5. 宝石ゲーム、開幕⑤
「10000バリューって……他のクラスが1本でも見つけたらあたしら一瞬で抜かされちゃうじゃん」
「そうですね。ですがそううまくいかないのが、人生というものです」
〈藤花〉は〈牡丹〉や〈ネモフィラ〉と比較してもしきれないほどに獲得バリューが高い。栗花落の言ったように、これだけ見ると入手した〈藤花〉の数が実質的に勝敗をわけてしまいそうな気もするが、羽那葉の様子をうかがうに、そんな単純な話でもないんだろう。極論、1年経っても見つけられない、なんてこともあるかもしれない。
宝石ゲームは本当によくできたゲームだ。1発逆転の可能性が残されているからこそ、退学クラスが確定する瞬間まではどのクラスも安心できない。オレたち上位クラスにとっては最後まで逆転されないよう神経を鋭敏にしておかなければならないし、最下位クラスとその付近のクラスにとっては、なまじまだ勝てるチャンスが残されている分諦めきれない。月末は寝る間も惜しんで宝石を奪い合う、戦争の色さえ帯びてくるかもしれないな。なにせ暴力が認められているんだ。ケガ人が大量発生した、程度で済めばまだマシとさえ言えるだろう。
「おっと、ひとつ言い忘れていたことがありました。宝石ゲームでの生存は卒業するための必要条件ではありますが、十分条件ではありません。Student Point――SPと呼ばれる数値が、ホーム画面に記されていたことにはすでにみなさんお気づきでしょう。それは入試成績をもとに算出されたみなさんの能力値です。テストで高得点をとったら上昇する……という類ではありません。みなさんの一挙手一投足はスマホによって常時モニタリングされています。何がモニターされているのかはお伝えできませんが、断言できるのは、みなさんの”実力”を総合的に反映してくれる優れものだということです。リアルタイムで変動しうる、通知表のようなものですね」
「その下に小さくGPってのも書かれてるんですけど、これはなんなんですか、先生」
「Goal Point――まさにそれこそが、卒業するために必要なもう一つのポイントです。卒業日までにみなさんは、SPをGPへ到達させなければなりません。一定以上の能力を身につけなければならないということです。GPは人それぞれ異なります。1年生のうちにクリアできる生徒もいらっしゃいますし、最後まで達成できない生徒もいらっしゃいます。もし達成できなければ、宝石ゲームで最後まで生き残ることができたとしても、卒業日当日に退学していただくことになります」
「なっ――」
「ちなみに柊くん。もしよろしければ、今のあなたのSP、およびGPを教えていただけませんか?」
「……SPが43,000、GPは46,000です」
「ありがとうございます。皆さんは曲がりなりにもクラス1に在籍する優秀な生徒たち。SPが37,000を超えていなければここに在籍することはできません。その分GPも他クラスの生徒より幾分か高く設定されています。まじめに授業を受けるのはもちろんですが、その他のところでも絶えず努力を惜しまずに、学園生活に励んでくださいね」
今の話を聞く限り、SPは身長や体重などよりもはるかに重い個人情報だ。身長や体重は赤裸々にデータベース化されているのに、SPやGPは他人のものを覗けない仕様になっていることがそれを如実に物語っている。当然の措置、あって然るべき措置だろう。藤花が意図しているかはわからないが、SPが発端となってクラス内の生徒どうしでいざこざが生まれてしまうケースも考えられる。『いちばんSPが低い生徒が足を引っ張っているから、オレたちのクラスは宝石ゲームで勝てないんだ!』……みたいな感じで。明らかにチームプレイを必要とする宝石ゲームをオレたちに課したい学園側が、わざわざチーム内でまで揉めごとを要求してくるとも思えない。そんな危険性を内包するのがSP、GPという情報だ。ふつうの生徒ならまず公にはしないだろう。
だが、光太郎は口にした。何かねらいがあってのことなのか、あるいは単にアホだったからなのか、その真実はわからない。しかしまちがいなくファインプレーだったろう。光太郎よりもSPが高い生徒は自分よりも下がいると胸をなでおろしただろうし、光太郎よりも低い生徒でも最低37,000はないとクラス1には在籍できない以上、自分だけが圧倒的に劣っている可能性はもはや排除されたと言っていい。羽那葉は少しでもオレたちを安心させるために、チーム一丸となって協力できるようにするために、ささやかなフォローをしてくれたのかもしれないな。
「最後に……明日から4日間、実力考査が実施されます。朝7時集合です。寝坊しないように、気をつけてくださいね」
「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」」
まるでオマケ感覚でテストの連絡をしてきた羽那葉。いつの時代でも学生にとってテストは忌まわしきイベントだ。阿鼻叫喚……ってほどではなかったが、みんなが大声を出してしまったのはある種必然だったのかもしれない。
そのとき、コンマ数秒遅れて、手をあげた生徒がいた。
遊華だ。
「先生、最後に質問してもいいですか?」
「ふふっ。いいですよ、牡丹遊華さん」
「時間は大丈夫ですか? 少し長引くかもしれません」
「今日実施されるべき全日程はすでに終了しています。案ずるには及びません」
「安心しました」
「それで、質問のほうは?」
「えっとですね……」
遊華が言葉を溜めたのは、これ以上ない刹那。
だからこそ、生徒たちがその真意に驚かずにいられるはずもなかった。
「他クラスの宝石。盗むのってありですか?」
5話でした!
「宝石盗むことってできるんかな?」って思ってた人も多いでしょう。盗むことができたらおもしろそうっちゃおもしろそうですが、そうするとゲームが破綻しかねません。破綻しないルールでも思いついたらいいんですけどね……さあ! HamashOはこの難題を突破することができるのか!
次巻へつづく!




