25.シオンの想い【シオン視点】
生徒会室を飛び出す。
廊下を歩く。
歩いているはずなのに、足元がひどく不安定だった。
「……っ」
息が苦しい。どこか具合が悪いのだろうか。
そう思ったが違う。
原因くらい、自分でも分かっていた。
『セラ嬢とノアの婚約について。』
その言葉だけが、何度も頭の中で繰り返される。
婚約。
正式に。
王家が承認して。
もう覆らない。
「……は。」
乾いた笑いが漏れた。
人気のない中庭へ出ると、そのままベンチへ腰を下ろす。
心臓がうるさい。耳鳴りが止まらない。
(……なんで。)
理解できない。いや、理解したくない。
確かにおかしかった。いつもよりノアが気をつかう。当たり前のようにセラの仕事を手伝う。当たり前のようにセラの隣に座る。
(いつから。)
いつから、あいつは。
ノアを。……文化祭の日からか。あの巡回のあと。たった、一週間で?
「…………。」
そこで思考が止まる。
違う。違うだろ。問題はそこじゃない。
どうして自分は。こんなに苦しい。
拳を強く握る。
いつものように笑って。いつものように競い合って。
自分の努力を、一番近くで見ていてくれたはずの彼女。
そのセラが。たった今、手の届かないほど遠い場所へ行ってしまった気がした。
遅れて押し寄せる現実が、胸を静かに抉っていく。
どうして、一位だけは譲りたくなかったのだろう。
どうして、セラに勝つたび、少しだけ嬉しかったのだろう。
どうして、一緒に勉強をしたがったのだろう。
どうして、セラに男が近づくたび胸が締め付けられたのだろう。
どうして、
どうして、
「…………あ。」
その答えは、驚くほど簡単だった。
(――俺は。)
(セラに、認めてもらいたかった。)
違う。
それだけじゃない。
もっと。
ずっと。
近くにいたかった。
笑ってほしかった。
(セラに、一番に見てもらいたかった。)
そこで、ようやく気付く。
「俺……。」
言葉にならない。喉が詰まる。
「好き、だったのか……ずっと。」
自覚した瞬間だった。
胸の奥が、鈍く痛んだ。遅すぎた。気付いた時には、全部終わっていた。
婚約は正式に承認された。もう他人が入り込む隙間なんてない。
だから。だから、諦めるしかない。
「……っ」
そう思うのに。
頭のどこかで。
小さな声が囁いた。
(本当に?婚約しただけだ。まだ結婚したわけじゃない。)
……やめろ。そんなことを考えるな。
(まだ終わってない。)
違う。
(奪われたくない。)
「違う!」
思わず声が漏れた。
誰もいない中庭へ響く。
荒く息を吐く。
「……最低だ。」
婚約を祝えない。幸せを願えない。
そんな自分が、ひどく醜かった。
しばらく俯いたまま動けない。
やがてゆっくり立ち上がる。
「……今は、忘れよう。」
(……忘れなければ)
そう呟く。
だが。
その声には、自分でも分かるほど力がなかった。
ちょっと小話!
実はシオンは割と一目惚れ気味です!でも、決定打は努力が認められたことです!




