6.結果発表
今回の実技試験は魔力を放出し、その魔力の形を整えるという簡単な試験だ。
何十年も行ってきた、魔力制御はセラならば余裕なはずだった。
しかし、セラはここ何十年間で、精神状況が、もっとも荒れていた。
(なんだったのマジで!え!?本当にパニックなんだけど!あの後ニナとリリアに散々揶揄われたし!………てか、ノアってあんな意地悪な顔もするんだなあ……知らない一面が見られてよかった……ってそうじゃなくて!)
パニックになりすぎて、もはや現実逃避気味になっていると実技試験の順番が周ってきてしまう。
「セラ・ウィンドフォール!」
「え、あ、はい!」
「魔力をこのように放出し、適当な形を作ってください。形の繊細さや、作り終わるまでの時間が評価対象になります。」
と言って、試験官が、魔力で猫を作った。
さらにパニックになる。
(え?適当な形?前回は何、作ったっけ?あれ?さっきイメトレしてたはずなのに、全部ぶっ飛んだ。えー。えー。)
全然思い浮かばなくて、時間ばかりが過ぎていく。
大体三分くらい掛かっただろうか。流石にやばいと思い、目の前にあった試験官の猫を再現する。
「これでいいですか?」
試験官は声が掛かって、やっとかという様子で顔を上げる。
試験官は、猫を確認して、少し驚いた様子を見せた。なぜなら、自分の出した猫と全く同じ形のものが出来上がっていたからだ。似せて作ったというレベルではなく、丸々複製。それを見た試験官は、満足した様子で、セラの退出を促した。
「では、これで実技試験を終わります。お疲れ様でした。」
♡ ♡ ♡
実技試験が終わり、教室で帰り支度を始めると、冷静になって、憔悴する。
(終わった。終わった。終わった。絶対点数低いって!三分だよ!三分。前世にあったカップラーメンが完成する時間。いつもの周回では大体三十秒から一分くらいだったからいつもの四、五倍くらいの時間掛かったってことだよね!!マジ終わった!)
そんなセラの顔をシオンが覗き込んだ。
「どうだった?」
「……筆記はできた。」
「筆記は?実技何やったんだよ。」
「緊張で全然頭が回らなくて、三分悩んだ結果。試験管が出した猫を作った。」
ノア云々を話すのは面倒だったので、緊張で頭が回らなかったことにした。
「ふはは。お前結構神経質だよな。」
「いいやん!別に!」
「うわー何お願いしようかな…」
「うー。でも筆記は完璧だから!満点の自信あるし!」
「言ってろー。明日の結果楽しみだな。」
♡ ♡ ♡
【結果発表の日】
試験の結果が発表された。
一位 687/700 シオン・クロウ
二位 680/700 セラ・ウィンドフォール
三位 663/700 リリア・フェルノア
…
「うわ!おっしぃ〜。あと七点じゃん!」
「うわ!あぶね」
シオンとセラの声が被る。
(あれ?シオンっていつもこんなに点数高かったけ!?いつも十位くらいだったよね!)
「……悔しい…!」
セラは、下唇を噛む。けれど、よく考えたら今回の目的は生徒会に入ることだったので、こっちの目標は達成できなくても仕方ないかという気分になってくる。
「よし!あいわかった!何が望みですか!」
覚悟を決めて勇みよく叫ぶと、周囲が変な表情で見てくる。
「…おっ、おい!やめろよ!それ聞くと俺が脅してるみたいだから!」
「あ!ごめん。一旦教室でお願い聞くよ。」
教室へ向かっている途中。シオンがこの空気に耐えかねて、話しかけてくる。
「意外と清々しいんだな。もっと拗ねると思ったのに。」
セラはそれを聞いて『確かに』と感じたけれど、なんでだろうと理由を考えて、その理由に納得する。
「シオンって努力家じゃん?いっつも勉強してるじゃん。ああいうの、私にはできないから、本当に尊敬するんだよね。あと、最初の実技の授業で魔力押し合った時?制御が上手だなって。制御は特に努力が必要になるから。だから、やっぱり負けちゃったかみたいな。シオンになら負けても仕方ないかって思っちゃったんだよね。きっと。」
(別の周回でもここまで成績はよくなかったけど、授業後に先生に質問したり、図書室で調べ物したり。シオンは努力の人って感じなんだよね。)
教室に着いて、セラがシオンを振り返ると、シオンは少し顔を赤くして、俯いていた。その様子にセラが焦り始める。
(…え?もしかして上から目線すぎて怒った!?えっとなんか言った別のこと言った方がいい!?)
「あっ!あの!本当に努力って大変で!私、今回はシオンがいるから頑張れたけど!いつもは全然できなくて!努力するってある意味才能だし!」
というふうに言い募っていると、さらに顔を赤くしたシオンが
「…もうやめろって……」
というので、セラの焦りが最高峰に達する。
「え〜と。う〜んと。だから努力してるシオンがすごいっていうことを言いたいんだけど!」
セラは、自分がもはや何を言っているのかわからなくなってきているけれど、この最後の一撃に、撃沈したシオンが『ぐふっ』と何かを喰らったような声を発し、それを見たセラがかなり引く。
(何!何!恐怖なんだけど!え!私何かやっちゃった!?)
セラが慌てている間に、シオンは少し、冷静さを取り戻したようだった。
「ごめん。ちょっと……いや…なんでもない。気にしないでくれ。」
シオンの顔の熱が引いたのを見て、セラは若干ビクビクしつつも、少し安心する。
「あーーーー。マジで何お願いするか考えてなかったんだよな〜〜……」
さっきのことがなかったかのように切り替えて、悩むような仕草をした。
「次の試験まで勉強一緒にやるっていうのじゃだめか?」
「……え?…え?そんなことでいいの?」
何をお願いされるのかと、身構えていたセラは拍子抜けする。
「『そんなこと』って……なんか別に他にお願いするようなこともないし……」
「よかった〜!もっとなんかやばいの言ってくるのかと思ってたから安心しちゃったよ。」
それを聞いたシオンは、拗ねたような顔になった。
「じゃあ何?キスしてくれとかお願いされたかったの?」
(はい?)
セラの思考が一瞬真っ白になる。
セラが中々、意味を咀嚼できず、フリーズしているのを見て、シオンは、『冗談だ』と言おうとした。
しかし、セラは徐々に目を開いていき、目が潤み、頬を赤らめていった。
セラは気づいていなかったのだ。自分がどのような顔をしているのか。しかも、冗談でもそのようなことを言った(自分よりも背が高い)シオンを睨みつけようとした行動が上目遣いになっている事にも。
「は!?ば、ば、馬鹿言ってんじゃないであそばせ!?」
その様子に、一回冷静になったはずのシオンが『ボフン』という音が聞こえそうなくらい、一気に顔を赤らめる。
二人は周囲の音が遠ざかっていくのを感じ、心臓の音が耳元で鳴っているような錯覚を覚えた。そんな、変な空気になり始めた瞬間。
「さっき廊下で!シオンが!セラを脅迫してるって!聞いたんだ、け、、ど?……えーっとどういう状況?」
ニナが教室にズカズカと入ってくる気配を感じて、二人は我に返って、赤かった顔が青くなり始めた。そして、ニナが自分たちの元へ辿り着く前に、と、瞬時にお互いに視線を逸らした。それは、側から見ると喧嘩で仲違いして、お互いに、『あんたなんか知らないからね』となっているかのようだった。
「え、、ええ。なんでもないわ。」
「あ、、ああ。なんでもない。」
なんて、ほざいている間にも、二人の視線が迷子になっていた。
「いや!絶対なんかあったって!!そうじゃなかったら、そんな反応しないから!」
「いや!本当になんでもないの!」
「そうだぞ!」
「……わかった…」
というニナの言葉を聞いた二人は安心したが、次の瞬間。
「みんな!何があったの!!教えて〜〜!」
と、クラスの人々に情報を求め始めた。
(うわ〜〜そっか!!今、教室にいるじゃん!)
今更ながら、教室にいた人たちには見られていたことに気づいた。だがしかし、ニナには絶対に知られてはいけないことだと、思い立った。
「ニ〜ナ〜?ちょっと待って?本当になんもないから。」
セラは、自分がもっとも怖いと思う顔で、ニナを引き止める。
(これでも悪役令嬢なんだから!)
「え?何?なんかひんやりするんだけど!やめて!!そのオーラみたいなの引っ込めて!?」
ニナは軽く辟易するだけだったが、ニナとシオン以外の教室中の生徒が、顔色を無くす。
「なんもなかったから。そうだよな。なんもなかったよな!」
シオンが、最後のトドメだというふうに闇属性の魔力の粒子を撒き散らしながら、みんなに釘を刺す。
その迫力に押されて、皆、その質問にカクカクと頷く。
「ですってニナ。だから何もなかったの。」
「みんな情けないな〜〜……まあ、しょうがないか。脅迫もされてなかったみたいだし。なんもなかったならいいや。じゃあね!」
その言葉を最後に、ニナは自分のクラスへ帰って行った。嵐が去った後のような静けさが訪れる。最初にそれを破ったのはセラだった。
「……シオンってニナと関わりあったんだね」
「…ああ。なんか俺がセラと仲良いの知って俺が嫌がるのも無視して無理矢理知り合いにさせられた。」
(うわー。ニナっぽい…てかどんどんシオンのリリア以外と話さない設定が崩れていってる……)
セラとシオンが張り詰めた空気を緩め始めると、だんだんと、クラスに賑わいが戻っていった。
ちょっと小話
リリアのテスト結果詳細
外国語:100/100
呪文学:100/100
魔法史:100/100
魔数学:94/100
魔法薬学:96/100
魔法具:92/100
魔法実技:98/100
シオンのテスト結果詳細
外国語:97/100
呪文学:100/100
魔法史:100/100
魔数学:94/100
魔法薬学:100/100
魔法具:100/100
魔法実技:96/100
実はセラの方が魔法実技の点数は高いです!




