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1. 宝石ゲーム、開幕➀

「春過ぎて 夏来にけるを 秋染むる 衣ほすてふ(ころもほすちょう) 冬が鳥海(ちょうかい)


 窓のいくつかが半開きになっているせいか、やけに春の匂いが心地いい。桜で反射した太陽の光と無機質に教室を照らす蛍光灯が()い交ぜになって、時代に似つかわしくない黒板の上で白色のチョークが軽快になぞられて行く。


【18】西暦2584年4月8日


「この和歌の意味がわかる人はいますか? じゃあ~(ひいらぎ)くん!」


「ちょっ、えっ!? 俺っすか?」


「はい。そこの最前列にいる、メガネをかけた短髪の()の方。どうぞ起立してください」


「って言われてもなぁ。俺古文とか真面目に勉強したことないし……」


 春夏秋冬すべての季節が大胆に混ざった野蛮な和歌。いやその道の人からしてみれば、きっと和歌と名乗ることさえ許されない。誰が詠んだ唄なのか、ほんの少し考えたところでふと我に返った。そういえば――これは古文の授業じゃなかった。入学式が始まるかと思いきや行われないみたいだし、自己紹介を要求されるかと思いきやそんなこともなかった。彼が驚きを隠せなくてもムリはない。突然入ってきた担任教師が意味不明な和歌を悠々と語り始めるやいなや、まさかその意味を尋ねてくるなんて。とてもじゃないが想像できない。


「え~っと……春が過ぎて、夏が来たと思ったら秋が来ちゃった……的な? すいません、これ以上はよくわからないっす」


「いえいえ、上出来ですよ。よくがんばりましたね、着席してください」


「うっす」


「みなさんこんにちは。私はこのクラスを担当することになった姫坐耶(ひめざや)羽那葉(うなば)と申します。漢字がとても難しいので、私になにか御用のある方はひらがなを使っていただいて構いません。これから、この学園を生きるみなさんが()()()()()()()()()よう、()()()()()()()サポートさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」


 羽那葉はニコッと笑って和やかに締めくくる。だが、内容は断じて穏やかなものではなかった。拍手は起こらなかった。今から彼女の口から告げられることになるだろう〈学園のルール〉が、オレたちの運命を決定づける重要なピースになる。そんな予感すら抱けない愚かな生徒は、生憎とこのクラス(ワン)には一人もいなかった。


「――みなさんにはこれから、〈宝石ゲーム〉を始めてもらいたいと思います」


 穏やかな笑顔はそのままに、羽那葉は本題を切り出した。


「宝石、ゲーム……?」


 柊――支給されたスマートフォンで確認してみるに、彼の名前は(ひいらぎ)光太郎(こうたろう)というらしい――がぼやいた声が、じんわりと浸透していく。その声に呼応するように、クラスの面々は不安と疑念を全身に(にじ)ませはじめた。


 羽那葉は教室全体を軽く見渡したあと、白く美しい指先を目の前に伸ばし始める。教卓の上に置かれたソレを手にとるんだと、全員が即座に理解したはずだ。入室したそのときから、きっと誰もが目を奪われたにちがいない、1輪の青い花……いや花の形をした――


「すでにお気づきの方も多いでしょう。この花は花ではありません。花の形をした()()です。みなさんにはこの花を、3年間、他のクラスと奪い合ってもらいます」


「奪い合う? ……何のために奪い合うんですか? たくさん集めたらなにか……いいことでも、あるんですか?」


「いい質問です柊くん。はいと答えるべきか、いいえと答えるべきか……少々、迷ってしまいますね」


 右の人差し指で羽那葉は頬をゆっくりとなぞりだす。本当に迷っているのか疑いたくなるほどに洗練されたその所作が、オレたちと彼女が持つ温度の隔離を如実に物語っていた。


「ところで……みなさんはどうしてこの学園に入学したんでしょう。柊さん、代表して教えてもらっても?」


「え……そりゃあ、卒業したらもらえる〈卒業祝儀〉目当てですけど……ぶっちゃけそれ以外の理由で入った人なんているんすかね?」


 ……流石にもう少しオブラートに包んで言ってもらいたい。確かに羽那葉はどこにでもいそうな新任の先生みたいだが、それでもれっきとした()()()()の先生なんだから。発言の自由はある程度認められるべきだとは思うが、そのしわ寄せでこっちまで怒られたらたまったもんじゃない。


「ふふふ……正直ですね、柊くん。ですが今はむしろそのくらい素直なほうが話を円滑に進められるのでありがたいかもしれません。みなさんも大なり小なり、似通った理由なんでしょう? 天地がひっくり返ってもありはしないのですから。自分が欲する天賦の才を、獲得できる居場所など」


 ――東京都渋谷駅上空に在る、藤花学園(ふじばながくえん)。高度3000mに()()()()この学園は、はるか3000年も前から一度として途絶えることなく存在するという。誰が、いったい何のために作ったのか。そんなあるべき情報がことごとく抜け落ちた学園だ。地球の西暦はとうに2500年を超え、文明はもはや栄えつくしたとさえ言われているこの時代。四方八方、どこを見渡すにしても、藤花ほど白紙に満ちた場所などありはしなかった。


 そんな怪しげな学園に、なぜ3000人もの生徒が集まるのか。

 簡単な話だった。


『藤花学園の卒業生は、どんな類であろうとも、1つだけ才能を授かることができる』


 そんなありふれた妄言が、社会に浸透しているからだ。

 信じられない話なのに、信じざるを得なかった。


 ノーベル賞、世界陸上、ヴェネツィア・ビエンナーレ。どんな競技であろうとも、それが他人と競い合う類である以上、必ず逸材が現れる。恐るべきは、世界にはびこる逸材の、10人に1人が藤花の卒業生だと言われていることだ。一見すると、そこまで多いか? と疑問に思うかもしれない。だが、分野を問わなければ星の数ほどいる逸材の10分の1を、たった1つの学園が占めている。この事態は十二分に異常と言って良かった。

 

 藤花学園にさえ入学できれば、野望を果たせる可能性が飛躍的に上がる。むしろ野心あふれる中学生たちにとって、藤花を拒む理由がなかった。


 だが…………


「せっかく希望を抱いて入学してくれたのに……すみません。全員が全員、卒業できるわけではないんです」


「どういうこと……です?」


「考えてもみてください。3000人もの中学生が入学してくるこの学園で、毎年毎年全員に〈卒業祝儀〉なんて与えてしまえばどうなりますか。きっと進化に人類そのものが耐え切れず、ものの数十年で絶滅してしまうでしょう」


「……」


 羽那葉はまだ学園のルールを何ひとつ説明していない。たが言われずともひしひしと、オレたちは理解させられた。


 この学園の狂気とも言うべき、残酷なルールを。


「藤花の卒業生になれるのは、1クラスだけなんです」


 クラス分けは入試成績に基づいて実施されている。クラス1からクラス37――全部で37クラス。とてつもなく中途半端な数字だ、もっとキリのいい数字にすればいいのに……と、内心思ってならなかった。


 しかしその認識はまちがいだった。


「各クラスが所有する〈宝石バリュー〉は毎月、月末に順位付けされます。最下位のクラスに在籍する生徒たちには……残念ですが、退学していただきます。3年間、36か月、これを繰り返してもらいます。クラス1のみなさん、最後の1クラスに残れるよう、ぜひがんばってくださいね」


 無慈悲にも叩きつけられた目の前の現実に、オレたちはただ、沈黙を貫くしかなかった。

 最後まで読んでくださり、ありがとうございました! 最近カクヨムコンに落ちまして、意気消沈しているHamashOです。いや、そんなことここで言うなっ!って話なんですけどね? 悔しいものは悔しいんです。自分医学生もやらせてもらってるんですが、いやはや、両立って本当に難しいですね。今年22歳になるってのにいまだにできる気がしないです。


 何はともあれ、今回の作品はめちゃくちゃ自信があります。なんというかこう……呪術廻戦で言うところの黒閃を決めた感覚があるんですよね、小説の核心を烏滸がましくも掴んだ気がしてます。


 3日に1日更新を目標に頑張っていく予定です。おもしろいと思ってくださった方には、ぜひ続きも読んでいただきたいなと思います! よろしく!!

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