21.光の申し子【ノア視点】
文化祭が終わり、自室へ戻ったノアは、机の上へ小さな録画装置を置いた。
魔力を流し込むと、空中へ淡い光が広がる。
映し出されたのは、夜の校舎裏だ。腕を失った少年と。焦る少女が映し出される。
そして。
「ーー{ヒール}」
少女の詠唱とともに、夜空へ無数の光が舞う。星々が地上へ降りてきたかのような輝き。
失われた腕は、何事もなかったように再生していく。
ノアは何も言わず、その光景を見つめていた。
一度。
二度。
三度。
映像が終わるたび、同じ場面を繰り返す。
やがて再生を止めると、小さく笑った。
「……やっと手に入れた。ずうっと探してたよ。」
その一言に、何年もの歳月が滲む。
机の引き出しを開ける。奥から取り出したのは、一冊の古びた絵本。
何度も開かれたページは色褪せ、革張りの表紙にはもう題名すらほとんど残っていない。
それは、ノアが幼い頃に何度も読んだ本だった。
♡ ♡ ♡
「坊ちゃん。また図書室ですか。」
「うん。」
四歳のノアは、屋敷の広い図書室で本を読んでいた。
遊び相手はいない。けれど退屈もしなかった。本の中には、知らない世界がいくらでも広がっていたからだ。
その日も、本棚から一冊の絵本を手に取る。英雄譚でもなければ、恋物語でもない。
題名も読めないほど古びた一冊。
けれど、何となく気になった。
ページをめくる。
そこに描かれていたのは、一人の少女だった。
誰かの傷を癒やし、誰かの涙を止め、誰かの命を救う。
そんな、どこにでもある昔話。なはずなのに、ノアはその絵本がなぜか、どうしても気になった。
ーーーーーー
『少女は光で失われた四肢を元へ戻しました。』
『少女は光で失われた命を繋ぎ止めました。』
『その奇跡を見た人々は、少女を奪い合いました。』
『王は戦争のために。』
『貴族は権力のために。』
『人々は自分の大切な人を救うために。』
『誰もが少女を求めました。』
『だから少女は、誰にも見つからない場所へ姿を消しました。』
『もし、この物語を読む子がいるなら、覚えていてください。』
『その子は奪い合いや争いを求めていないことを。』
『人々が笑って暮らせることこそ、その子の本当の願いなのですから。』
ーーーーーー
最後のページを読み終えたノアは、しばらくそのページを見つめていた。
物語なのに。まるで誰かが本当に伝えたいことを書いた手紙のようだ。
翌日、家庭教師へ尋ねた。
「先生。この本知ってる?」
家庭教師は絵本を一瞥した。
「その本は存じません。ただ、かなり古い装丁ですね。リィン家の蔵書として代々残されてきたのでしょう。」
ふーんとノアは納得する。
「あっそうだ。この本に光魔法で手足を再生する場面があったんだけど、僕も光属性の魔力だったら、それくらいできるようになるかな?」
その言葉に家庭教師は小さく笑う。
「失われた四肢を再生するなど、神話や伝承でしか聞いたことがありません。もし本当にそんなことが可能なら、それは『魔法に愛された存在』でしょう。……もっとも、そのような存在が本当にいたという記録は、私は知りません。」
「……そう。」
ノアは頷いた。
けれど、納得はできなかった。
(なんであんな絵本が僕の家に伝わってるのかな。僕の家が代々光属性の魔力を持つ人が多いのと関係あるのかな……)
その日からだった。
ノアが光魔法を調べ始めたのは。光魔法に執着するようになったのは。
♡ ♡ ♡
ノアは古びた絵本を閉じると、隣に録画装置を並べた。
絵本に描かれた奇跡。
そして今日、自分がこの目で見た奇跡。
ノアは静かに笑う。
「……やっぱり、おとぎ話なんかじゃなかった。本当にいたんだ。」
窓の外では、文化祭が終わり、徐々に寮に戻ってくる人たちが見える。
それ横目に、ノアはもう一度だけ録画を再生した。
光は、確かにそこにあった。
ちょっと小話!
実はノアはかなりのところまで光魔法について調べています!ただ、すっぽりと抜け落ちたような部分が幾つかあり、結局セラを見るまでその童話が本物か分からなかったそうです!




