第14話 無自覚の恋
「四ツ谷!ちょっと教えて欲しいんだけど...」
「えー?それなら僕が教えるよ!」
「先輩のが上手いから、そうしてもらえ。」
(......チッ)
「海ー!この後メシ行こー。」
「それって俺も行っていいですよね?先輩?」
「......まだ俺は行くなんて一言も言ってないんだけど。」
「三峰くーん!」
「あれ?俺は名前呼びしないんですか??」
「.........」
「いい加減にしろ!!お前ら仲良いんだか悪いんだか分かんねぇよ!!」
毎日毎日、水面下で先輩とバトっていたら、ついに我慢の限界がきた四ツ谷に怒鳴られた。
「まぁまぁ海ちゃん。弓道場でそんな大声出さないの!」
「海ちゃん言うな!!」
威嚇している猫のように毛を逆立てて怒っている。
(流石にやりすぎたか...)
「ごめん四ツ谷。でも “ちょっと” 先輩の距離が近いなーって思って。」
「んー?でも海が嫌がってないなら、三峰くんが口出す事じゃ無いよね?」
再びバトルが始まりかけたが、先輩と三峰双方に四ツ谷の拳骨が振り下ろされた。
「や!め!ろ!...はぁ、なんで2人ともそんな喧嘩腰なんだよ。」
その後は四ツ谷の監視が厳しくなったので、表面上は仲良くするフリをしつつ、見てない所では煽り合って過ごした。
活動終わりに四ツ谷と共に帰宅すると、玄関に入るや否や、四ツ谷に問いただされた。
「なぁ、最近変だぞ。なんでそんな先輩に突っかかるんだよ。」
「...俺もよく分かんないけど、四ツ谷と距離が近過ぎるからつい腹立って。」
「はぁ?何だそれ。」
自分でも行動原理がよく分かっていないのだ。四ツ谷は更に理解不能だろう。
「前に、弓道部の先輩が変な目で見てきて嫌だった。って話してくれたのが、気になってるのかも。」
とりあえず思いついた可能性を伝えると、四ツ谷は納得した様子を見せる。
「なるほどね。まぁ先輩は下心とか無さそうだし、そんな嫌じゃ無いよ。」
四ツ谷が嫌がってないのであれば安心すべきところなのに、何故か余計にイラついて困惑する。
(俺、四ツ谷になんて言って欲しかったんだ...?)
「下心あるんじゃない?この前抱きついてたし。」
イライラを上手く隠せず、責めるような口ぶりになってしまった。
「ん?あぁ、そんな事もあったけど......なんで三峰が知ってんの?」
(しまった...余計な事言った...)
無かったことにしたいが、じーっと見つめられ続けて観念した。こうなった四ツ谷は絶対に譲らない。
「この前見学しに行った時たまたま見たんだよ...だから俺もサークルに入って2人きりにならないようにしてます...」
「......」
無言で見つめられて居心地が悪い。
「はぁ...あのなぁ、三峰に守って貰わなくても、嫌だったらブン殴ってでも止めるから安心しろ。」
「...じゃあ先輩に抱きしめられるの嬉しいってこと?」
めんどくさい恋人のような考えが浮かんだ挙句、口にしてしまって自己嫌悪に陥る。
「嬉しいとかじゃねぇよ!嫌って程じゃないだけ。三峰にされても同じだよ。」
「分かった。」
さっきから苛立ちが収まらない。自分にされても同じだと言われたので、先輩のハグを上書きするように抱きしめた。
「は?!やれって意味じゃねぇよ!」
四ツ谷の抗議は無視して、抱きしめ続ける。
「おい!三峰!...聞いてんのか!」
モゾモゾ抵抗しているが、確かに殴り飛ばされないので嫌という訳では無さそうだ。
5分ほど満足するまで抱きしめた後、ようやく解放してあげると、ムスッとした顔でさっさと自室に引き籠もってしまった。
(やっぱ俺だと嫌なのか?)
それからしばらく四ツ谷は目を合わせてくれなくなった。
「あれー?海と三峰くんは喧嘩中?珍しいねー。」
サークルでも必要最低限の会話しかしていなかったので、先輩も流石に気付いたらしい。
「別に。喧嘩じゃねぇよ。」
「ふーん。僕がからかい過ぎちゃったかな?」
「は?」
「いやー!海って三峰くんのこと好きでしょ?前からよく三峰くんの話聞いてたから、そうかなって。」
衝撃発言に勢いよく四ツ谷の方を見ると、四ツ谷は全力で首を横に振っている。
「なんでそんな話になってんだよ!!」
「まぁまぁ!三峰くんの方はどうかなーってカマかけたら、びっくりするくらい食い付くからついつい調子に乗っちゃった!」
てへ、とお茶目なポーズをしているが、全く可愛くない。
「僕のせいで喧嘩になったならごめんね?」
「「別にそういうんじゃない!」」
「あれ?違った?......もしかして、お互い無自覚だったの...?」
好き放題 爆弾発言をした先輩は満足したように練習に戻っていってしまった。
その後の練習は気まず過ぎて、ほとんど記憶がない。
いつの間にか帰宅していたが、同じ家に住んでいるので帰ったところで何の解決にもならない。むしろ2人きりなので余計に意識してしまう。
(いや!恋愛的な好きじゃなくて!家族愛的なやつだから!!)
心の中で誰に向けてか分からない言い訳を並べ立てていると、四ツ谷が風呂からあがってきた。
「風呂あがったぞ。三峰もさっさと入れよ。」
「あ、うん!そうする!」
話しかけられて、ビクッと体が跳ねた。あからさまに意識しているのがバレバレで恥ずかしい。
何だこいつ...という目で見られているのを感じながら、逃げるように風呂場へ向かった。




