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3. 宝石ゲーム、開幕③

 ――――ドカンッッッ!!!


「……()った」


「少しは真面目に議論に参加してはいかがでしょう。クラスメイトに対してそんな不躾なことを考えるだなんて、頭おかしくなっちゃったんじゃないですか、兄さま」


 いきなり後ろからオレを――正確にはオレの座るイスを――全力で蹴りとばしてきたのは、妹の瑠璃(るり)桜香(おうか)。ワイシャツの上にまとうのは、およそ現代的とは思えない唐衣風のボレロ。双子の妹ではなく、年子の妹だ。4月に生まれたオレと3月に生まれた桜香。幼いときこそ兄妹のようにわちゃわちゃと過ごした気もするが、時を経るにつれてだんだんと単なる同級生のように接するようになった。今ではちょっと変なことを考えただけでこのザマだ。まったく、もう少しやさしく扱ってもらいたいもの――


「兄さま?」


「はいはいごめんなさい」


 このやりとりはクラスメイトに一切聞こえていない。桜香は初撃のタイミングと同時に防音バリアを展開していたようだ。このバリアは桜香の超能力……というわけじゃない。数百年前の人間が聞けば驚きすぎて吹っ飛ぶと思うが、これは、科学技術の全特許をそろえ、テクノロジーの極限を追い求めている(ちょう)サイエンス機構――通称・エンストーン――が開発した誰でも使えるツールのひとつだ。桜香の場合はその機能を腕時計に内蔵していて、ボタンひとつでいともたやすく発動することができる。周りの迷惑にならないように展開してくれたんだろうが、そういう配慮ができるなら、最初から蹴りを入れてくるのを……いや、これ以上はやめておこう。


「まもなく防音を解除します。二度はありません。というか、あったら殺します」


()っわ」


 球状のバリアが天井のほうから半ば離散的にぷつぷつと切れていく。ふつうの人間には感知できるはずもない。が、オレたちには()()()ので、うっかりバリアを発動したままだと思ってて――なんてことは万に一つも起こらなかった。オレは蹴られたことでわずかにズレた椅子の位置を微調整しつつ、(かゆ)くなっていた左腕をかいた。


 羽那葉はネモフィラの宝石を教卓の花瓶へすっと刺し、質問者の栗花落を見て丁寧に語りだす。


「いい質問です、(しろがね)さん。おっしゃるとおり、花の宝石は道端に落ちている、ようなものです。より具体的に言いますと、兎にも角にも、いろんな場所に隠されているんです。宝探しゲームの色合いが強いかもしれませんね。この学園は東西南北にとどまらず、上下にも広大な敷地を持っています。採り尽くされてしまう心配は、しなくてもよいでしょう」


 宝探しか……。鉱山に眠る宝石を掘り出すって意味で言っているならイメージもしやすいが、藤花学園はとにかく見渡す限りサイエンス。学園都市とはかくあるべしな様相だ。隠されているとだけ言われても、どんなふうに宝石たちが待ちわびているのかは想像もできない。実際に見つけてみるまでは手あたり次第の作業になってしまいそうだな。


「そうなんだぁ……退学させられるっていうからどんな過酷なゲームなんだろって思ってましたけど、案外シンプルなんですね」


「ええ……とてもシンプルなゲームだと、私は思いますよ」


「それを見つけたらめでたしって感じなんですか? 見つけた時点で私たちのポイントになる?」


「これまたいい質問ですね。誰かから聞かれるかなとは思っていましたが」


 そう言って、羽那葉は目線を再度ベランダへと移す。ふつう窓の先には人がすれ違える程度に細い通路しかない。それこそ、大掃除の窓ふきにしか使わないくらいの。ところが、この学園では彩りに満ち溢れた庭園を有するベランダがあった。都会めいた建物にしかお目にかかれない学園だからこそ、花々が奏でる自然の合唱にはどこか心を落ち着かせてくれるところがあった。


「よく見ておいてくださいな」


 羽那葉は花瓶に刺したネモフィラの宝石を手に取って、ドアを開け、庭園の地面へと無造作に刺しこむ。そしてその周りでは、ネモフィラ以外にも様々なタイプの花が――花の宝石が、踊るように揺れていた。


 羽那葉は「これでよしですね」とひとこと、落ち着いた足どりで教室の中へと戻ってくる。


「宝石を見つけたら、このようにベランダに飾ってください。どこに差しても大丈夫です。見つけただけではクラスの宝石バリューとして反映されないですからね」


「え、ちょっと待ってくださいよ先生。それじゃあ、せっかく見つけても途中で他クラスの生徒から盗まれちゃったらどうするんですか!? 百歩譲って盗まれるだけならまだしも……暴力で略奪なんてされたらたまったもんじゃないですし」


 光太郎が懸念するのも至極当然の話だろう。もし暴力を容認してしまえば、〈宝石ゲーム〉は実質的に『力強き者が勝つ』野蛮なゲームへと成り下がる。そんなゲームでは、社会で役立つスキルなど、到底身に付くはずも――




「――はて」




「……? どうしたんですか、先生」


「すみません……柊くんがいったい何を心配しているのか……わかりかねておりまして……」


「いや、なに言ってんすか先生! 暴力を受けたりしたら何か救済措置はあるんですか! そう聞いてるんですよ! どうせあるんでしょ!?」


「……ああ。そういうことですか」


「まったく……藤花の先生なんですから、もう少しちゃんとしてくださ――」


「それでしたらそのようなものはありませんよ。略奪されたらそれまでです」


「は――」





「この学園ではいかなる暴力も容認されます」

 3話公開です! 今回はけっこうおもしろかったのでは!? おもしろかったよねぇぇぇぇぇ!!!

 あまりにも面白すぎて20分でかき上げちゃいましたよ。まったくもう。

 なぜ僕が今回こんなにもテンションが高いかわかりますか? 実は最近、毎日8時間跳ねるようにしましてね、それはそれはもう健康的なんですよ、脳が。だから異常なんです、生来なので。

 これは僕に限ったことじゃないですけど、なかなか忙しいとどうしても寝る時間を削りたくなっちゃいますよね。でもやっぱり寝たほうがいいんだなぁと思わされました。起きてる間いっぱい集中したいと思います。

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