23.みんなで勉強
レオンは最後の書類へ目を通すと、ペンを置く。
「……これで今日の仕事は終わりかな。」
ふっと穏やかに笑う。
「みんな、お疲れさま。」
「お疲れさまでした!」
リリアが元気よく返事をする。
カイは机へ突っ伏したまま、大きく伸びをした。
「やっと終わったぁ……。」
「今日は珍しく頑張ってたね。」
「レオンパイセン、それ褒めてる?」
「褒めてるよ。」
「やった。」
各々が帰る準備を始めた、そのときだった。
「あっ。」
鞄を持ち上げかけたシオンが、何かを思い出したように声を上げる。
「セラ、今日は早めに終わったし、勉強しよう。」
(そういえば、最近忙しくてまた約束守れてなかったなあ)
断る理由もないので、シオンにいいよと返す。
それを聞いたリリアは口を尖らせる。
「シオンくん!私も誘ってよ!セラも〜」
(やっぱりシオンを選んだのかな……)
「ごめん、これは罰ゲームというかなんというかで、誘うって思考にならなかっただけで、仲間はずれにしたわけじゃ……とにかく!いいよねシオン!」
「ぇ……ああ。」
「勉強会?」
のんびりした声が後ろから聞こえた。三人が振り返る。
帰る準備をしていたノアが、こちらを見ていた。
「はい!」
リリアが答える。
「テスト近いので!」
「へぇ〜。」
ノアは少しだけ考えるように首を傾げる。
「じゃあ僕も行く〜。」
「え?」
思わずセラの口から声が漏れる。
「本当ですか!」
リリアは素直に嬉しそうだ。
「人数多いほうが楽しいです!」
「そうだね〜。」
いつもの気の抜けた笑顔。
けれど、その視線はほんの一瞬だけセラへ向いていた。
(……気のせい?)
そう思った矢先。
「セラちゃんがいるなら俺も!」
今度はカイが勢いよく立ち上がる。
その様子を見ていたレオンが苦笑する。
「じゃあ、生徒会メンバー全員でやろうか。私も勉強しなきゃいけないしね。」
「レオンさんも!?」
「分からないところがあれば教えられるし、生徒会室もそのまま使えるし。」
その言葉にリリアの目が輝く。
「ありがとうございます!」
生徒会室は広いため、みんなが教え合いやすいように自然と一箇所に固まる流れになる。
「じゃあ僕ここ〜」
「えっ。」
セラが固まる。なんの迷いもなくノアが自分の隣りに座ったからだ。
その様子を見たカイが口を尖らせる。
「えー!?」
「そこ俺が座ろうと思ってたのに!」
「そうなの〜?」
ノアはきょとんとした顔をする。
「そうですよ!」
「でも、僕がも〜らい。」
「ノアパイセン!」
子どものような言い合いに、リリアが思わずと言ったように吹き出す。
「席なんてどこでも同じじゃないですか。」
「いや、俺はセラちゃんの隣が良かったの!」
カイは真剣な顔で首を振る。
「勉強って誰の隣か結構大事だから!」
そこへレオンが苦笑しながら割って入る。
「はいはい。」
「席で揉めない。」
「レオンパイセン……。」
「勉強をするのが目的なんだから。」
「…はーい。」
不満そうに返事をしながらも、カイは反対側へ腰を下ろした。
しばらくするとさすが成績上位者たちというべきか、静かな生徒会室に、紙をめくる音と何かを書く音だけが響き始める。
(……あれ?ここどうやるんだっけ。)
その頃セラは呪文学の応用で珍しく躓いていた。
「そこ。」
ノアがセラのノートへ指を伸ばす。
「属性の流れを逆から考えると分かりやすいよ〜。」
「……あっ。」
「ほら、ここ。」
そう言って自然にペン先で式をなぞる。
「え、あっ!なるほどありがとうございます!」
(擬音でしか説明してくれないノアが…!擬音以外で説明してくれた…!)
セラはびっくりする。そんな二人をレオンは交互に見た。
「……ノアが自分から教えに行くなんて珍しいね。」
レオンも少し驚いているようだ。
「やっぱり隣羨ましすぎ!」
カイが騒ぎ出す。
「カイ先輩うるさいです。」
「じゃあシオンもあのポジションは納得いってるんですかー?」
シオンはペンを止め、一瞬セラとノアを見たが、すぐに視線を教科書に戻した。
「……別に。」
「二人とも、今勉強中だから。口を挟んだ私も悪かったけど。」
レオンの一言で、カイは口を噤み、微妙な空気になる。
「レオンさん!ここ教えてください!」
しかしリリアはその空気一瞬で和やかに戻した。
♡ ♡ ♡
ーー夜。
寮に戻ったセラは、机へ向かう。すでにニナは寝ており、ランプの明かりだけが部屋を照らしていた。
「……はぁ。」
一つ大きく息を吐く。
机の引き出しから便箋を取り出した。
(送らなきゃ……。)
婚約。ノアに言われた通り自分も父に承諾してもらえるよう、おねだりしなければならない。
ペンを持つ。
しかし。
「…………。」
(なんて書けばいいの……。あの父だから、両想いとか買いとけばオッケーしそうだけど…)
頭を抱える。
「もう……。」
誰に言うでもなく呟く。
しばらく考え込み、もう一度ペンを持った。
♡ ♡ ♡
ーーウィンドフォール公爵家。
執務室へ、一通の手紙が届けられた。
「旦那様、お嬢様からです。」
その一言だけで、公爵の表情がぱっと明るくなる。
「セラからか!」
積まれていた書類を脇へ寄せると、すぐに封を切った。
娘からの手紙は、どんな内容でも嬉しい。
便箋へ視線を落とす。
一行。
二行。
三行。
「…………。」
公爵の動きが止まった。
隣で控えていた執事が不思議そうに首を傾げる。
「旦那様?」
「婚約承諾のお願い……?」
ぽつりと漏らす。呆然としたあと。
「誰だ。」
目だけが真剣になる。
「リィン公爵家嫡男、ノア・リィン……。」
「リィン公爵家ですか。」
執事も驚いたように目を見開く。ここのお嬢様がレオン王子でないと婚約は受け付けないと言い張っていたのを知っていたからだ。
「両想い…………。」
しばらく沈黙。
やがて公爵は大きく息を吐いた。
自分が甘やかし過ぎて、少々我儘に育ってしまった娘。けれど、学園に入学してから、一度もわがままを聞いていないし、学園でも悪い噂は聞かない。
(もし、彼が、この数ヶ月でセラを変えてくれたのだとしたら…?)
公爵は静かに便箋を畳む。
「……彼との婚約にできる限り手を尽くそう。」
「よろしいのですか?」
「もちろんだ。王の承認は手こずるかもしれんが、」
迷いはない。
「私は、セラが幸せならそれでいい。」
少しだけ困ったように笑う。
「……まあ、一度相手には会わせてもらうが。」
執事も思わず笑みを浮かべた。
「当然でございます。」
ちょっと小話!
【レオン視点】
勉強会が終わり、ノアと一緒に寮へ戻っていた。もう辺りは暗く、生徒はほとんど見かけない。
ノアと何気ない話しているとさらりとノアがすごいことを行ったので、思考が止まる。
「……なんて?」
「だ〜か〜ら〜。僕セラと婚約したいから王族に根回ししといて〜」
「は!?あの女のどこがいいっていうんだよ!」
思わず『あの女』呼ばわりしてしまったため、焦って周りを見渡すが、ノア以外には誰もいない。
(そういえばいつのまにか呼び捨てになってる。)
「あの女ってひどいな〜。でも、そう思ってるならちょうどいいじゃん。まだセラとレオンを結婚させたい貴族もいるし〜」
「……情が湧いたのか?」
「好きというか〜……」
ノアは言葉を探すように目線を泳がせるが、適切な言葉が浮かばなかったのか、あるいは言葉にするのが面倒だったのか、諦めたように首を振る。
「いや、やっぱ好きかな〜」
(似たような境遇なのに……なんで…!)
セラに嫉妬する。
けれど、すぐにノアが『恋情』からセラと婚約したい訳ではないと気づく。
(きっと、ノアの興味はすぐ失せるだろうから、厄介払いとしてちょうどいい。)
「……分かったよ。父上に進言(脅して)しておく。」
「ありがと〜」
もはや本編みたいになっちゃいました…




