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私を何度も殺してきた人たちと恋愛したら、ヤンデレ化された件  作者: ニアン
魔法競技大会編

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58.教会も

 翌日の放課後。


 授業を終えたセラが教室を出ると、廊下の先に学園長の姿があった。


「セ、セラ殿」


「学園長先生?」


「す、少しよろしいですか?」


「はい」


 いつも通りのどもり方だ。こんな人が学園長だから公爵令嬢が断罪される出来事が学園内で起こるんだといつも少しイラッとする。


 けれど、その隣に立つ人物を見て、セラは足を止めた。


 白を基調とした法衣。胸元には、見間違えるはずのない教会の紋章が刻まれている。


「……教会の方ですか?」


「はい」


 男性は静かに頭を下げた。


「王都大聖堂より参りました、アルベルトと申します」


「セラ・ウィンドフォールです。よろしくお願いします」


 セラも頭を下げる。


「突然の訪問をお許しください」


「いえ……」


 わざわざ教会から人が来る。その理由なんて、一つしか思い浮かばなかった。


「光魔法について、ですよね」


「お察しの通りです」


 アルベルトは頷いた。


「先日の魔法競技大会で、あなたが使用された治癒魔法について、教会でも確認させていただきました」


「……はい」


「そして、教会より正式に、あなたへお願いがございます」


 セラは背筋を伸ばした。


「私を、教会の保護下に置きたい……という話でしょうか?」


「その通りです」


 アルベルトは迷いなく答えた。


「あなたの光魔法は、これまで確認されてきたものとは明らかに異なります」


「……」


「教会としては、その力を持つあなたを、今後も安全に守る責任があると考えております」


 セラは黙って聞く。


「具体的には、あなたが学園を卒業されるまで、教会が身辺の安全を保障いたします」


「卒業まで……」


「はい」


「学園には?」


「これまで通り通っていただいて構いません」


「……え?」


 思わず聞き返した。


「学園生活について、教会が不必要に干渉するつもりはありません」


 アルベルトは穏やかに続ける。


「授業も、生徒会活動も、友人との交流も。基本的には今まで通りです」


「じゃあ……」


「ただし」


 アルベルトが一言付け加える。


「護衛を付けさせていただきます」


「護衛……」


「教会騎士を数名。常にあなたの近くに配置することになります」


「なるほど……」


 セラは少し考えた。


 完全に自由というわけではない。けれど、学園生活そのものを奪われるわけでもない。


 アルベルトが微笑む。


「ただ、一つだけ条件がございます」


「条件?」


「はい」


 アルベルトの表情が少しだけ真剣になる。


「教会の保護を正式に受けていただく場合、現在の婚約について、見直していただく必要があります」


「……ノアさんとの婚約ですか?」


「はい」


 セラの表情が僅かに曇った。


「教会の保護下にある者が、特定の貴族家と婚姻関係を結ぶことになれば、完全な保護とは言えません」


「……」


「ですから教会としては、婚約を解消した上で、正式に保護下へ入っていただきたいと考えております」


 セラは黙り込んだ。


 やっぱり、そうなるのだ。


 教会が自分を守る代わりに、ノアとの婚約を手放す。


 セラにとっては、決して軽い選択ではなかった。


(でも…)


「……すぐに答えを出さなくてもいいですか?」


「もちろんです」


 アルベルトは頷いた。


「これは、あなた自身の人生に関わることですから」


「ありがとうございます」


 セラは小さく頭を下げた。


「少し考えさせてください」


「承知しました」


 アルベルトはそう言って、ヘコヘコとしている学園長と共にその場を離れていく。


 その背中を見送りながら、セラは一人考え込んだ。




♡ ♡ ♡




 二人を見送ったあと、セラは一人、生徒会室へ向かっていた。


「……はぁ」


 小さく息を吐く。


 どうするべきなのか。自分でもまだ答えが出ていなかった。


 生徒会室の扉を開ける。


「お疲れ様です」


「あ、セラ」


 中にいたのはノア一人だった。


「病み上がりの後の授業お疲れ様〜」


「はい」


 セラはいつもの席に座る。


 けれど、ノアはすぐにセラの様子がおかしいことに気づいた。


「……何かあった〜?」


「え?」


「なんだか、難しい顔してるから〜」


「……」


 セラは少し迷ってから口を開いた。


「今日、教会の方が来ました」


「……教会?」


 ノアの表情が変わる。


「はい」


「何の話?」


「私の保護についてです」


「……」


 ノアは黙った。


「教会の保護を受けないかって」


「そう〜……」


 柔らかな声。けれど、いつものような穏やかさはなかった。


「具体的には〜?」


「学園にいる間は、今まで通り過ごしていいそうです。ただ、教会騎士の護衛が付くみたいです」


「……それだけ?」


「それだけじゃありません」


 セラは少しだけ視線を落とした。


「教会の保護を正式に受けるなら、ノアさんとの婚約を解消してほしいって」


「……」


 ノアは何も言わなかった。ただ、膝の上で手を握る。


「……」


「ノアさん」


「うん?」


「私、まだ答えは出してません」


「……どうして〜?」


 その問いに、セラは少し困ったように笑った。


「どちらも、悪い選択じゃないからです」


「……」


「教会の保護を受ければ、私の身の安全はかなり保証されると思います」


(正直、教会はいい条件を出してきた。学園生活もそのまま。自由は少なくなるけど、護衛がいるから暗殺の心配もない。しかも、教会は婚約者を作らせたくないみたいだから、レオンとの婚約も回避できる……)


「でも……」


 セラはノアを見る。


「私は、ノアさんとの婚約をなくしたいわけでもないんです」


 ノアが顔を上げた。


「……え?」


「ノアさんは光魔法について詳しいし、私が何か困った時も助けてくれました」


 セラは少し笑った。


「それに……」


 言葉を探す。


「婚約者としてノアさんが隣にいてくれることに、私はもう慣れてしまったので」


「……慣れた?」


「はい」


(この人なら大丈夫だって無意識のうちに認識してるし。)


「それだけ?」


「はい?」


「いや……」


 ノアは小さく笑った。


「なんでもないよ〜」


 けれど、その笑顔はどこか寂しそうだった。


「だから」


 セラは続ける。


「今のところは、婚約を維持できるなら、それが一番いいと思っています」


「……」


「ただ」


 セラは少しだけ苦笑した。


「王家がどう考えるか分からないですし、リィン家に負担をかけてまで婚約を維持したいとも思っていません」


「……セラ」


「もし婚約を解消することになったら、その時は教会の保護を受けるのも悪くないと思っています」


 ノアはしばらく黙っていた。


 そして、静かに口を開く。


「……僕は」


「はい」


「君に負担をかけてまで婚約を続けたいとは思ってないよ〜」


「……」


「でも」


 ノアはセラを見る。


「僕自身は、婚約をなくしたいとは思ってない」


 セラの胸が少しだけ温かくなる。


「……ありがとうございます」


「ううん」


 ノアは笑った。


「だから、もう少し考えよう〜」


「はい」


 二人の間に、穏やかな沈黙が落ちる。




♡ ♡ ♡




――その会話を。


 扉の外で、一人の少年が聞いていた。


「……」


 カイだった。


 生徒会室へ入ろうとドアノブに手をかけた瞬間、扉の向こうから聞こえてきた言葉に、手が止まった。


――教会の保護を受ける可能性もある。


――婚約をなくしたいわけじゃない。


――今まで通りが、一番安心する。


「……そっかー」


 カイは小さく呟いた。口元には、いつもの笑み。


「光魔法が発覚したから婚約が不安定なんだー。」


 別に、驚くことはなかった。二大公爵家を易々と王家が結ばせるとは思っていなかったし、セラが光魔法を使えると知られた今ではもう婚約なんて解消させたいに決まってるだろう。


(これはチャンスだ)


 諦めたことなんて、一度もない。


 告白だってした。頬にキスだってした。


 二人きりで閉じ込められた時だって、セラの反応を見ながら、少しずつ距離を縮めてきた。


 セラは自分を嫌っていない。


 それどころか。最近は、自分から向ける好意にも無自覚だが、少しずつ慣れてきている。


「……だったら」


 カイは壁に背を預けた。


「もっと頑張ればいいじゃん」


 婚約者がいるから。セラはそれを理由にカイを遠ざけてきた。


 でも、婚約が婚約者の負担になると知った今なら?


「俺の好意を受け入れてくれる可能性があるんじゃない?」


 嬉しそうに笑う。


 けれど、その目は笑っていなかった。


「……いや」


 カイは少し考えてから、くすりと笑う。


「可能性じゃないな……セラちゃんは俺がもらうんだから」


 誰に聞かせるでもなく、呟く。


 それは願いというより、決定事項のようだった。別に、ノアが嫌いなわけじゃない。


 むしろ、カイよりもセラを大切に扱えることくらい分かっている。


 だからこそ。


「……余計に厄介なんだよね」


 セラがノアを見る時の表情を思い出す。


 安心したような顔。信頼している顔。あれを見るたび、胸の奥がざらつく。


「でも」


 カイは笑う。


「それなら、俺もそうなればいい」


 ノアといる時より安心するように。ノアといる時より楽しいように。ノアではなく、自分の隣にいることが当たり前になるように。


「毎日会って」


「毎日話して」


「毎日好きって言って……」


 そこまで呟いて、カイは楽しそうに笑った。


「そのうち、俺がいないと寂しいって思うくらいにしてあげる」


 優しく。


 気づかれないように。


 セラ自身が、自分からこちらを選びたくなるように。


「……そうしたら」


 カイは扉を見る。


 その向こうには、大好きな少女がいる。


「セラちゃんは、俺から離れられなくなるよね」


 その声は、驚くほど穏やかだった。まるで、何かとても優しいことを考えているように。


「……楽しみ」


 カイは笑った。


「もっともっと、俺のこと好きにさせよー」


 そして。


 何事もなかったような顔で、廊下を歩き出した。


 ――今までより少しだけ。


 セラとの距離が縮めやすくなった。


 それだけのこと。


 ただ、それだけのことなのに。


 カイにとっては――セラを手に入れるための、十分すぎるきっかけだった。

ちょっと小話!


実はセラが知らないだけで、リリアのノーマルエンドは教会に保護されるエンドです!

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