2. 宝石ゲーム、開幕②
「なっ――いくらなんでもそれは、後出しすぎるだろ!」
「そうです! これはある種の詐欺になるのではないでしょうか? 場合によっては、法的手段をとらせていただくことになりますよ?」
1人目が男、2人目が女――というわけじゃなかった。むしろその逆。1人目が赤髪短髪のスポーティー女子生徒――おそらくは湊赤羽か――、そしてもう1人がクリーム色の髪をしたさわやかイケメン・宮寺琳だろう。いやはやこのスマートフォン、名前だけじゃなく写真、学籍番号、誕生日、身長、体重まで確認できてしまうのか。最初の内は非常に便利なツールになるかもしれないが、あとあと揉め事に発展しそうで気が気じゃない。少なくとも、下界でこんなことをやったら、まず間違いなく訴えられるだろう。特に女子から。一方で男子からは歓喜の嵐が巻き起こるかもしれない。わざわざBMIを聞いて身長から逆算するまでもなく、女の子の体重を知れてしまうんだから。
ところで……この10ケタの数字はなんだろうか――SP?
「ふふっ、法的手段……ですか。宮寺さん、少し落ち着いてくださいな。現行の裁判所が発足したのは第五次世界大戦が終結したとき、たった60年前の出来事なのですよ。対して、我ら藤花は3000年の歴史を誇る世界最古の学修機関。どちらのほうが権威性があるかなど、このクラス1に学力で在籍された宮寺さんであれば容易に想像のつく話だと思いますが?」
「うっ……たしかに、そうかもしれません」
「『春過ぎて 夏来にけるを 秋染むる 衣ほすてふ 冬が鳥海』。この句はそうですね……簡単に言えば藤花学園のスローガンみたいなものなんです。誰が詠んだのか、という問いに対して答えがあるのだとしたら、それはこの学園の総長ということになるでしょう」
「総長……」
「ええそうです瑠璃悠理くん。もしや総長について、なにかご存じなのですか?」
「っ!? ――いえ……失礼しました……」
やってしまった……。
何をやっているんだオレは。考えていたことが無意識に口から洩れちゃってたなんて、小学生でもしないミスだろうに。
齢15年と11か月。もう歳なのかもしれないな、オレも――
「ふふっ」
「…………?」
その表情は――――なんだ?
どこか夢の中にいるような、重厚な恍惚に包まれているような。
思わず見とれてしまう雅な光景が、オレの意識を刈り取るようにゆっくりと浸食してきた。
「――ちょっと質問してもいいですか? 羽那葉先生」
数秒の沈黙に迷いなく割りこんできたのは、その黒髪を春風にたなびかせた可憐な幼馴染だった。
「これはこれは牡丹遊華さん。大変失礼いたしました。どうかなさいましたか?」
「結局さっきの和歌の意味はなんだったんでしょうか? あと、あんまり高校生に対してそういう表情はするべきじゃないと思いますっ!!」
「おやおや、少々気分を害してしまいましたか? ごめんなさいね……ふふふっ」
羽那葉は優しく包むように持っていた青く輝く花の宝石をほんの少しだけ差し出して、オレたち生徒が見やすい位置で固定する。
「この花はネモフィラと言うんです。お名前自体はみなさんご存じでしょうが、実際にご覧になったことのある方はそう多くいないでしょう。一詞花言葉は、『成功』。二詞花言葉は、『あなたを許す』、そして三詞花言葉は、『可憐なる情動』です。このように、花という花たちは皆、それぞれの個性を持っています。窓の方を見てくださいな。ベランダの奥に藤の花が咲いていますよね。あれらは春に咲くお花。つまるところ藤花学園に入学したばかりのみなさんは、3年間の学園生活を四季になぞらえるのなら”春”にあたる新芽なのです。そして時間はあっという間に過ぎ去ってしまいます。春、夏、秋、冬。もちろん途中で退学してしまう可能性もなくはありませんが、いま不安がっても仕方のないことです。春は新芽のようにすくすくと成長し、夏は燦燦と降り注ぐ日差しを全身で浴びながら、懸命な努力の汗をかく。秋は衣ほすてふ――真っ白な布を染め上げる季節に、冬は鳥海――鳥のように高く羽ばたき、海がごとく深く考えをめぐらせられる逸材に。そんな願いが込められているんです。〈宝石ゲーム〉もその一環にすぎません。ペーパーテストだけでは測れない能力を見るために、座学だけでは促せない才能の進化を育てるために、実施されているものなんですよ」
どんな才能でも授かれるとはいっても、獲得上限が1つだけという制約は軽いようで重い。分不相応な力は身を亡ぼすことにつながりかねないからな。
置かれた状況をなんとなく理解し始めたこともあり、張り詰めた緊張感がほんの少しだけ弛緩する。そんなとき、どこか気の抜けた声が後ろの方から聞こえ始めた。
「えっとぉ~、宝石あつめるのはわかりましたけどぉ~、具体的にどうやって集めるんですかぁ? もしかしてぇ~、そこらへんの道端に落ちてたりして」
高校1年生にしてはどこか色っぽさを感じさせる声だ。首を少し回して声の主を見てみると、案の定な女子高生がそこには在った。ちょっとめくればかんたんに見えてしまいそうなほどに短いスカートを履いた女子が、肘を机に顎を手に、そんでもって眠そうな装いで羽那葉のほうを見ていた。
身長154センチ、体重53キロ。銀華中学出身の銀栗花落。高く結われた銀髪のポニーテールが腰のあたりでしなやかに揺れていて、その度になでたくなるような艶のある肩と真っ白な首筋が覗く。極めつけはガーターストッキングだ、しかも銀色。
なんというか……エロいな。
最後まで見てくださりありがとうございます! 1話がだいぶ重いお話でしたので、今回は少しラフにさせていただきました! ちなみに最後に登場した栗花落ちゃんは僕の推しキャラクターです。ぜひ好きになってください!!!
余談ですが来週テストがあるんです。臨床腫瘍学って言うんですが、見るからに難しそう……厳しいって。




