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私を何度も殺してきた人たちと恋愛したら、ヤンデレ化された件  作者: ニアン
文化祭編

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26.カイの想い【カイ視点】

(え、可愛い)


 それは突然の一目惚れ。


 さっきまで生徒会の仕事なんて親から言われなければ絶対に受けないのにとか思っていたのに、今はその親に感謝した。


 生徒会室の重い扉が開けたのは、淡い金髪をなびかせた、人形のように美しい少女だった。公爵令嬢らしい、凛とした、冷たい印象を受ける氷細工のような青紫の瞳。でも何故かその瞳が優しく溶けるのを知っている気がする。


 その瞳と視線が合った刹那。カイの胸の奥が、ありえないほどの力でぐり、と抉られた。


 心臓が、警報のような早鐘を打つ。息が止まる。


 理由なんてわからない。今日、初めて会ったはずなのに。


 なのに、なんで。


 泣きたくなるほど懐かしくて、狂おしいほど愛おしくて。


 心の底から『今度こそは守らなきゃいけない』という、身を切るような焦燥感が溢れてくるのか。


(これが一目惚れってやつか。)




 気づけば自己紹介が始まっていた。カイはセラのことで頭がいっぱいで、順番が回ってきたことにパニックになる。


()()はちゃんと気持ちを伝えないと後悔する。……?)


「俺はカイ・ルービンシュタインって言いまーす。よろしくー。……あー、あと一ついい?君、かわいいね。俺と付き合わん?」




♡ ♡ ♡




 流石に面と向かって『お付き合いはできません。』って言われた時はショックだったけど、素直に好意を伝え続けていたら、無自覚っぽかったけど、たまに照れる時があって、さらに好きになった。


(なのに……)



「いや、ちょっとびっくりしちゃってさ。ほら、俺、絶対大事にするよーってアピールしてたじゃん? なのに、そっち選んじゃうんだなーって。」


 冗談めかした口調の裏に、本音をこれでもかと混ぜ込む。

 セラは「え、あ、はい」と小さく戸惑っているだけだ。彼女はまだ、カイのこの金色の瞳の奥に、どれほど暗く深い執着が眠っているか気づいていない。


「あー!ごめんねセラちゃん!怒ってるわけじゃなくてーそうだよね政略結婚とか?」


 まだ政略結婚なら……


「まさか〜恋愛結婚だよ〜」


 希望はすぐに打ち砕かれた。笑顔が一瞬消える。


(早く取り繕え…!)


「そうなんだ……おめでとうございます。」


 よくいつも通りの声が出せたものだと、カイは内心で自分を冷笑した。机に頬杖をつき、張り付いた笑顔のままセラを見つめる。彼女は少し戸惑ったように、けれどどこかホッとしたような複雑な顔で微笑み返してくる。


 その表情さえ、愛おしくて、同時に猛烈に壊してしまいたかった。


 恋愛結婚なんて、聞いて正気でいられる方がおかしい。




♡ ♡ ♡




 生徒会室を出る。


「じゃ、お疲れー。」


 いつも通り笑って。いつも通り手を振って。誰も違和感を抱かないくらい、いつものカイを演じ切る。


 扉が閉まった。


 その瞬間。笑顔が消えた。


「……は。」


 息が、重い。足が勝手に歩く。どこへ向かっているのかも分からない。


『恋愛結婚だよ〜』


 ノアの声が、何度も、何度も頭の中で反響する。


「……恋愛。」


 その二文字が、ひどく耳障りだった。


 政略ならよかった。


 家の都合なら。


 王命なら。


 仕方ないって、自分を騙せた。


 でも違う。


 セラは、自分の意思でノアを選んだ。


「……なんで。」


 思わず笑ってしまう。


「俺じゃなかったの。」


 壁へ寄り掛かる。


 目を閉じても浮かぶのはセラの顔ばかりだった。


 笑った顔。


 戸惑った顔。


 照れた顔。


 真面目な顔。


 自分が選ばれると思ってたのに。


「違ったんだ。」


 胸が痛い。


 痛くて、痛くて。


 呼吸をするたびに、何かが軋む。


 ノアがセラの荷物を持った。


 当たり前みたいに送っていった。


 その光景が頭から離れない。


「……触んなよ。」


 ぽつりと漏れた声に、自分で驚いた。


「俺の前で。」


 違う。


 セラは物じゃない。


 そんなこと分かってる。分かってるのに。


 胸の奥から湧き上がる黒い感情は止まらなかった。


「俺のなのに。」


 言った瞬間、自分で目を見開き、はっと口を押さえる。


「……っ。」


 違う違う違う。


 セラは誰のものでもない。


 そんなこと、一番分かってる。


 それなのに。


 心の奥底では。


(渡したくない。あいつの隣に立たないで。笑わないで。俺を見て。)


 ぐちゃぐちゃに混ざった感情が、理性を飲み込んでいく。


「……最低。」


 こんなこと思うなんて。


 セラが幸せなら、と冷静な部分が考える。


 けれど、黒い感情はそれを許さない。


 幸せになってほしい。


 でも。


 その相手が自分じゃないなら。


 そんな幸せなんて。


「……いらない。」


 沈黙。


 その言葉が、自分自身を一番傷付けた。


 しばらく動けない。


 拳を握る。


 爪が食い込み、血が滲むほど強く。


 痛みなんて、どうでもよかった。


 壁へ額を預ける。


 自分でも吐き気がするくらい醜い。


 なのに。


 その醜さが、少しずつ心地良くなっていく。


 ノアがいなければ。


 一瞬だけ。


 世界が()()()()()未来を想像した。


「……っ。」


首を振る。


 そんなこと、考えるな。


 ()()()()()()()()()()()、なんて。


 ()()()()()()()()()()()()()()()、なんて。


 ()()()()()()()()()()()()、なんて。


 でも。


(まだ婚約。まだ結婚じゃない。まだ、隣にいるだけ。)


 そうだ。


 まだ終わってない。


 まだ終わらせない。


 その考えが浮かんだ瞬間、口元がゆっくり歪んだ。


 笑ってしまう。


 さっきまであんなに苦しかった胸が、不思議なくらい静かになっていく。


「……そうか。」


 答えは最初から簡単だった。


 セラが俺を選ばないなら。


 俺が、選ばせればいい。


 嫌われてもいい。


 泣かれてもいい。


 恨まれてもいい。


 最後に隣にいるのが俺なら、それでいい。


「……俺のところに来るまで。」


 小さく笑う。


「絶対、諦めない。」


 その笑顔は、生徒会で見せていた太陽みたいな笑顔とは、似ても似つかなかった。

ちょっと小話!


実はカイは侍らせていた女子とは最近あまり話してないとか!忙しいから(?)らしいです!

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