7.『シオンって努力家だよね。』【シオン視点】
ちょっっっっっとだけシリアス(多分)
俺は伝統のある伯爵家の長男として生を受けた。
小さい頃は、普通に両親を慕っていて、両親も俺を愛してくれていると純粋に思っていた。
実際に、両親とは仲が良く、裕福な一般的な家庭という感じだったし、愛されている感覚があった。
ーーでも、愛しているのは優秀な伯爵家の跡継ぎだった。
それに気づいたのは、本当に偶然だった。
俺は伯爵家の跡継ぎとして、帝王学や魔法史などの学問を幼少時から習っていた。
そして、三ヶ月に一度程の頻度で、その時々の実力を測るために、テストをやる。
その日のテストは特に難しかった。その点数があまりにもひどくて、俺はショックを受けた。その様子を見た両親はぎこちないながらも、慰めてくれた。
そこまでは良かった。
その夜。想像よりもショックが酷かったようで、俺はなかなか寝付けなかった。しょうがないので、ホットミルクでも飲んで落ち着こうと食堂へ向かった。
メイドや下僕を起こすのは忍びなくて、音を立てないように歩いていると、両親の部屋から怒鳴りあうような声が聞こえて、足を止めた。
「……どうするんだ!今日のあの点数は…流石に失望に値するものだった!」
「…やめてあげなさいよ!まだあの子はまだ成長途中じゃないの!」
「成長?クロウ伯爵家の跡継ぎにそんな言い訳が通るとでも!?」
「…次は大丈夫よ。きっと。今まではずっといい点数を取ってたじゃない!あの子はできる子なのだから!」
「いい点数を取り続けることが大事なんだよ!!できる子だから価値がある!」
その後も両親の言い合いが続く。その言い合いで気づいてしまったのだ。
(あれ?俺の名前、一回でも出てきたか?)
(慰めてくれたのは、俺が落ち込んでいたからじゃなくて、次のテストでいい点数を取らすためだったの?)
両親から出てくる言葉には『伯爵家』『跡継ぎ』『評価』『外聞』と、俺を心配するような表現やニュアンスを感じなかった。
それからの俺は優秀な跡継ぎとしてだけでも愛されようと思った。
勉強。勉強。勉強。
俺が頑張れば頑張るほど大事にしてもらえる。
十五歳になり、王立魔法学園へ入学することとなった。
入学式の日、ほぼ無感情でつまらない話を右から左へ聞き流していた時。軽く、隣の人物と肩がぶつかる。
「すみません。」
振り返ると、見たことのないほどの美人が座っていた。
まず目に入るのはキラキラと光を反射する淡い金髪と、夜空を閉じ込めたような神秘的な瞳。
「あっ!いや全然大丈夫です!こちらこそすみません!」
と、その人物は満面の笑みでそう答えた。その行動に、ふと違和感と驚きを覚える。
(初めて笑顔を向けてくれた気がする。)
初めて会ったのだから、当たり前だろうと思いつつも、なぜかそう感じたのだ。
彼女は同じクラスだった。名前はセラ・ウィンドフォールというそうだ。ウィンドフォール公爵家の長女だろう。傲慢な性格だとか、我儘だとかいう噂を聞いていたが、ただの慌ただしい少女という印象を持った。でも、何か引っかかる感じがして、セラと関わってみようと思った。
♡ ♡ ♡
(先生に雑用を頼まれて遅くなったけど、今日もあいついるかな。)
俺は今、図書室に向かっている。あれから一週間、俺はセラに負けないためにも、図書館で勉強するのが日課となっていた。正直、セラと勝負していなかったら、学年十位以内を目指していただろうが、今は一位を取るつもりで死ぬ気で勉強している。
セラに勝負を仕掛けられた時は、簡単に挑発に乗る様子を見て、余裕だなと思っていたが、あの魔力制御を見て考えを改めた。
(あいつはああ言っていたが、絶対出力を変えて、俺の制御ミスをカバーした。同年代であんな細かい魔力制御できるのか?)
そんなことを考えていると、図書室が近づいてくる。
「〜〜」
「〜〜!〜?」
(なんか騒がしいな。)
いつもは生徒がほとんど居ず、静かな図書室で、賑やかに談笑するような声が聞こえてくる。
図書室を覗くとセラが特待生と三年生と思われる男子生徒と仲良く雑談していた。
(…っ!)
それを認識した瞬間、俺は踵を返した。
なぜかはわからない。でも、これ以上そこにいたくないと思った。
(……きっと騒がしい場所は勉強に向かないからここで勉強しようと思わなかっただけだ)
それからも、なんとなく図書室に行く気にならず、勉強は図書室以外の場所ですることが多くなった。
♡ ♡ ♡
「シオンって努力家だよね。」
その言葉を、すぐには理解できなかった。
努力。
それは俺にとって、褒められるものじゃない。
価値を得るための手段だ。
愛されるための条件だ。
「いっつも勉強してるじゃん。ああいうの、私にはできないから、本当に尊敬するんだよね。」
尊敬。
その単語が、胸の奥でひどく不自然に響いた。
(……努力が、すごい?)
ーーできる子だから価値がある。
あの夜の声が、不意に蘇る。俺の呪縛になっている言葉。
点数でもなく。
順位でもなく。
伯爵家の跡継ぎでもなく。
俺が、ただ積み重ねてきただけの時間を。
胸の奥が、じわりと熱を持つ。
心臓の音が、やけに大きくなる。
うまく息が吸えない。
視界の端が、少しだけ滲んだ気がした。
(……なんだ…これ)
ただ一つだけ、はっきりとしていた
(彼女は俺を見ている)
それがどれだけ救いだったのか。
そのときの俺は、まだ知らなかった。
ただーー
俺は、どうしようもなく、セラから目を逸らせなかった。
その理由を、まだ言葉にする勇気はなかったけれど。
ちょっと小話
実はシオンは勉強が好きではないです!伯爵家長男に相応しい量の勉強さえ出来れば、あとはできるだけサボりたいなーって思ってます!




