15
行きとは違う気持ちで帰る道を馬車が走る。
隣にはシューレが座っている。
カリュースの領地に入り、今回もここでゆっくりする。
今日はずっと二人で気詰まりだった。
ほんのちょっと前まで幸せいっぱいだったのに、今は地の底まで沈んでいる。
楽しく話していたのに。
シューレが付き合ったことのある女性の話をしたのがいけないのだ。
女性の仕草で『眠そうに目をこするのは可愛いよな」と言ったのだ。
貴族女性は人前でそんな仕草はしない。
という事はベッドの上でってことでしょう?!
私はプンスカ怒りながらも、こんな事で怒るんじゃなかったと反省もする。
シューレの部屋を訪ねようか考えるがそれも癪に障る。
ヴィーノは笑っていたけど、私には大事件なのよ!
でも、可愛いと思っているのならいつか、その仕草を見せてやるんだからっ!
コンコンコンコンと扉がノックされヴィーノが扉を開ける。
シューレが部屋に入ってくる。
ヴィーノは何も言わず出ていった。
「アマンダごめん。無神経だったよ」
先に謝ってもらってさっきまでの怒りがスーッとどこかへ行く。
「私こそごめんなさい、感情的になりすぎてしまいました」
いや、私が、いや私の方がと二人で言い合いクスリと笑った。
早々に仲直りできて本当に良かった。
シューレが私の指輪にキスを落として「愛しているよ」と囁いた。
馬車の走る先に境界門が見える。
帰ってきたのだとやっぱりちょっとホッとする。
結局四ヶ月以上滞在したものね。
門番を労い、通過する。
早馬が走っていくのが見える。
「後、半日ちょっとです」
「長旅疲れただろう?」
「シューレ様もお疲れでしょう?私とずっと一緒で疲れませんでしたか?」
「喧嘩もしたし?」
「はい」
二人でクスクス笑った。
この旅の間に互いの悪いところもちょっと分かった。
シューレはちょっと鈍感で素が出ると口が悪い。女性を見る目は意外と厳しくて、甘えたさん。
きっと私の方が短気ね。すぐ怒らないように気を付けないと。
やっと我が家が見えた。帰ってきたと思うし、やはりホッとする。
両親と兄が待っていてくれる。
シューレが先に降りて私に手を差し出してくれる。
その手に手を預ける度に思う。
幸せになるのだと。
両親と兄が笑顔で迎えてくれる。
「ただいま戻りました」
「おかえり」
「こちらの方はシューレ・マーベラス様。私が結婚したいと思っている人です」
「初めまして。シューレとお呼びください」
「遠い所へよく来てくださいました。旅装を解いてゆっくりして下さい」
「ありがとうございます」
シューレの荷物を客室に運び込み、湯の用意をしてもらう。
自宅のお風呂に入って疲れた体がほぐれていく。
前にお風呂入った時は行きたくないと思っていたのに、今は結婚式がもうすぐ。想像もしなかった。
父の執務室に向かう。
両親と兄が待ち構えていた。
「いきなり結婚ってどうなっているんだ?」
「手紙を見た時は驚いたよ」
父と兄が矢継ぎ早にはなしかけてくる。
「私も驚いています」
「カリュース様に私の身の上を話したのでしょう?」
父に問いかけたのだが、母がちょっと気まずそうな顔をした。
話したのは母だったのね。
「それで同じ年頃のシューレと引き合わせてみようと思ってくれたらしくて・・・紹介された時にはいい人だな〜と」
「デートを重ねてシューレ様ならと思って結婚をお受けしました。勝手をしてごめんなさい」
「アマンダは幸せなんだな?」
「はい。幸せです」
「それで・・・」
「なんだ?」
「実は結婚式が来月で・・・」
「はぁ?」
「なんでそうなるんだ!」
「ほら、私、婚約破棄され癖?ついてるから婚約はせずに結婚しようって話になって・・・」
三人共口をあんぐりと開けたままになっている。
「向こうではもう住む屋敷も決まっていて、結婚式に王女様も来てくださるって言ってて・・・」
誰も返事をしてくれない。
「あのーお父様・・・聞いてます?」
「・・・・・・・」
父がハッとして兄に向かって叫ぶ。
「こちらの準備が間に合わんっ」
次話 最終話になります。




