57.「俺じゃダメか?」
生徒会室を出た後、ノアから送ると申し出があったが、ご丁寧に断らせてもらった。
(……少し考えたいこともあるし。)
セラは一人、図書館へ向かっていた。王家から聞かされた話が頭から離れない。
――ノアとの婚約について、王家が見直しを検討している。
まだ決まったわけではない。婚約が解消されたわけでもない。
(多分……このまま何もしなかったら、きっと話は進んでしまう)
王家が懸念しているのは、リィン家への権力集中。それなら、王家にとってセラを手に入れる理由は十分にある。
(レオンとの婚約さえなければ王家の保護が一番いいんだけどなあ…)
「……面倒なことになったなぁ」
小さく呟いた、その時だった。
「何が?」
「……っ」
背後から声がして、セラは振り返る。
「シオン?」
「さっきから一人でぶつぶつ言ってた」
「聞いてたの!?」
「聞こえただけ」
シオンはいつもの無愛想な顔で言った。
「で?」
「……」
「何が面倒なんだ?」
セラは少し迷った。シオンは王家の話を知らない。本来なら、話す必要もないし、むしろ話すべきではないのかもしれない。
けれど、セラは初めて誰かに相談したいと考えた。
「……シオン」
「ん?」
「少し、相談したいことがあるんだけど…いい?」
「珍しいな」
「私もそう思う」
セラは苦笑する。
「ここじゃなんだから、図書室で話そ。」
「分かった。」
♡ ♡ ♡
図書室に着くと、セラは自然と安心した。前世から馴染み深いこの匂いのおかげだろうか。
いつも勉強する席に座ると、セラは口を開いた
「実は……さっき、王家の方から話があって」
「王家?」
シオンの眉が僅かに動いた。
「うん」
セラは周囲を確認してから、声を落とした。
「私とノアさんの婚約について、見直しを検討しているらしいの」
「……は?」
シオンの表情が変わった。
「なんで」
「リィン家への権力集中を避けたいんだって」
「……なるほど」
シオンは少し考える。
「光属性の人間が多い家だもんな」
「そう」
「元々、二大公爵家の嫡子同士が婚約できたこと自体前代未聞だっただろうし。」
「うん」
「でも」
シオンがセラを見る。
「まだ決まってないんだろ?」
「うん。あくまで検討」
「じゃあ、まだ婚約は続いてる」
「そう」
セラは頷いた。
「私はとしては維持したいと思ってる。」
「……なんで?」
「え?」
「ノアとの婚約を維持したい理由。」
セラは少しだけ目を瞬いた。
「だって……」
言葉を探す。
「今の私には必要だから」
「後ろ盾として?」
「うん。さすがシオンだね。」
シオンは黙った。セラは続ける。
「光魔法を使えるって知られた以上、これから私を利用しようとする人が出てくると思う」
「……」
「王家とか。教会も、まだ正式な話はないけど、エリアス先生が動き始めてるって言ってたし。」
セラは苦笑した。
「だから、今の私にはノアさんとの婚約が必要なの」
「……そうか」
シオンはそれだけ言った。
けれど、どこか考え込むような顔をしている。
「シオン?」
「……なあ」
「うん?」
少しの沈黙。
やがて。
「俺じゃダメか?」
「……え?」
あまりにも唐突だった。
セラは目を丸くする。
シオン自身も、言ってから少しだけ顔を逸らした。
「……俺んちだったら公爵令嬢の降嫁先としても相応しいし。」
「え、待って」
「難しかったら、俺が婿に入っても…」
「待って待って!?」
「何?」
「いやいやいや……!」
セラは思わず笑ってしまった。
「どうしたの、急に」
「……」
「ノアさんとの婚約の時は…少し…事情?があってしょうがなかったけど、その場合どっちかの後継がいなくなっちゃうし。」
「…養子を取れば」
「あなたの両親の許可だって大変だろうし。」
「……お前さ」
シオンが小さく息を吐く。
「ノアとの婚約がなくなったら、王家か教会に行くんだろ」
「…あれ?私王家から婚約の打診が来てるって言ったっけ」
「バカじゃないからそれくらい分かる。王家として光魔法を使える才女は取り入れたいだろうからな。」
(確かに私も言われる前から分かってたし。シオンだしなあ。)
シオンがセラを見る。
「俺なら、少なくともお前を利用するために婚約することはない」
「……」
「侯爵家なら、王家ほどじゃないけど、それなりに力もある」
「うん」
「だから……俺が両親は説得してみせるから。」
胸の奥がじんわりと温かみを持った。ノアと王都へ行った時と同じ感覚。
「ふふ」
「何笑ってるんだよ」
「だって」
セラは少し困ったように笑う。
「シオンの優しさにいつも助けられてるなって。」
「……別に」
「違わないよ」
「……」
「ありがとう」
セラは素直に頭を下げた。
「でも、その話は受けられないよ」
「……何で」
「そんな優しいシオンに可哀想だからって娶ったお嫁さんはふさわしくないよ」
「……可哀想だからじゃーー」
「ほら、優しい。」
苦笑する。
「それに、まだノアさんとの婚約がなくなったわけでもないし。」
「……そうだな」
シオンの声が少しだけ低くなった。
「まだ、な」
「うん」
セラは笑った。
「だから今は、どうにか婚約を維持できるように動こうと思ってる」
「……お前らしい」
「そう?」
「うん」
シオンはそれ以上何も言わなかった。
ちょっと小話!
実はニナの件でこの日の生徒会はお休みになりました!




