55.ひと段落して
翌日の放課後。
ようやく医務室を出ることを許されたセラは、寮の廊下を歩いていた。
「……なんか、久しぶりに歩いた気がする」
昨日一日、ほとんどベッドの上だったせいか、普通に歩いているだけなのに妙な感じがする。
身体の調子は悪くない。多少の疲労は残っているものの、日常生活に支障が出るほどではなかった。
エリアス曰く、「魔法を使い切った後の魔力枯渇としては、回復が早い方ですよ」らしい。ただし、「だからといって、二度と同じことをしないように」と念を押された。
「……気をつけないとな」
昨日のことを思い出す。
光魔法。あれほど大勢の前で使ってしまった。もう隠しようがない。
(でも…)
「……ニナが助かったんだから、いっか」
セラは小さく笑った。
そう思いながら、自分の部屋の前までやってくる。
扉に手をかけた。
「ただいま――」
「おかえり!」
「わっ!?」
扉を開けた瞬間。目の前にニナが飛び込んできた。
「ニ、ニナ!?」
「セラぁ!」
そのまま勢いよく抱きつかれる。
「ちょ、ちょっと待って!」
「会いたかったー!」
「昨日ぶりだよ!?」
「治してもらってからは会ってない!」
「あ……確かに。」
セラは苦笑しながら、ニナの背中に手を回した。
「……元気そうでよかった」
「うん!」
ニナは顔を上げる。いつもの笑顔。昨日までと何も変わらない。
それだけで、セラの胸が温かくなった。
「本当にありがとう」
「……」
ニナの声が少しだけ静かになる。
「昨日、私が目を覚ました時、先生たちがみんなセラの話してた」
「そうなんだ……」
「私、何が起こったのか途中から全然分からなくて」
ニナは自分の腕を見下ろした。
「でも、怪我が全部治ってるって聞いて」
「……」
「セラが治してくれたんだって」
「うん」
セラは頷いた。
「……本当に、ありがとう」
「もういいって」
「よくないよ!これじゃ感謝も全然足りないんだから!!」
「友達なんだから」
セラは笑う。
「ニナが困ってたら助ける。それだけでしょ?」
「……セラってさ」
「ん?」
「たまに、そういうこと平気な顔で言うよね」
「え?」
「そういうところ、ずるい」
「なんで!?」
ニナが笑った。
「だって、そんなこと言われたらもっと好きになっちゃうじゃん!」
「……ふふ」
セラも笑った。昨日まで感じていた不安が、ほんの少しだけ薄れていく。
「……でも」
ニナが少しだけ表情を曇らせた。
「光魔法のこと……大丈夫なの?」
「……」
セラは答えに詰まった。
「学園中、大騒ぎだよ」
「やっぱり……」
「『風属性なのに光魔法を使えるなんておかしい』とか、『なんで隠してたのか』とか」
「……まあ、そうなるよね」
「先生たちも大変そうだった」
「うん」
セラは窓の外を見る。
夕暮れの光が、王都を赤く染めていた。
「でも、もう仕方ないかな」
「セラ……」
「ニナを助けられたから」
セラは笑った。
「それなら、後悔してないよ」
(私もニナに助けられて来たし。)
「……そっか」
ニナも小さく笑った。
その時。廊下から足音が聞こえてきた。
「……?」
誰かがこちらへ歩いてくる。足音が止まった。
「セラ」
扉の向こうから聞こえた声に、セラは振り返る。
「シオン?」
「入っていい?」
「うん」
扉を開ける。そこに立っていたシオンは、いつもの無愛想な顔をしていた。
「……元気そうだな」
「うん。もう大丈夫」
「そう」
シオンはそれだけ言う。
けれど、視線が一瞬だけセラの顔から手元へ、そして身体へ移った。
「……本当に?」
「え?」
「まだ無理してないか?」
「してないよ」
「ならいい」
シオンは少しだけ安心したように息を吐いた。
その様子を見て、ニナがニヤッと笑う。
「シオン、心配してたんだ?」
「……うるさい」
「昨日もずっと――」
「ニナ」
「はいはい」
ニナが楽しそうに笑う。
セラは二人を見ながら、もしかしてとニヤニヤ笑う。
それに気づいたニナが不思議そうにする。
「どうしたの?」
「んー?なんでもなーい」
その返答と表情にとてつもなく呆れたような表情を見せたシオンだが、すぐに心配するような表情に戻った。
「……それより」
「うん?」
「明日から授業、出るんだろ」
「いや、明日は休めって言われてるから、明後日からかな」
「なら」
シオンは少し間を置いてから言った。
「……一緒に行く」
「え?」
「同じクラスなんだから、それくらいいいだろ」
「もちろん」
セラが笑う。
「ありがとう」
「……別に」
また顔を逸らす。今度はニナが楽しそうに笑った。
「シオンって、セラのこと――」
「ニナ」
「はい」
今度は即座に遮られた。
「……?」
セラだけが状況を理解していない。
その時だった。
「セラちゃーん!」
廊下から聞き慣れた声が響く。
「……カイ先輩?」
扉を開けると、カイが立っていた。
「やっほー」
「どうしたんですか?」
「セラちゃんが退院?したって聞いたから、お見舞いにー」
「もう退院してますけど……」
「だから今来たー」
「それ、お見舞いじゃなくないですか?」
ニナが笑う。
「まあまあ」
カイは笑いながら、セラを見る。
「本当に元気そうでよかったー」
「ありがとうございます」
「……昨日さ」
カイの笑顔が少しだけ消えた。
「俺、めちゃくちゃ怖かったんだよねー」
「……」
「セラちゃんまで倒れたから」
セラは少し驚いた。
(確かに好きな人が倒れたんだから、当然か…)
セラは複雑な気持ちになった。
「ご心配おかけしました」
カイが笑った。
「それよりセラちゃん」
「はい?」
「明後日、俺も一緒に――」
「カイ」
また声が飛んできた。
「……ノアさん?」
廊下の向こうからノアが歩いてくる。
「何してるの〜?」
笑顔が怖い。
「セラちゃんのお見舞いでーす」
「もう退院してるよ〜?」
「知ってますけどーノアさんも来てるじゃないですかー」
「……」
ノアが小さくため息を吐いた。
「セラ、体調は?」
「大丈夫です」
「本当に〜?」
「はい」
「ならよかった」
ノアは微笑んだ。
けれど、その視線がカイとシオンへ向けられる。
「二人とも、セラはまだ完全に回復したわけじゃないから、あまり無理をさせないでね」
「はーい」
「分かってます」
カイとシオンがそれぞれ答える。
「じゃあ、私は明日に備えて休むので。」
セラが言うと、三人が同時に反応する。
「そうだな」
いつもの日常。いつもの仲間。
昨日までと変わらない。
――そう思っていた。
ちょっと小話!
実はセラは恋愛に飢えています!というか毎回同じ人が付き合うので、飽きてるとも言います!




