12.先生
ーー放課後。
文化祭の企画書を配り終えたセラは、生徒会室へ戻ってきた。
「失礼します。」
「おかえり。」
生徒会業務に勤しんでいたレオンが顔を上げる。
「企画書は全部配れた?」
「はい。あと、一組だけ担任の先生がいらっしゃらなかったので、机の上に置いてきました。」
「ありがとう。助かったよ。」
レオンは満足そうに頷くと、机の端に置かれていた一冊のファイルを手に取った。
「あ、そうだ。」
「?」
「悪いんだけど、これもお願いしていいかな。」
差し出されたのは、紺色の表紙をした分厚いファイルだった。
「新任の魔法学担当の先生に渡してほしいんだ。」
(あっ!そういえば!)
セラは心の中で頷く。
攻略対象の一人。魔法学担当の新任教師。
今までの周回では関わることは避けてきた。授業を受けて、終わったらすぐ教室を出る。そうすれば、自然と接点がなくなるから。
(前までなら、絶対に断ってたけど……今回は避けない!)
「分かりました!」
「ありがとう。」
ファイルを受け取り、意気揚々と生徒会室を後にした。
♡ ♡ ♡
職員室。
「失礼します。」
中を覗くと、何人かの教師が机へ向かって仕事をしていた。
「あの、生徒会から魔法学の先生に資料を届けに来ました。」
近くにいた女性教師が顔を上げる。
「あら、その先生なら資料室よ。」
「資料室ですか?」
「教材を探してるみたい。」
「ありがとうございます。」
軽く頭を下げ、隣の資料室へ向かう。
「失礼します。」
「どうぞ。」
中から穏やかな声が返ってきた。
扉を開けた瞬間、乾いた紙と革表紙が混じった古い本の匂いが鼻をくすぐる。
壁一面に並んだ本棚には、魔法学や歴史学の分厚い専門書がぎっしりと詰め込まれ、窓から差し込む西日が舞い上がる埃を淡く照らしていた。その本棚の前に立っている青年は抱えていた数冊の本を丁寧に机へ置く。その仕草はどこか落ち着いていて、急ぐ様子もない。
彼の琥珀色の瞳がこちらを向くと、自然とその表情が和らいだ。
ーーエリアス・ヴァインベルク
魔法学教師。子爵家次男。髪はストレートな銀髪。目は暖かい琥珀色。授業を受けた感じは、大人の余裕を感じる優しそうな人だなって感じ。
「あの、生徒会から資料を預かってきました。」
セラがファイルを差し出すと、柔らかな笑みが返ってきた。
「ああ、ありがとうございます。」
エリアスはセラの前まで歩いてくる。
「助かります。まだ校内も覚え切れていなくて。」
苦笑しながら資料を受け取った。
「私はエリアス・ヴァインベルクです。これから魔法学の担当をする予定なので、よろしくお願いします。」
(うん。知ってます。なんなら何十年もあなたの授業受けてます。)
「セラ・ウィンドフォールです。」
「セラさんですね。」
エリアスは一度頷く。
「生徒会のお仕事、お疲れさまです。」
「ありがとうございます。」
その、何気ないやり取りでも、教師らしい落ち着いた口調は、どこか安心感があった。
しかしセラはなぜか変な心地になる。
(……?)
「文化祭の準備も始まったと聞きました。」
「あ、はい。」
「生徒会は大変でしょう。」
少し困ったように笑う。
「この学園の文化祭は来たことがなくて」
「そうなんですか?」
この学園の文化祭は王都を巻き込むそこそこ大きなイベントなので、エリアスのような成人した貴族の中では来たことがないのは珍しい。
「ええ。ですから、分からないことがあれば、私の方が教えてもらうかもしれません。」
冗談めかして言う姿に、思わずセラは笑ってしまう。
「私も(今回の周回では)初めて参加するので、そのときは私も分からないかもしれません。」
「あはは、それもそうですね。」
穏やかな笑い声が資料室に響いた。
(自然に接しやすい人…)
セラはそんな感想を抱いた。だがそれとともに違和感が大きくなる。
(なにか…懐かしい……?気のせいかしら…)
「えーと、それでは、失礼します。」
「はい。届けてくださってありがとうございました。」
軽く会釈を交わし、セラは資料室を後にした。
♡ ♡ ♡
閉まった扉を見つめながら、エリアスは小さく息を吐いた。
「……礼儀正しい子だな。」
セラとは今日初めて会い、まだ名前と顔を覚えただけ。それ以上でも、それ以下でもない。
ただ、顔を見た瞬間、体の中からどろりとした感情が溢れ出るような感覚に陥った。
(なんだったんだ?)
まあ、これからも何かと顔を合わせる機会はある。そうすればその感情の正体もわかるだろう。
ちょっと小話!
実はニナの実家とエリアスの実家はすごく仲がいいです!




