3.光魔法
(うわ。最初のテストってこんなむずかったっけ?)
一周目は流石に真面目に勉強してたけど、それ以降は『一回やってるから』を免罪符にしてろくにやってきてなかった。よって、今、何十回とやっているはずのテスト勉強のためにこの一週間図書室で教科書と睨めっこしている。
(こんなできないのに、なんで絶対負けないとか言っちゃったんだろう……そういえば前も平均ちょい上くらいの成績だった気がするし……だいぶ適当に受けたけども…)
いつもならシオンも図書館で勉強をしているから、対抗意識でやる気が出るのだが、今日はまだ来ていないようで、どうしても、やる気が霧散してしまう。
頭を抱えて唸っていたら、図書室にヒロイン(リリア・フェルノア)とノア・リィンが話しながら入ってくるのが見えた。
ーーリリア・フェルノア
このゲームのヒロインで、光属性の魔力を持つ一年生。この学年唯一の庶民。髪はピンクと紫の中間くらいの色。目は黒とピンクのグラデーション。友達になった周回時の印象では、可愛くて、おっとりしてるけど、芯はしっかりしてる。
ーーノア・リィン
攻略対象の一人で、リリアと同じ光属性の魔力を持つ三年生。侯爵家長男。髪は少し長めでふわっとしている薄いピンク。目は青と碧の合間のような色。学年が違うから、あまりわからないけれど、ゲームでは癒し系キャラみたいな扱いになってた気がする。
(光魔法について教えてもらうイベントかな?)
理論上、魔法は全て、練習すればできるようになるが、魔力の属性によって習得のしやすさが違う。光魔法は光属性の魔力でないと習得が難しく、さらに光属性の魔力を持つ人物が少ない。
よってリリアは特別生として支援してもらえたのだが、入学できても、光魔法を扱える人が少なすぎて教えてくれる人がいない。そこで、リリア以外で唯一光属性の魔力を持つノアに教えてもらうという流れになる。それがだんだん恋愛に発展していく感じだ。
(まあ、私も少しだけだけど光魔法、使えるんだよね。)
最初の方の周回で、光魔法の一つである治癒魔法を習得すれば、殺された瞬間に怪我を治すことができるのではないかと考えて、練習を始めた。その周回には間に合わなかったけれど、実は、少し前の周回から扱えるようになった。
(結局いつも魔法を使う前に死んじゃうんだけど……よく考えたら魔法を使う隙があったら多分どっかの周回で暗殺者を魔法で返り討ちにできてるんだよな…)
「はあ。」
ノアがリリアに光魔法の本を見せながら、軽く光魔法を出現させている。ノアが何か説明しているようだがリリアが少し不安そうにしている。
(そう言えば、リリアちょっとノアの説明難しいって言ってた気がする。)
リリアと友達だった時にそのことを聞いた時は、物語的に長く一緒に過ごせた方がいいからノアが説明下手っていう設定になってて可哀想だなと思った記憶がある。少し気になって、なんとなく耳を傾けてみる。
「…つまり、ここに書いてあるのは〜、魔力の放出のドンって感じじゃなくって〜、ふわって感じで、放出すればブワってなるから、その感覚がわかれば魔法も使えるってことだよ〜。」
「なるほどで、す…?」
(まさかの擬音語での説明!?これは流石にリリアが哀れだわ!)
「……そもそも光魔法は他の魔法と違って体の中で循環させるイメージを持たないとできないのに……」
思わずぽろっと言ってしまう。しまったと思い、手で口を覆った。リリアとノアの方を見ると彼らも驚いたようにこちらを見ていた。
沈黙。
ノアが微笑む
「詳しいんだ〜。」
その一言で瞬時に冷静になる。
(光魔法を使えることは言わない方がいい。)
「理論上は、という話です。」
あくまで理論だけという部分を強調する。
「…そうなんだぁ……光魔法使ってみたいの?」
「えーと。まあ。はい。」
「じゃあ私たちと一緒に練習してみません?私も、一緒に練習してくださる方がいると心強いです!(訳:全然ノアさんの説明わからないので手伝って欲しいです!)」
リリアも参戦してくる。
(うわー。リリア可愛い。なんか笑顔に後光差してるし。でも、練習始めると、光魔法が使えることがバレる可能性高まるし……)
「理論に詳しいなら、僕と一緒にリリアに光魔法のこと教えて欲しいな〜。なんか僕教えるの下手みたいでさ〜。」
「いや、でも…」
「お願いします!」
「うっ……」
リリアは自分の可愛い顔を最大限に活かす方法を知っているのだろう。目をうるうるさせて上目遣いでお願いするという高等テクを使ってくる。
(……まあ、今回の周回では攻略対象と関わることが目標だし…リリアと関わることになるけど、攻略対象と関わるという観点ではある意味チャンスかも)
リリアに絆されたことを認めたくなくて、もっともらしい理由をつけ、納得する。
「わかりました…ちょっと教えるだけなら……」
「えっ!本当に!ありがとう!私、リリア・フェルノア。こちらは三年生の…」
「ノア・リィンだよ〜。君は…セラさんだよね。」
「はい。セラ・ウィンドフォールです。あと、さん付けしなくていいですよ?」
「いや、これは癖みたいなものだから。気にしないで?」
「あっ了解です…えーっと、じゃあ、リリア、ノアさん、これからお願いします。」
「こちらこそ!よろしくお願いします!えっと、セラって言った方がですか?」
「全然いい!むしろ敬語もやめて。フランクに接してくれると嬉しい!」
「わかった!セラ。よろしくね」
「セラさん。僕からもお願いします。」
♡ ♡ ♡
ーー数十分後
「…そう!それで、魔力をブワってして、ポカポカってなるから、それをふわっと……」
「……その状態で、魔力を体に馴染ませる感じで……そうそう。そうすると体が暖かくなる感覚になると思うんだけど、それを真綿で包み込むように優しく手に集めてみて。」
「あ!できた!」
リリアの手に金色の灯りが出現する。これが光魔法の基本で、これを複雑に練っていくと治癒とか、浄化とか、できるようになる。
(さすが光属性の魔力持ち。私なんかここまで七周(約七年)くらい使ったんだけどなあ〜。三十分くらいでできちゃったじゃん。)
あのあと、少し練習してみようという流れになって、二人で(ほぼ私が)リリアに手取り足取り教えていたらすぐできるようになった。ゲームでこの灯りを出現させることができるまで一ヶ月くらいかかっていたのは、先生の教え方があまり上手ではなかったからなのだろう。
「すごい〜!僕、一ヶ月くらいかかったのに〜!上手だね!」
「え!本当ですか?ありがとうございます!セラもありがとう!すごくわかりやすかった!感覚の話とか。そこまでわかってたらすぐできるようになるんじゃない?」
「いや、感覚はわかっても光属性の魔力持ってないと、難しいんだよ。実際全然できないし。」
とてつもなく純粋なリリアに嘘をつくのは心苦しいけれど、光属性以外の魔力持ちがこの段階(金色の明かりを出現させる)までできるようになるのは約二十年から三十年の月日が必要になる。
この体はまだ十五歳で(精神は前世と合わせたら多分百歳くらいだけど…)、魔力の出現が十歳だと仮定しても(魔力が出現したばかりは安定しないから、実際に魔法が使えるのは出現してから一から二年後)、光魔法が今できてしまうと、とんでもない魔法の天才ということになってしまう。
(まあ、使えるって言ってもいいんだけど……暗殺者や、暗殺者を手配する攻略対象にその情報が渡ると、殺されるタイミングが早まるかもしれないし……)
「あ〜。そういえばそのようなことが、さっきノアさんと一緒に読んでいたこの本に書いてあったかも……本当に貴重なんだ。この力。」
「うん。そうだよ〜。この国で使える人、百人くらいしかいないし。本当に今日中にできるようになったのはすごいよ〜。今日の目標も軽く超えちゃったし、今日は解散しようか。」
「あ!じゃあ私、この本返しておきますね!セラとノアさんは先帰ってても大丈夫ですよ!」
「え〜寮まで一緒に帰ろうよ〜。」
「そうですね。私たちはここで待ってるから。」
「わ!ありがとう!すぐ戻ってくるから!」
そう言ってリリアはパタパタと小走りで棚へ本を戻しにいく。
静かになる図書室。
ノアがふっとセラを見る。
「……さっきの話だけど、」
柔らかい声。セラは何か空気が変わったように感じ、知らず知らずに体が強張る。
「結構具体的だったよね〜。本当に使えたりして〜」
一瞬、心臓が跳ねる。けれど、顔には出さない。
「本で読んだだけですよ。私の魔力は風属性なので。」
「ふーん?(まあ、今はそういうことにしておこうかな〜)」
最後に小声で何か言ったのはわかったけれど、セラは正確に聞き取れなかった。何を言ったのか聞き返そうと口を開いたけれど、それを封じるように言葉を重ねられる。
「……確かに。光魔法は特別だもんね〜。」
ノアは完璧な天使のような微笑みを見せる。なぜかわからないけれど、セラはそのノアの言動に違和感を覚えた。
(…違和感というか……)
「次、本格的に魔法の練習するときもきてよ。やっぱり僕だけじゃ心許ないし……」
「そうだよ!光魔法、セラも使えるようになったら嬉しいし!」
いつの間にか戻ってきていたリリアが、ノアの言葉が言い終わらないうちに、すごい勢いで私を誘ってくる。
(……なんだったんだろう。リリアが戻ってきて元に戻ったけど……なんか変な空気だったな…)
「……」
「ね!ね!一緒に練習しようよ〜ほら!ね!ね!」
純粋無垢な瞳には一寸の曇りもない。
「ぅっ……」
(やばい…見たことある流れ……)
「ほら、リリアさんもこう言っていることだし」
「やろ!やろ!」
(…忘れてたけど、ノアも攻略対象だし!今回の目標的にも!仲良くなるチャンスじゃん!)
「じゃあ少しくらいなら……」
「やった〜!」
こうやって接していると、リリアと友達だった頃のことを思い出して、微笑ましくなる。
(その周回で断罪されて、そのあとはリリアを避けてきたけど、実際にリリアが断罪に加担しているわけではないだろうし……また、友達になってもいいかもしれない。)
そんなことを考えながら、三人で仲良く寮へ帰った。
ちょっと小話
実はリィン侯爵家は光属性の魔力を持つ子が産まれやすいため、ウィンドフォール(セラとか)家の次に力を持つ名家です!よって、リィン家ではとても光魔法を大切にしています!ちなみにノアの母は現国王の妹です!




