2.魔法実技
「おはよ。」
「えっ!あ!おはよう!」
「え、何?挙動不審すぎ」
「いや、あの、ごめん。いきなり話しかけられたからびっくりして。」
(び、びびったぁ〜シオンめっちゃナチュラルに話しかけてくるじゃん)
一日でこんなに距離が縮むものなんだと少し感動した。今までの周回でどれほど関わってこなかったのか実感する。
少し感傷に浸りながらシオンを見つめると、『なんだこいつ』みたいな目で見られた。
(いいじゃん別に!)
「はいはい、出席とるぞ〜座れ〜」
先生が教室に入ってきてホームルームが始まる。
「今日から本格的な授業が始まるから覚悟しとけ〜。今月の終わりにテストがあるからしっかり聞いとけよ〜」
ホームルームが終わると、『テストか〜』みたいなやる気のない声が聞こえてくる。
(しかし、私は違う!そう、なんと言ったって今回は生徒会に入らなければならないのだから!)
でもまあ、こう意気込んで見たものの、正直余裕だと思う。なぜなら、セラは同じ授業を何十回と聞いているからだ。
どんな問題が出るのかもなんとなく覚えているし、多分満点取れると思う。今までは生徒会入りたくなさすぎて、本気出してなかったし。全然。
(ふっふっふ私の本気を見せてあげましょう)
満点を取る想像をしてると、自然と口角が上がってくる。すると、シオンがそれに気づいて
「何ニヤニヤしてんの?ちょっとヤバいやつだよそれ」
「……」
(ちょっと辛辣すぎじゃないですか!)
「もしかしてテスト自信あるっていう余裕のニヤけ?勉強できるの意外かも」
なんか見下すようにいわれて少し……いや、だいぶ腹がたった。
「黙ってたら好き勝手言い過ぎじゃない!?じゃあ勝負しますか?勝負!絶対勝ってやりますから!!」
「……いいよ。じゃあ勝った人は負けた方に一つお願い叶えてもらうっていうのはどう?」
「もちろんですとも!言質は取りましたからね!負けても文句なしだからね!」
「ふふ、そっちこそ何お願いされるか覚悟しとけば?」
「え!そんなヤバいお願いするの!?」
「さあね」
何か嬉しそうにしているシオンを見て、苛立ちを忘れてこっちもつられて嬉しくなってくる。
(なんかイメージと少し違うかも。こんなとっつきやすい感じだったんだ)
いつもの周回では、正直、友達はヒロインしかいないと思っていたので、意外と気さくだったことに驚く。
(でもヒロインともう直ぐ仲良くなるイベントがあるから、そこで雰囲気が変わるのかも)
何故かそのことが少し残念に感じた。
♡ ♡ ♡
午前中は簡単な知識系の授業で、みんな眠気と闘いながら午後の授業に入った。
魔法実技。魔法の呪文などのスペルは呪文学などで習うが、実際に魔力を使って練習するのはこの授業だ。
今日は初日なので、キホンのキである魔力制御の実習だったはずだ。
広い実技場に一年生が並ばされる。ここは天井がとても高く、魔力暴走を最低限に抑えるための結界が張られている。
「今日は魔力の放出と制御の確認をする。二人一組になれ」
教師の声と同時に、ざわりと空気が動いた。
(……ペア制、ね)
ここで庶民という理由で余ったヒロインと誰とも組みたくなかったシオンが組んで、お互い興味を持つ、所謂出会いイベントだ。
(前と同じように適当な女子でいいよね。ニナは直ぐ売り切れちゃうし…)
無難で、安全で、目立たない選択。今まで培ってきた処世術だった。なのに…
「…俺と組まね?」
「……ぇ。あ、うん。もちろん」
(なんか自然!!シオンに自然に誘われた!!えっ?てか出会いイベント潰しちゃったじゃん!どうするんだろう?)
ハテナが量産されていって、放心している間に、シオンに引っ張られて指定位置につかされる。
(落ち着け私!)
「お互いに魔力をぶつけ合い、押し合え。制御が甘いと弾け飛ぶぞ」
(弾け飛ぶって……地味に怖い言い方するよね、先生って)
合図と同時に、シオンの手のひらに闇属性の魔力が灯る。
(相変わらず綺麗。)
無駄がなくて、澄んでいて、それでどこか静かな圧を感じられる。
(ちゃんと制御出来てて努力してるって感じの魔力なんだよなぁ)
セラも風属性の魔力を放出する。
ぶつかる二つの力。じわっと押し合う感覚。
(ヤバい、もう少し抑えた方がいいかも。)
魔力の制御は練習すればするほど上達する。何十年と制御してきたセラは、あまり苦にならないけれど、魔力が発現して数年しか経っていない(大抵十歳〜十三歳くらいに発現する。ちなみに今十五歳)シオンは疲れるらしい。どんどん押される感覚が弱くなってくる。
……その刹那。
『ぐら』っとシオンの魔力が揺れた。
「……っ」
彼の集中が一瞬乱れる。
(あ、まずい)
咄嗟に出力を調節し、シオンの魔力を包み込むように制御する。
弾ける寸前だった魔力が、安定する。静かに収束。
「……そこまで」
教師の声。
周囲では、制御に失敗したペアが小さな爆発を引き起こしていた。
(あぶな〜。弾けると地味に痛いんだよね)
ふう、と息を吐いた瞬間。
「……なあ」
低い声。顔を上げると、シオンがじっとこちらを見ている。
「今、出力変えた?」
「……え?」
「なんか何回もやり慣れてる感じする?」
黒紫の瞳が、探るように細められる。
(うわ、鋭い)
「気のせいじゃない?私そこまで器用じゃないよ?」
適当に練習したとか言えばよかったのに、迫力に押されて思わずとぼけてしまう。
数秒、視線が絡む。
「……ふーん」
それだけ言って、彼は視線を逸らした。
(あー……もしかしてこれ、まずった?)
とぼけたことが失策だったことに気づいた時にはもう遅かった。
授業終了の合図がなる。
クラスに戻る途中。歩きながら、シオンがポツリと呟いた。
「テスト、楽しみになってきたかも。」
「へ?」
「お前、本気出したら面白そうだから。」
セラを振り向いてシオンがにや、と笑った。
(ドキッ……『ドキッ』?……いや待ってまた!?何その少女漫画みたいな効果音。……だめだから。攻略対象にドキドキする悪役令嬢とか死亡フラグでしかないから)
ちょっと小話
実はこの授業でシオンは制御ミスをして、すごい卑屈になるのをヒロインが慰めるというイベントがありました!
セラは見事にシオンとヒロインの恋愛フラグを叩き割りました!




