒に寝るんだよね?」
「三峰が嫌じゃなければ、冬の間はお願いしたい。」
「全然嫌じゃないよ。」
むしろ良い、とは言えないが、これが毎日となると刺激が強すぎるので、何か対策を考えなければならない。
色々考えたが、応急処置として一緒に寝る前に風呂場で抜いておく作戦を立てた。
いつも通り四ツ谷がお風呂から出て来ると、そそくさと準備して風呂場に向かう。
何とも言えない罪悪感があるので、四ツ谷とは目を合わせられなかった。
(はぁ...四ツ谷...いや、流石に四ツ谷のこと考えながらはやばい...)
ダメだと思えば思うほど、四ツ谷のことが思い出されてしまう。果てる瞬間まで四ツ谷を思い浮かべながら致してしまった。
(もー...マジで最悪だ...友達なのに...)
賢者タイムも相まって、自己嫌悪でテンションが下がる。
そんな状態で一緒に寝たので、気まずさはあれど煩悩は払拭され、朝までぐっすり寝ることは出来た。
その日から、ダメだとは思いつつ、寝る前に四ツ谷で抜くのがルーティンになってしまった。
「三峰ー。いーれーて。」
「あいよ。」
何度か一緒に寝ていると、四ツ谷も緊張しなくなったようで、堂々と布団に入ってくる。
いつも通り四ツ谷が体を寄せてくるので、抱きしめて頭を撫でる。
「三峰?」
「......あ。」
ここ最近四ツ谷と触れ合う時間が多く、想像でもあれこれしていたため、距離感がバグる。
「えっと...ごめん。」
頭に乗せてた手を退けようとすると、三峰の手の上に四ツ谷の手が重ねられる。
「いいよ。好きにしても。」
まっすぐに見つめられる。
「っあ、うん。そうする。」
(今、俺誘われてる?!...いや、四ツ谷に限ってそんなことないか?!)
混乱した頭で、とりあえず四ツ谷の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「...そうじゃない。」
四ツ谷の呟きは、三峰の耳には届かなかった。




