49.再び初めから歩めるであろう
魔法競技大会まで、あと数日。
抽選会を終えた学園では、大会に向けた準備が本格的に始まっていた。
各競技の参加者確認。当日の進行表。応援席の配置。使用する魔道具の点検。大会が近づくにつれて、生徒会の仕事も少しずつ増えている。
「こちら、一年生の参加者一覧です。」
セラは確認を終えた書類をレオンへ差し出した。
「ありがとう。助かるよ。」
「いえ。」
レオンが書類へ目を通す横で、リリアも別の名簿を確認している。
「一年生は全員、参加種目の登録が終わりました。」
「ありがとう、リリア嬢。」
穏やかな空気の中、セラは微笑ましく二人を見ていた。
「失礼します。」
生徒会室の扉が開いた。
「こんにちは、皆さん。」
「あ。」
セラは顔を上げた。そこに立っていたのは、エリアスだった。
「エリアス先生?」
「こんにちは、セラさん。」
いつもと変わらない穏やかな笑顔。
「突然申し訳ありません。」
「どうしましたか?」
レオンが間髪入れずに聞く。
「少しお願いしたいことがありまして。」
エリアスはセラに目を向けた。
「少しセラさんをお借りできませんか。」
セラはレオンを見ると軽く頷かれたので、「分かりました。」と、立ち上がろうとした。
すると。
「今からですか?」
シオンが口を挟んだ。声が少し低い気がする。
「はい。」
エリアスは穏やかに答える。
「大会前で皆さんがお忙しいことは承知しています。ただ、セラさんに確認していただきたい部分がありまして。」
「……わかりました。」
シオンはそれ以上何も言わなかった。ただ、セラにはなぜか少し不機嫌そうに見えた。
それを不思議には思ったものの、セラはとりあえずエリアスの方が優先事項だったため、気には止めなかった。
「じゃあ、行ってきますね。」
「待って。」
今度はノアだ。
「先生。」
「はい。」
「どのくらいかかりますか〜?」
「長くても一時間ほどかと。」
「そうですか〜……一応僕は彼女の婚約者なので、ついて行きます。いいよねレオン?」
「……まあ。いいんじゃないか?お前のその仕事が終わるなら。」
「え?」
一番驚いたのはセラだった。
(前もそうだったけど、やっぱりノアはそういうの気にするんだなあ。というかレオンの口ぶりに珍しく棘があるし、本当は行ってほしくなさそう…)
エリアスはしばらく悩んだあと、セラの耳に顔を寄せて小声で聞いてきた。
「光の申し子についてなんですけど…ノアさんが教えてくださったんですよね?ならセラさんが良ければノアさんも一緒で構わないですよ。」
親密な様子の二人をみたノアは微笑んだ固まったが、セラは気づかない。
(……ノアと共有した方がいいのかな…でも私が光の申し子だとは思ってないから調べてもらってるわけで……もしこれで光の申し子じゃなかったら……)
「……ノアさん。心配してくれるのは嬉しいんですけど、大丈夫ですよ。」
「え?」
「大会の資料も残っていますし。」
「でも。」
「ノア。」
レオンがノアを呼んだ。微笑んでいるが、拳を組んだ上に顎を乗せ、バックにはゴゴゴと炎が見える。
ノアは呆然としていたが、レオンがどこかに連れていってしまったので、了承はもらったことにする。
その横で、カイが楽しそうに笑う。
「セラちゃん人気者だね〜。」
「そうですか?」
「うん。先生にまで呼び出されるなんて。」
「…お手伝いです。」
「分かってるよ〜。」
カイは笑ったままだった。
ただ。その笑顔を見ていると、なぜかセラは少しだけ落ち着かない。
(……好意を寄せられてるって知ってるからかな?)
「では、セラさん。」
「はい。」
エリアスに促され、生徒会室を出る。
扉が閉まる直前。
「……気をつけて。」
シオンの声が聞こえた。
「?先生がいるから大丈夫だよ。」
セラは小さく笑って扉を閉めた。
廊下へ出る。隣を歩くエリアスは、しばらく何も言わなかった。
いつもの穏やかな表情。けれど、どこか機嫌が悪いようにも見える。
「……先生?」
「はい?」
「何かありましたか?」
「いいえ。」
即答だった。
「ただ……。」
「?」
「少し、意外でした。」
「何がですか?」
「セラさんが、あれほど周囲から気にかけられていることです。」
「……?」
セラは首を傾げた。
「生徒会の皆さんですから。」
「そうですね。」
エリアスは微笑んだ。けれど、その笑顔には先ほどまでの柔らかさが少しだけ欠けている。
「先生?」
「……失礼しました。」
エリアスはすぐにいつもの表情へ戻った。
「少し考え事をしていました。」
(今日はみんな変だな…。)
研究室へ入る。机の上には、古い資料と魔法陣がいくつも並べられていた。
「こちらです。」
「これは……。」
古びた紙。
以前見た文献とよく似ている。
「以前の文献の続きです。」
セラは思わず身を乗り出した。
そこには、以前読んだ文章が記されていた。
『神に愛されたその子は強い魂を持ち、運命に立ち向かえる。』
そして、その下。
『――その子は誰よりも強い心を持つだろう。』
セラの胸が小さくざわめく。
「ここからが新しく見つかった部分です。」
エリアスが頁をめくる。
そこには、さらに続きがあった。
『幾度となく、運命が立ちはだかろうとも、再び初めから歩めるであろう。』
セラの指が止まった。
「……運命。」
「はい。」
エリアスは静かに説明する。
「この時代の文献において、『運命』という言葉は単なる未来を指さない場合があります。神によって定められた流れや、避けることのできない因果を意味することもあります。」
避けられない因果。
その言葉に、セラの脳裏へ何十回もの人生が蘇った。
断罪。死。そして、入学前へ戻る。
何度も。何度も。同じ人生を繰り返してきた。
(……幾度となく、運命が立ちはだかる。再び初めから。)
「…ノアさんは…こ、これを知っていると思いますか?」
少し声が震える。
(もし知っていたなら……)
「いえ。これは王立図書館で見つけたものなので、いくらリィン公爵様のご子息でも、立ち入ることは不可能でしょう。」
王立図書館。それはこの王立学園の教師。または王宮で働く役人程度しか立ち入ることができない場所。
それを聞いたセラは安堵した。
「……でも、神の申し子のような表現はありますが、光の申し子少し違うように思います。どうしてノアさんはこれと光の申し子を結びつけたのでしょうか?」
「神を光と表現したのではないでしょうか?それなら納得が行きます。」
セラはそれに違和感を感じた。
(いや違う。ノアは私の光魔法を見て神に愛されている的なことを言ってたんだから、光の申し子イコール神の申し子ではなく、神に愛されているから光の申し子だとノアは解釈したはずなんだ。)
けれど、セラは光魔法を使えるなんて言えるわけがないから、うまく説明できない。
説明方法を考えていたら、エリアスが声をかけてきた。
「セラさん。」
「はい?」
「そろそろ戻りましょうか。」
「……そうですね。」
セラは諦めて静かに古文書を閉じた。
今はまだ、何も分からない。
けれど。
(本当にこれが死に戻りを表しているなら、エリアス先生と研究していくうちに何かがわかるかもしれない。)
自分の運命を変える手掛かりがあるかもしれないという微かな希望を抱きながら、セラはエリアスと研究室を後にした。
ちょっと小話!
実はエリアス以外セラのなかで呼び捨てなのは自分のほうが精神年齢が高いからです!一応先生は敬いと親しみを込め心の中でも先生と使っています!




