31.特別講義
ごめんなさい!読み返してたら二十九話コピペミスしてました!いつもメモで書いてるので……とにかくすみませんでした!
夏休みは後半へ差しかかろうとしていたある日。
今日は優秀者……つまり生徒会役員のための、特別講義……という名の新人講師の初授業だ。もちろん講師はエリアスが務めることになっている。
講義内容は『古代魔法陣の基礎と応用』
「こんな広い講堂私たちだけで使っていいんですか。」
講堂へ入ったセラが思わず尋ねる。
広い講堂はほぼガラ空き。
生徒会の六人は前方の席へ並んで腰を下ろした。
「ふわぁ……。」
隣ではカイが大きな欠伸をしている。
「めんどー。」
「始まる前から寝る気ですか?」
シオンが呆れたように笑う。
「だって難しい話でしょ〜?」
二人のやり取りに、セラも小さく笑う。一方。
「……。」
ノアだけは資料を眺めながら静かに目を輝かせていた。
(楽しそう。)
昨日王都で見た魔導書専門店へ入った時と同じ顔。まるで子どもがおもちゃ屋へ来たような表情だった。
(本当に魔法が好きなんだな。)
自然と頬が緩む。その時、壇上へ一人の青年が歩み出た。
エリアスだ。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。」
穏やかな声が講堂へ響いた。
「本日の講義を担当します、魔法学教師のエリアス・ヴァインベルクです。」
軽く一礼する。
「今日は少しだけ、普段の授業より難しい内容になります。」
黒板へ手を向ける。
淡い光が走り、魔法で黒板いっぱいへ巨大な魔法陣が描かれた。
「わぁ……。」
リリアが思わず声を漏らす。複雑な円。
何重にも重なる魔法文字。一年生では見たこともないほど巨大な魔法陣だった。
「ですが安心してください。」
エリアスは微笑む。
「今日は『覚える』授業ではありません。」
講堂が静まる。
「皆さんには、この魔法陣を”読む”練習をしていただきます。」
そう言うと、チョークを取り、一つの線を指した。
「魔法陣には必ず意味があります。一本一本の線。一つ一つの文字。全てに理由があります。」
黒板へさらさらと補助線を書き足していく。
「魔法は暗記ではありません。理解することが何より大切です。」
講堂中の視線が自然と黒板へ集まると、エリアスがこの魔法陣の説明を始めた。
(読む……。)
何度も繰り返した人生で、自分も光魔法の仕組みを知るために、何度魔法陣を書き直しただろう。
失敗して。書き直して。また失敗して。
そうして少しずつ理解してきた。
(……確かに、読むっていうのが適切な表現かも。)
「では。」
エリアスが教室を見渡す。
「皆さんにも実際に考えていただきましょう。」
指を鳴らすと、机の上へ一枚ずつ紙が現れた。
「簡略化した魔法陣です。二人一組になって、この魔法陣の欠けている部分を探してください。分からなくても大丈夫なので、相談しながら考えてみてください。」
セラは隣を見る。
「リリア、一緒にやろう。」
「うん!」
嬉しそうに椅子を寄せる。
紙へ描かれた魔法陣は先ほどよりずっと簡単だったが、それでも一年生には難しい内容だった。
「うーん……。」
リリアが眉を寄せる。
「どこ見ればいいんだろ。」
セラも紙を見つめる。
「まずは魔力の流れかな。」
「流れ?」
「うん。」
指で円をなぞる。
「ここからここへ流れて……。」
リリアも真似して指を動かす。
「あ。」
「なんか途中で止まってる!」
「そう。」
セラは頷く。
「だからこのままだと魔法が最後まで届かない。」
「なるほど!」
リリアは目を輝かせた。
「じゃあここを繋げればいいの?」
「多分。」
魔法ペンで一本線を書き足す。
すると、紙の魔法陣が淡く光った。
「できた!」
リリアが嬉しそうに声を上げる。
「セラすごい!」
「そんなことないよ。」
「いやいや!」
リリアは首を横へ振る。
「先生の説明より分かりやすかった!」
「えっ。」
セラが慌てて周囲を見る。
その時。
「それは少し教師として複雑ですね。」
柔らかな笑い声が聞こえた。
「!」
二人が振り向く。いつの間にかエリアスが隣まで来ていた。
「ですが。」
魔法陣へ目を向ける。
「教え方はとても良かったですよ。」
セラは少し照れたように目を伏せる。
「ありがとうございます。」
(……?)
エリアスが一瞬固まったように見えたが、瞬きの合間にまた柔らかな笑顔に戻っていた。
「相手に合わせて説明するのも才能です。」
エリアスはそう言ってさらに微笑む。
「リリアさんも、よく気付きましたね。」
「えへへ。」
微笑むリリア。
「セラが教えてくれたので!」
エリアスは小さく頷くと、そのまま次の机へ向かっていった。その背中を見送りながら、リリアが小声で囁く。
「先生、優しいね。」
「……うん。」
セラも頷く。けれど。
(……なんだったんだろう。)
一方その頃、少し離れた席ではノアが一人、紙いっぱいに魔法陣を書き込んでいた。
「ここをこうして……いや、こっちか。」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、何通りもの魔法陣を試している。
レオンはその様子を見て苦笑した。
「ノア、私にもやらせてよ。」
「だって〜レオンはこういうの授業でいっぱいやってるでしょ〜」
「それはノアがサボったりするからでしょ。魔法は授業でも扱うんだからもっと受ければいいのに。」
レオンは不満そうに口を尖らせた。
「あの先生の話す魔法学はつまらないんだよ〜」
ノアはそう言いながら顔を上げると、エリアスが嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえて光栄です。……けれどそれをその先生の前では言わないでくださいね。私が怒られてしまうので。」
ちゃめっ気たっぷりな言い方に、講堂には小さな笑いが広がった。和やかな空気の中、エリアスは教壇へ戻る。
「皆さん。できましたか?」
教室が静かになちゃのを確認して、三組のペアの魔法陣を確認していく。
「うん。さすがです。みなさんバッチリですね。」
カイが小さくため息を吐く。おそらくシオンが全て書いたのだろう。
「それでは最後に、本日のまとめとして一つ実演を行います。」
そう言って視線を巡らせた。
「……じゃあ、せっかくなのでレオンさん。」
「はい。」
レオンが静かに立ち上がる。
「魔法陣を書いてくれますか?」
生徒会長であるレオンは落ち着いた足取りで教壇へ向かう。それを見つめながら、セラは何気なく黒板の魔法陣へ視線を向けた。
レオンは教壇へ上がると、エリアスの隣へ立った。
「ではレオンさん。」
エリアスは黒板に描かれた魔法陣を指し示す。
「この魔法陣には一か所だけ欠陥があります。」
講堂中が静まり返る。
「そこを修正し、完成させてください。」
「承知しました。」
レオンは迷うことなくチョークを手に取った。生徒会長として知られる彼の実力は学園でも有名だ。なんせ、この三年間一度も一位以外を取ったことがないのだから。
そのため、エリアスは彼なら出来るだろうと考えたのだ。
レオンは魔法陣をじっと見つめる。
「……。」
数秒。慎重に一本の線を書き換えた。
そして。
「起動。」
淡い光が魔法陣を走る。
「おお……!」
誰かから感嘆の声が漏れた。最初は綺麗に魔力が流れているように見えた。
しかし。
『パチッ。』
小さな火花が散る。
「……?」
光が一瞬だけ揺らぐ。次の瞬間。
『バチバチバチッ!!』
魔法陣の中心から青白い火花が激しく弾けた。
「魔力が逆流してる!」
シオンが叫ぶ。
黒板に描かれた魔法陣が歪み始める。円の一部が崩れ、魔力が不規則に渦を巻いていた。
レオンもすぐに異変へ気付く。
「しまっ……!」
修正しようと手を伸ばす。だが、どこを直せばいいのか、一瞬判断が遅れた。
エリアスも一歩前へ出るが、歪み始めた魔法陣の間違いを見つけ、修正をするのはエリアスでも少し時間がかかる。右側にもう一つ補助魔法陣を書き加えれば止めることはできるが、それでは時間がかかりすぎるのだ。
刹那。
「私直せます!」
凛とした声が講堂へ響く。
全員が振り向く。
セラだった。
(あのままだと爆発を引き起こすかもしれない…!)
椅子から立ち上がると、そのまま教壇へ駆け出す。
「セラ?」
リリアが目を丸くする。レオンも驚いたように彼女を見る。
セラは迷わなかった。
黒板の前まで来ると、レオンの手からチョークを借りる。
「すみません。」
一言だけ告げる。
そして。魔法陣の右側ではなく中央へ一本、短い補助線を書き足した。
さらり。それだけだった。
魔法陣が静かに光り、暴れていた魔力が一本の流れへ戻っていく。バチバチと鳴っていた火花が消え、歪んでいた円も元通りになった。
ふわり、と優しい光が講堂全体を包み込む。
魔法陣は完全に安定していた。
「…………。」
誰も声を出さない。静寂。
教壇の上で一番驚いていたのはレオンだった。
彼は右側の魔力循環だけを見ていた。
しかしセラは、もっと根本にある原因を見抜いていたのだ。
リリアは目を丸くしたまま固まっている。
「セラ……すご……。」
カイも珍しく茶化さない。
「一年生だよな……?」
シオンは静かに黒板を見つめていた。
(あの一瞬で……。)
一方。
ノアは席から立ち上がり、食い入るように魔法陣を見つめていた。
「……そういうことか。」
小さく呟く。
「魔力の出口じゃない。」
「入口だったんだ。」
その目は驚きというより、純粋な感動に満ちていた。
エリアスはしばらく黒板を見つめたあと、ゆっくりとセラへ視線を向けた。
「……どうして。」
穏やかな声だった。
「そこだと分かったのですか?」
その問いに、セラはようやく我へ返る。
(……あ。)
しまった。体が勝手に動いてしまった。
(まずい……。しかもよりによって攻略対象者たちの前で……。)
前世で何度も研究した癖が、無意識に出てしまった。少しだけ視線を泳がせながら答える。
「えっと……。なんとなく?……そうです!なんとなく!流れを見ていったら原因は詰まっている中央だと思って……。」
(やばい!白々しすぎた…?)
やがて。エリアスは小さく笑みを浮かべた。
「なるほど。」
黒板へ向き直る。
「皆さん。」
チョークで中央を軽く叩く。
「これが今日お伝えしたかったことです。」
生徒たちが一斉に顔を上げる。
「魔法陣は”形”を見るのではありません。魔力の流れを読むものです。」
そう言って、セラが書き加えた一本の線をなぞる。
「多くの人は、右側へ目が向きます。ですが、本当の原因は中央。魔法陣全体の流れを見れば、それが分かります。」
みんな、感心したように頷く。
そして、エリアスはもう一度だけ、静かにセラを見た。
「……見事でした。」
その一言に、セラは少しだけ照れくさそうに頭を下げた。
♡ ♡ ♡
エリアスは教壇の前で小さく手を叩く。
「さて。」
穏やかな声に、全員の視線が集まる。
「本日の講義は以上です。」
資料を閉じながら微笑む。
「皆さん、お疲れ様でした。」
「ありがとうございました!」
リリアが元気よく頭を下げる。
他の面々もそれに続き、一礼した。
講義が終わると、それぞれ荷物をまとめ始める。
「セラ!」
リリアがぱっと振り返った。
「さっき本当にすごかった!」
「そんなことないよ。」
「あるよ!」
ぐっと距離を詰めてくる。
「あれ、一年生ができることじゃないもん!」
「たまたまだよ。」
苦笑いを浮かべるセラ。
(お願いだから、これ以上話題にならないで……。)
「でも、本当に助かったよ。」
今度はレオンが歩み寄ってきた。
「私でも気付かなかった。」
そう言って、素直に頭を下げる。
「ありがとう。」
「そんな……。」
セラは慌てて首を振る。
「レオン先輩が間違えたというより、あの魔法陣が難しかっただけです。」
「それでも。」
レオンは穏やかに笑う。
「助けられた事実は変わらない。」
そのやり取りを見ながら、ノアは黒板へ近付いていった。
まだ消されていない魔法陣を、じっと見つめる。
「……。」
指先で、セラが書き加えた一本の線をなぞる。
「なるほど。」
小さく呟いた。
「ここを直せば全部繋がるのか。」
その目には驚きよりも、純粋な好奇心が宿っていた。
「面白い……。」
ノアは思わず笑みが零れる。
そんなノアの様子を見ていたエリアスは、魔法学教師として嬉しそうに微笑んだ。
一方で、その視線は自然とセラへ向く。エリアスは静かに息を吐いた。
「セラさん。」
「はい?」
名前を呼ばれ、セラが振り返る。
「少し、お時間をいただいてもよろしいですか。」
「……私ですか?」
「ええ。」
穏やかな笑みは崩れない。だが、その瞳だけは真っ直ぐセラを見つめていた。
リリアが「じゃあ先に行ってるね!」と手を振り、他の面々もそれぞれ講堂を後にしていく。ノアは「外で待ってる〜」そうだが、他のメンバーは帰ってしまった。
やがて講堂には、エリアスとセラだけが残った。
静かな空気の中、エリアスはゆっくりと口を開く。
「先ほどの魔法陣ですが。」
少しだけ間を置く。
「あれを、どこで学びましたか。」
その問いに、セラの心臓がどくりと大きく脈打った。
(……まずい。やっぱり、なにか気付かれた。)
「……独学です。」
「独学?」
「本で少し読んだことがあって……。」
もちろん苦しい言い訳だ。エリアスは否定も肯定もせず、小さく頷いた。
「そうですか。」
少しだけ沈黙が流れる。
そして。
「実は、もう一つお聞きしたいことがあります。」
「はい。」
「ここでは少し長くなってしまいますので……。」
柔らかく微笑む。
「後日、お時間をいただけませんか。」
ちょっと小話!
実はこれゲームのイベントです!本当は魔法陣が小さな爆発を引き起こして、レオンが怪我したところをリリアが助けるイベントでした。




