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サイコパスプリンス  作者: 山空
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第9話「テスト期間」

第9話


「体育祭が終わったばかりで悪いが、来週から中間テストだからな」


 朝のホームルームで、担任の先生がそう告げた。


 教室のあちこちから、ため息が漏れる。


「もうテストかよ……」


「体育祭のあとくらい休ませてほしいんだけど!」


 先生はそんな声を気にする様子もなく、黒板に今後の予定を書き始めた。


 僕も机の中から予定表を取り出した。


 それからの授業でも、先生たちは試験範囲や重要な箇所について繰り返し説明していた。


 休み時間になると、教室のあちこちでテストの話が聞こえてくる。


「白瀬くん、おはよう!」


 朝倉さんが僕の席にやってきた。


「おはよう」


「もう来週テストだね!」


「そうだね。体育祭が終わったばかりなのに」


「ほんとだよ! 全然勉強できてない!」


「僕もそろそろ始めないとな」


「お互い頑張ろうね!」


「うん」


 そんな話をしているうちに、次の授業が始まった。


 その後も特に変わったことはなく、気づけば放課後になっていた。


 帰り支度を済ませ、僕は教室を出た。


 電車に揺られながら、今日配られた試験範囲に目を通す。


 現代文と英語は問題なさそうだが、数学は少し不安だった。


 家に着くと、自分の部屋へ向かった。


 鞄を置き、机の上に試験範囲のプリントを広げた。


 とりあえず、苦手な数学から始めることにした。


 問題集を開き、最初の数問を解いていく。


 しかし、ページが進むにつれて、手が止まることが増えてきた。


「……分かんないな」


 解説を読んでも、途中の式がどうしてそうなるのか理解できない。


 もう一度最初から解き直そうとしたとき、机の上のスマホが震えた。


 朝倉さんからLINEが届いていた。


『白瀬くん! 英語のことで聞きたいことあるんだけど、今大丈夫?』


『大丈夫だよ。どうしたの?』


『ここの問題が分からなくて!』


 送られてきたのは、英語の問題集の写真だった。


 仮定法の問題か。


 僕は解き方を簡単にまとめて返信した。


『なるほど!! そういうことか!』


『ありがとう! めっちゃ助かった!』


『どういたしまして』


 返信を送ってから、机の上の数学の問題集に目を戻した。


 さっきから同じ問題で止まっている。


 そういえば、朝倉さんは数学が得意だったはずだ。


『朝倉さん、僕も一つ聞いていい?』


『もちろん! なになに?』


『数学なんだけど、ここの解き方が分からなくて』


 問題の写真を撮って送る。


 少しすると、朝倉さんから返信が届いた。


『あー! これね!』


『ちょっと待ってて!』


 数分後、途中の計算を書いたノートの写真が送られてきた。


『ここでこの式を使うんだよ!』


 写真を見ながら、もう一度問題を解いてみる。


 さっきまで分からなかった式が、今度はすんなりとつながった。


『あ、できた! ありがとう』


『ほんと!? よかった!』


『朝倉さん、教えるの上手だね』


『えへへ、ありがと! 白瀬くんも英語教えてくれてありがとう!』


『こちらこそ。助かったよ』


 スマホを置いて、もう一度問題集に向き直った。


 それから数分後、再びスマホが震えた。


 朝倉さんからだった。


『白瀬くん、ごめんね!』


『また英語で分からないところがあって……』


『何回も聞いちゃってごめん!』


 思わず少し笑ってしまった。


『全然大丈夫だよ』


『どこが分からないの?』


『ありがとう』


 続けて、問題集の写真が送られてきた。


 送られてきた問題を確認し、解き方を説明する。


『あー! 分かった!!』


『何回もありがとう!』


『全然大丈夫だよ』


 スマホを置き、数学の問題集に戻る。


 しかし、次の問題でも手が止まってしまった。


 しばらく考えてみたものの、やはり分からない。


『朝倉さん、ごめん。僕もまた聞いていい?』


『もちろん!!』


 問題の写真を送ると、すぐに返信が届いた。


『これはね、まずここの式を変形するんだけど』


『そのあとにさっきの公式を使って』


『あれ、ちょっと待って』


『ここを先に計算するんだった!』


 言われた通りに計算してみるが、途中で分からなくなった。


『ごめん、ここの部分がよく分からなくて』


『あー、そっか!』


『えっとね……』


 しばらく返信が途絶えた。


『ごめん! 文章だと説明難しい!笑』


 どう返信しようか考えていると、突然スマホが鳴り始めた。


 画面には、朝倉さんの名前が表示されている。


「……え?」


 少し驚きながらも、通話ボタンを押した。


「もしもし?」


『あ! 白瀬くん! ごめん、急に電話しちゃって!』


「ううん、大丈夫だよ」


『よかった! 文字で説明するより、話した方が早いかなって思って!』


「確かに、その方が分かりやすいかも」


『でしょ! じゃあ、さっきの問題なんだけどね!』


『まず、問題の二行目を見てくれる?』


「うん、見てるよ」


『そこにある式を、さっきの公式に当てはめるの』


「えっと……こうかな?」


『そうそう! で、次に両辺を整理して……』


 朝倉さんの説明を聞きながら、ノートに式を書いていく。


「あ、なるほど。そういうことか」


『分かった!?』


「うん。さっきまで全然分からなかったのに」


『よかったー! ちゃんと説明できるか不安だったんだよね!』


「すごく分かりやすかったよ。ありがとう」


『えへへ、どういたしまして!』


 僕は解き終わった問題をもう一度確認した。


『ねえ、白瀬くん』


「ん?」


『せっかく電話してるし、このまま一緒に勉強しない?』


「いいよ。僕もまだ数学やりたいし」


『やった! じゃあ、分からないところあったらまた聞くね!』


「うん。僕も聞くと思う」


『もちろん!』


 そうして、僕たちは電話をつないだまま、それぞれの勉強を再開した。


 しばらくの間、通話越しに聞こえるのは、ページをめくる音とペンを走らせる音だけだった。


『ねえ、白瀬くん』


「ん?」


『また英語聞いてもいい?』


「もちろん。どこ?」


『今写真送るね!』


 送られてきた問題を確認し、解き方を説明する。


『あ、なるほど! ありがとう!』


「うん」


『白瀬くん、教えるの上手だね!』


「朝倉さんも分かりやすかったよ」


『えへへ、ありがと!』


 それからも、分からない問題があればお互いに質問しながら勉強を続けた。


 ふと時計を見ると、電話を始めてから一時間近く経っていた。


「もうこんな時間なんだ」


『え、ほんと?』


「うん。もう一時間くらい経ってるよ」


『うそ! 全然気づかなかった!』


「僕も」


『なんか、一人で勉強するより早く感じるね!』


「そうだね。いつもより進んだ気がする」


『ね! 私も!』


 僕は机の上に広げた問題集に目を落とした。


 いつもなら途中で嫌になっていた数学も、今日は思ったより進んでいた。


『よし! あと三十分だけ頑張ろ!』


「そうだね。ちょうどキリもいいし」


『じゃあ、三十分後に終わりね!』


「分かった」


『よーし、集中するぞー!』


 朝倉さんの声を聞いて、僕も再びシャーペンを握った。


 それからは、お互いほとんど話さずに問題を解き進めた。


 時折、電話の向こうからページをめくる音が聞こえてくる。


 誰かと電話をつないだまま勉強するなんて、初めてのことだった。


 不思議と、その静けさは嫌ではなかった。


 それから三十分ほど経った。


 時計を確認して、僕はシャーペンを置いた。


「朝倉さん、三十分経ったよ」


 返事がない。


「……朝倉さん?」


 もう一度呼びかけてみる。


 すると、電話の向こうから小さな寝息が聞こえてきた。


「……寝てる?」


 どうやら、勉強しているうちに眠ってしまったらしい。


「朝倉さん、おやすみ」


 小さくそう言って、僕は通話を切った。


 翌朝、いつものように教室に入ると、朝倉さんが自分の席に座っていた。


「おはよう、朝倉さん」


「あっ、白瀬くん! お、おはよう!」


 朝倉さんは少し慌てた様子で返事をした。


「どうかした?」


「えっと……昨日、ごめんね!」


「ああ、電話のこと?」


「うん……寝ちゃってたみたいで……」


 朝倉さんは恥ずかしそうに目を伏せた。


「気にしなくていいよ。疲れてたんでしょ?」


「そうなんだけど……起きたら朝で、びっくりしちゃった!」


「そうだったんだ」


「おかげで寝坊しちゃって、今日ほとんどメイクできてないんだよね……」


 そう言われて、改めて朝倉さんの顔を見る。


 確かに、いつもと少し雰囲気が違う気がした。


「寝坊してもこの時間なんだね」


「え?」


「まだ結構早い時間だと思うけど」


「そ、そうかな……?」


 朝倉さんは少し恥ずかしそうに頬をかいた。


「いつもより遅く起きたから、すごく焦っちゃった」


「そうだったんだ」


「昨日、電話までしてもらったのに寝ちゃうなんて……ほんとごめんね」


「気にしなくていいよ。僕も勉強進んだし」


「……ありがとう」


 朝倉さんは少し安心したように微笑んだ。


 その日の終礼で、担任の先生が思い出したように口を開いた。


「そういえば、テスト期間中は教室を十八時半まで開放しているからな。勉強したい人は自由に使ってください」


 教室が少しざわついた。


 十八時半か。


 家に帰っても勉強するつもりだったし、せっかくだから使っていこうかな。


 終礼が終わると、帰る生徒と教室に残る生徒に分かれた。


 僕は鞄から数学の問題集を取り出した。


 周りを見ると、教室にはまだ結構な人数が残っている。


 朝倉さんも、橘さんや他の友達と机を寄せて勉強を始めていた。


 僕は自分の席で問題集を開いた。


 しばらくすると、教室のあちこちから質問し合う声や笑い声が聞こえてきた。


 それでも、普段の休み時間に比べればずっと静かだった。


 時計が十七時半を過ぎた頃から、一人、また一人と帰り始めた。


「じゃあ、また明日!」


「お疲れー!」


 そんな声が聞こえるたびに、教室の人数が減っていく。


 橘さんたちも帰ったようだった。


 僕は特に気にせず、問題を解き続けた。


 ふと顔を上げると、時計は十七時四十五分を指していた。


 教室はすっかり静かになっている。


 周りを見渡すと、残っているのは僕と朝倉さんだけだった。


 朝倉さんは自分の席で、真剣な顔をして問題集に向かっている。


 しばらくして、朝倉さんが顔を上げた。


「あれ、白瀬くん?」


「ん?」


「もう二人だけなんだね」


「そうみたいだね」


 朝倉さんは教室を見渡してから、僕の方を向いた。


「ねえ、白瀬くん。ちょっと聞いてもいい?」


「うん、どうしたの?」


「さっきまで玲奈たちに数学教えてて、自分の勉強が全然進んでなくて……」


 朝倉さんは少し困ったように笑った。


「英語で分からないところがあるんだけど、教えてくれない?」


「もちろん、いいよ」


「ほんと? ありがとう!」


「どこが分からないの?」


「えっとね、ここなんだけど……」


 朝倉さんは問題集を持って、僕の席までやってきた。


 隣の椅子を引き寄せ、僕の横に座る。


「この問題、何回読んでも分からなくて」


「ちょっと見せて」


 問題文に目を通す。


「ああ、これなら……」


 僕は問題集を指さしながら、順番に説明した。


「ここは、この文と同じ形になるんだよ」


「えっと……あ、そっか!」


「うん。だから答えはこうなる」


「なるほど! やっと分かった!」


 朝倉さんは嬉しそうにノートに書き込んだ。


「ありがとう、白瀬くん!」


「どういたしまして」


 朝倉さんはそのまま次の問題を解き始めた。


 僕も自分の問題集に目を戻す。


 静かな教室に、二人分のシャーペンの音が響いていた。


 気づけば、時計は十八時半を指していた。


「あ、もうこんな時間だ」


 朝倉さんが時計を見上げた。


「そろそろ帰らないとね」


「そうだね」


 僕たちは問題集を閉じ、帰り支度を始めた。


「今日もありがとう、白瀬くん!」


「こちらこそ。僕も助かったよ」


 二人で教室を出て、校門へ向かった。


 それからも、テストまでの数日間、僕たちは放課後の教室に残って勉強した。


 十七時半を過ぎる頃には、教室に残る生徒も少なくなり、気づけば朝倉さんと二人だけになっていることが多かった。


 分からない問題を教え合ったり、ときどき他愛もない話をしたり。


 そうしているうちに、あっという間にテスト前日を迎えた。


 いつものように十八時半まで勉強し、僕たちは帰り支度を始めた。


「いよいよ明日からだね!」


「そうだね」


「ちゃんと勉強したし、大丈夫だよね……?」


「きっと大丈夫だよ」


「だよね!」


 朝倉さんは鞄を肩にかけ、僕の方を向いた。


「じゃあ、お互い頑張ろうね!」


「うん。頑張ろう」


 僕たちは教室を出た。


 翌日から、中間テストが始まった。


 教室にはいつもの賑やかさがなく、試験開始まで教科書やノートを確認している生徒が多かった。


 僕も最後に公式を確認してから、机の上を片づけた。


 チャイムが鳴り、問題用紙が配られる。


 最初の科目は数学だった。


 問題を順番に解いていくが、やはり途中で手が止まってしまう。


 しばらく考えて、次の問題に進んだ。


 すると、見覚えのある問題が目に入った。


 朝倉さんに教えてもらったところだ。


 解き方を思い出しながら、答案用紙に式を書いていく。


 ……解けた。


 少し安心して、残りの問題に取りかかった。


 それから数日間、テストが続いた。


 得意な科目は手応えがあったものの、苦手な科目には少し不安が残った。


 そして、最終日。


 最後の試験が始まり、教室にはペンを走らせる音だけが響いていた。


 残り時間を確認し、答案を見直す。


 やがて、終了を告げるチャイムが鳴った。


「はい、そこまで。筆記用具を置いて」


 先生の声に従い、シャーペンを置く。


 これで、ようやく中間テストが終わった。

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