最終話 卒業
大学2年生になったばかりの頃。
まだ時々肌寒い日はあるが、一緒に寝るほどでは無くなった。
何ヶ月も添い寝をし続けていたので、1人で寝るのが少し寂しい。
少し恥ずかしくもあるが、この歳になって抱き枕が手放せなくなってしまった。
四ツ谷は定期的にライブを見に行っているらしく、今日も出掛けている。
晩飯は要らないと言われているので、1人でゆっくりインスタントラーメンを食べていると、四ツ谷が帰ってきたようで、鍵を開ける音がした。
玄関先でバタバタと大きな音がするので、様子を見にいくと、顔を真っ赤にした四ツ谷が慌てて帰ってきていた。
「おかえり?どうしたの、そんな焦って。」
「.........れた。」
「え?なんて言った?」
「柳に告白された!!」
四ツ谷がなんと言ったのか、飲み込むのにしばらく時間がかかった。
「えっと...柳って、あの柳?」
高校の時のイメージだと、おどおどしていて、とても告白とかするようなタイプには見えない。
「うん...三峰も知ってる柳で合ってる。」
「そっか。えっと...返事はしたの?」
頭が真っ白で何を話せばいいのか分からない。
ただ、四ツ谷がどう返事をしたのか聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちがせめぎ合っている。
四ツ谷が話し始めるまで一瞬だったはずだが、あまりの緊張で何時間にも感じられた。
「返事は...まだしてない。」
ホッと胸を撫で下ろす。と同時に、何故ホッとしたのか分からず混乱した。
そこからは四ツ谷とすれ違う日々が続いた。
柳の家に泊まっているらしく、数日顔を合わせないこともしばしばだ。
タイミングを失い、買い損なったリビングのソファは、その後も買うことはなかった。
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大学4年の終わり頃。
徐々に荷物を片付けて、殺風景になっていく部屋を見ると、もうこの生活が終わるという現実を突きつけられる。
まだ肌寒いが、心の寒さを誤魔化す為に、ベランダに出て物思いに耽っていると、四ツ谷もベランダに出てきた。
「うわっ!さむっ!こんなとこで何してんの?」
「んー...もうこの生活も終わっちゃうのかって考えてた。」
「......そうだな。」
しばらく2人して無言で外を眺める。見慣れた景色、住み慣れたこの町ともお別れだ。
「就職したら県外だっけ?」
「あぁ。」
「じゃあ一緒には暮らせないかー。」
もう決まっている事だったが、思わず口に出てしまった。
「うん...柳と暮らすから...」
終わりが目の前に迫った今になって、やっと自覚した。
いや、きっと今までも分かっていたが、ずっと見ないフリをしてきた。
四ツ谷が好きだ。
気付いた瞬間、失恋していた。こんな事なら最後まで気付かなければ良かった。
ありえない事だと分かっているが “もしも” の想像が止まらない。
四ツ谷が柳に告白された日、その時すぐに、玄関先で、抱きしめて俺も好きだと言えていれば。
サークル活動の日、先輩が最後のアドバイスをくれた時、その場で、ちゃんと四ツ谷への気持ちを考えていれば。
高校2年生の冬の日、体育の時、テニスコートで、意外な一面を見せる四ツ谷に惹かれていると気付いていれば。
いくら考えても、もう遅い。
深くため息を吐くと、吐いた息が白くなって消えていった。
「あのさ、四ツ谷。俺--」
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卒業式の朝は、四ツ谷と一緒に朝食をとった。
入学式とは打って変わって、時間に余裕がある。数少ないこの4年間で成長した点だ。
この卒業式が終わったら、こっちでやることも無いので、四ツ谷は引越しをする。既に荷物はほとんど新居に送っているようで、残りは段ボール1箱だ。
自分も引越しをするが、地元には残っているので、退去時の立ち会いなどは三峰1人で行う事になっている。
コーヒーを飲みつつ最後の食事をゆっくりと済ませる。お互い無言だが、気まずくないのは相手が四ツ谷だからだろう。
高校生の頃、朝食は米派だったが、四ツ谷と暮らす4年間の内に、いつの間にか朝はトーストとコーヒーになっていた。
冬は何かを抱きしめないと寝られなくなったし、檜の香りが凄く好きになった。
出発の時間になったので、2人で玄関に向かうと、四ツ谷が振り返る。
「今日はちゃんとネクタイ結べてるな。」
そういって微笑む顔は、どこか寂しそうだった。




