6. 宝石ゲーム、開幕⑥
「なっ……えっ? いまなんて……」
「そのまんまの意味だよ、光太郎くん。奪い合いって言うくらいなんだから、盗めるのかなって思って、宝石」
「そりゃ……そうかもしんねえけどよ……」
呆気にとられて微動だにしなかったのはなにも光太郎だけではない。全員が遊華を信じられないという表情で見つめている。
「でもそれがアリだったら成り立たないんじゃない、このゲーム。この学校って夜間でも自由に出入りできるんでしょ。だってほら、私たちの寮と連結してるし」
「栗花落ちゃんの言いたいこともわかる。ふつうに考えたら……そうだよね。ベランダに挿しても寝てる間に盗まれちゃうならお家に持ち帰るしかないし」
全クラスが家に宝石を持ち帰る方針をとるのなら、もはやそれは宝探しゲームではなく断続的に続く戦そのものだ。発見した宝石はすべて自室へと持ち帰り、月末、集計されるときだけ教室に持ってくる。裏を返せば、その瞬間を狙って相手の宝石を強奪することも1つの重要な戦略になってくるということ。毎月最後にカオスな戦争を繰り広げるだけの陳腐なゲームを、あの藤花がわざわざ課してくるだろうか。とてもじゃないがそうは思えない。総合的に加味すれば、盗めないルールになっていると想定したくなるのが妥当なところだ。
だが…………
この質問をしたのは、他でもない遊華だ。
「ええっと……お答えしてもよろしいですかね?」
「すみません、おねがいします」
「結論から言いますと……」
確固たる根拠を持って、遊華は質問した。
そう、オレは断言できた。
宝石を盗むのは――
「宝石を盗む。これは認められています」
「「「「「なっ――――」」」」」
「1つの立派な戦略になるでしょう。このゲームは正真正銘、花の宝石の”奪い合い”なのですから」
ふと、教室の外から幾人かの笑い声が聞こえてきた。他のクラスはもうホームルームは終わったということか。だが、自分も帰りたい――などと思う生徒は、今このクラスにはいないだろう。どころか、外のガヤガヤ音を感知できていない可能性すらある。それほどまでに、クラス1の空気は極度の緊張を掴み始めていた。
「他に質問は?」
「いえ、ありません。ありがとうございます」
「それでは私はこの辺でお暇させていただきます」
「ちょっ――ちょっと待ってくださいよ、先生!」
「――? どうしたんです柊くん。なにかまだ質問が?」
「いやいやそうじゃなくて! ベランダに挿したら寝てる間に盗まれちゃうじゃないですか! 話聞いてたでしょ! どうすればいいんですか! 教えてくださいよ!」
「それはみなさんで考えることです」
――パタンッ。
「「「「「…………」」」」」
羽那葉は立つ鳥のように跡を濁さず、静かに教室を去ってしまった。光太郎はドアのほうへ待ったの手を差し伸べたままに、ポツンとその場に立ち尽くしている。
そのときだった。
突然起立し、そのままドカドカと教壇に歩いていった男がいた。
「ちょっといいか。話がある」
自分の絶対的権威を誇示するかのように染め上げられた金髪に、キラリと光を反射させている銀色のピアス。寄りかかるようにどっしりと両の手を教卓に添えて、その男は、語り始めた。
「俺は漆花蓮杜。光華学園中を首席で卒業した人間だ」
「えっ―――!?」
「光華学園って……あの!?」
「そういえばどっかで聞いたことあるかも。今年の首席は別のトコに行くから光華の高等部には行かなかったって……」
「盛り上がってるところ悪いが、早速本題へ移らせてもらう。まずはみんな、ひと通り宝石ゲームの概要は把握した、ってことでまちがいないな? ……オーケー。俺たちが卒業祝儀を勝ち取るためには2つのことをしなきゃなんねえ。ひとつは、宝石ゲームで勝つこと。ふたつめは、能力を高めて現状GPには届いていないSPを引き上げていくことだ。SPに関しては詳細がまだよくわかっていない以上考えても無意味なうえに、そもそも個人戦だ。まずは一人ひとりが試行錯誤して高めていくのが重要だろう。問題なのはチーム戦――宝石ゲームのほうだ。ったく、わざわざ家に持ち帰んなきゃなんねえなんて、学園もめんどうなことをしやがるぜ。誰がどの宝石を保持しておくか、その話し合いをしたい。見たところ俺たちがもつ宝石は数十本。30人だとだいたい1人あたり2本か3本になるわけだが……如何せんバリューには随分な差がある。たった1本で1000バリュー以上獲得できる〈牡丹〉や〈ネモフィラ〉は、安易にテキトーなやつに任せらんねえ」
「確かにそうだな……なあ、お前は光華学園の人間なんだろ? 光華って言ったら、あの〈名門十華〉の中でも特に入学するのが難しいって言うじゃねえか。勉強だけじゃムリって聞くぜ。家柄はもちろん、その他にもいろんな技術に秀でてなかったらそもそも入学試験すら受けられない」
「ああ……実のところ、端からそのつもりで声をかけさせてもらった。ありがとうな、光太郎。俺が全責任を持って、〈牡丹〉と〈ネモフィラ〉、その両方を保管しておきたいと思う。俺がやるからにはどんなやつにも奪わせねえ。この中に不満のあるやつはいるか?」
「げっ、1人で両方持つつもりぃ~?」
「何か不都合なことでもあるか、銀さん」
「んにゃあ~別にぃ。でもさぁ~、私たちのバリューって言うても3700しかないわけじゃん? 2本だけって言っても1000バリューの〈牡丹〉と1500バリューの〈ネモフィラ〉。合わせて2500バリュー。蓮杜くんが優秀なのは疑ってないけど、いくらなんでもリスキー過ぎなぁい?」
「まあ……確かにな」
蓮杜からは実績とも相まって批判できない、しちゃいけないオーラがこれでもかと言わんばかりににじみ出ていた。事実これだけ過激な要求をまだ出身校くらいしか知らない一生徒から突き付けられたにもかかわらず、不満の声はほとんど出ていない。栗花落の意見はその意味でイレギュラーだったが、どちらかというと批判というより疑問視に近く、蓮杜があれこれと説得すればすぐにでも落ちそうな気配があった。
一方で、遊華はまったく別の次元にいた。
「ちょっと待ってくれないかな、蓮くん」
「あんたは……牡丹さん? 宝石の名前と同じで紛らわしいな……遊華さん、って呼んでも大丈夫か?」
「あっ、うん。呼び方についてはほんとに、うん、なんでも!」
「それで? 何か意見でもあるのか?」
「えっとね……ここまで話が進んじゃった中で言うのもなんなんだけどぉ……」
「……?」
「たぶんロックかけられるよ、そこの教室のトビラ」
6話でした!
さあ~最初のミステリが始まります。遊華はどうやってロックをかけるつもりなんでしょう? そもそもどうやってそのことに気が付いたのでしょう?
6話までのどこかですでに、その答えの核は言及されています。
7話を見る前にぜひいま一度、ケツの穴かっぽじって読み直してみてください♪




