22.日常に戻って(?)
文化祭が終わり、学園にはようやく日常が戻ってきた。
昨日まで賑わっていた廊下からは屋台が姿を消し、壁を彩っていた装飾も次々と片付けられていく。
浮かれた空気はまだ少しだけ残っているものの、生徒たちの話題は少しずつ一週間後の定期テストへと移り始めていた。
(……結局、夢じゃなかったんだよね。)
教室へ向かいながら、セラは無意識に左手を見る。
文化祭の夜。校舎裏で交わした約束。婚約者。思い出しただけで、頬が少し熱くなる。
(いやいや、まだ正式に婚約したわけじゃないし!)
両頬を軽く叩き、首を振る。
(それに、あれはあくまで交換条件。断罪を避けるための手段なんだから。)
そう自分へ言い聞かせると、少しだけ落ち着いた。教室の扉を開ける。
いつも通りの朝。何も変わらない日常。
少しだけ肩の力が抜ける。
自分の席へ近づき、鞄を置こうとした、その時だった。
「……?」
机の上に、小さな紙袋が置かれている。手のひらほどの大きさ。中を覗くと、丸い飴がいくつか入っていた。
「魔力飴……?」
高純度の魔石を加工して作られた、魔力回復用の飴だ。
普段使うには少し高価で、学生がおやつ代わりに買うようなものではない。
袋には小さな紙が添えられていた。
『疲れが残ってそうだったから。光魔法って魔力使うでしょ〜。ーーノア』
(……。よくお菓子がこの机にある気がする……)
思わずため息が漏れる。
(これ、誰にも見られてないよね……。)
慌てて周囲を見回すが、幸い、まだ教室にいる生徒は少ない。急いで紙袋を鞄へしまう。
「おはよ。」
びっくりしてぐるんと音が聞こえそうなほど勢いよく振り返った。そこにはシオンがいた。
「お、おはようございます。」
「え、なんで敬語?」
笑いながら隣の席に座る。どうやら紙袋は見られていないようで安心する。
「びっくりするから突然声かけないでよ!」
「理不尽だろそれは。」
しばらく睨み合って、どちらからともなく、吹き出した。
(やっぱりまだいつも通りすぎて実感全然ないな……)
♡ ♡ ♡
ーー放課後。
授業を終えたセラは、生徒会室へ向かっていた。
文化祭は終わったとはいえ、後片付けや収支確認など、仕事はまだ山ほど残っている。
扉を開けると、既に全員が揃っていた。
「お疲れ様。」
レオンが書類から顔を上げる。
「お疲れ様です。」
「セラ!」
リリアが嬉しそうに手を振る。
「文化祭、楽しかったね!」
「…(朝は)ね!」
一瞬セラの反応が遅れたのが気になったが、気のせいか、と思い直す。
「いやぁ〜、疲れたぁ……。」
カイは机へ突っ伏したまま動かない。
「結局セラちゃんには一回も会えなかったし……。セラちゃん癒してー」
「はいはい。よくがんばりました。」
「…ひどーもっと褒めてよー」
いつもとあまり変わらない様子に、どこからともなく、くすっと笑いが漏れる。
昨日の出来事が嘘だったかのように、生徒会室には穏やかな空気が流れていた。
レオンは会話がひと段落したのを確認して、声をかける。
「よし。じゃあはじめよっか!」
全員が姿勢を正す。
「まず収支報告。それから巡回のペアごとに報告書を提出してもらうよ。手の空いた人は備品リストと備品の数があってるかの確認と来年に向けてのアンケート集計をお願い。」
そう言いながら書類を配り始める。セラの前にも一枚置かれる。そのとき。
「僕と一緒にやろ〜。」
ノアはセラの返事を待つことなく、当たり前のように隣へ椅子を引いて座った。
「え?」
「同じペアだったし。」
「たしかにそうですけど……他の仕事が…」
ノアはペンを回しながら笑う。
「二人で書いた方が早いでしょ〜。レオンもいいよね」
「ああ。」
その言葉を聞いたカイが不満げな声を上げる。
「ええーズルい」
「ノアとセラ嬢は巡回でペアだったのだから諦めろ。誰かとやりたいのなら、カイもシオンとやればいいんじゃないのか?」
レオンの言葉にセラも「そういうものなのかな」と納得し、報告書へ目を落とした。
「ねえ〜セラ〜飴、ちゃんと見つけた?」
しばらく報告書を書いていると、ノアが小声で声をかけてきた。
「……見つけました。ありがとうございます。」
「どういたしまして〜。」
いつも通りの、気の抜けた笑顔。文化祭で見せた狂気など、欠片も感じさせない。
「あ、そうそう。」
「はい?」
彼はまた少しだけ顔を寄せ、さらに小さな声で囁いた。
「光魔法のこと〜。」
心臓が跳ねる。
「もちろん誰にも話してないから。安心していいよ〜。婚約はこっちが根回ししておくから、お義父さんにもお願いね〜」
ノアはそう言ってニコリと微笑んだ。
ちょっと小話!
実はウィンドフォール公爵のセラへの溺愛ぶりはすごく有名な話で、セラの横暴ぶりは何のせいか聞くと、ほとんどの人が父親が甘やかし過ぎたせいと答えるそうです!




