第8話「秘密」
教室で荷物をまとめたあと、僕は校門へ向かった。
「白瀬くん、こっち!」
校門の近くで朝倉さんが手を振っていた。
その隣には、見覚えのある女子生徒が立っている。
「ちーす! 白瀬くんだよね?」
「うん、そうだけど」
「花から話聞いてるよ!」
「え、そうなの?」
「ちょっと、玲奈!」
朝倉さんが慌てたように口を挟んだ。
「えー、別に変なこと言ってないじゃん!」
「そうだけど!」
二人のやり取りを見て、思わず笑ってしまった。
「じゃ、そろそろ行こっか!」
朝倉さんの声に、僕たちは歩き始めた。
「はー、お腹すいた。今日めっちゃ動いたー!」
橘さんが大きく伸びをした。
「玲奈、ずっと応援してたもんね!」
「そうそう! 声出しすぎて喉痛いし」
「途中から声ガラガラだったよね!」
「それ言わないでよ! 自分でもびっくりしたんだから!」
朝倉さんが「あはは!」と笑った。
「白瀬くんは? 疲れてない?」
「疲れたよ。借り人競走だけなのに」
「それだけって、結構走ってたじゃん!」
「そうかな。朝倉さんの方がずっと走ってたと思うけど」
「花はリレーもあったしねー」
「そうそう! 明日筋肉痛かも!」
そんな話をしているうちに、駅前のファミレスが見えてきた。
「あ、ここだよ!」
朝倉さんが店を指さした。
店内に入ると、店員に案内され、僕たちは四人掛けの席に座った。
「何食べよっかなー!」
橘さんがさっそくメニューを開いた。
「玲奈、もう決めてなかった?」
「ハンバーグにするつもりだったけど、写真見たら迷ってきた!」
「あはは! 分かる!」
僕もメニューを開いた。
「あ、これもおいしそう!」
朝倉さんがメニューの写真を指さした。
「それ、さっき私が迷ってたやつ!」
「え、そうなの?」
「うん。でもやっぱハンバーグかなー」
「結局ハンバーグなんだ」
僕が言うと、橘さんは顔を上げた。
「だって、こういうときってハンバーグ食べたくならない?」
「いや、分からないけど」
「えー! 白瀬くんは何にするの?」
「僕もハンバーグにしようかな」
「ほら!」
「……何が?」
「あはは! 玲奈、意味分かんない!」
朝倉さんが笑う。
僕も思わず笑ってしまった。
結局、橘さんと僕はハンバーグ、朝倉さんはパスタを注文した。
「ねえ、花。今日のリレーの写真、見た?」
「え、もう送られてきたの?」
「うん! さっきクラスのグループに!」
橘さんがスマホを取り出した。
「ほら、これ!」
「あはは! 玲奈、すごい顔してる!」
「ちょっと! そこ見ないでよ!」
朝倉さんが笑いながら画面を覗き込む。
「白瀬くんも見る?」
「うん」
差し出されたスマホには、バトンを握って必死に走る橘さんが写っていた。
「……すごい真剣だね」
「それ、褒めてる?」
「もちろん」
「なんか怪しいんだけど!」
橘さんがスマホを引っ込めると、朝倉さんがまた笑った。
しばらくして、注文した料理が運ばれてきた。
「いただきまーす!」
橘さんがさっそくハンバーグにナイフを入れる。
「おいしそう! 私もハンバーグにすればよかったかな」
朝倉さんが僕たちの皿を見ながら言った。
「花、さっきまでパスタ食べたいって言ってたじゃん!」
「そうなんだけど、見てたら食べたくなっちゃった!」
「一口食べる?」
「いいの?」
「いいよー!」
橘さんが自分の皿を朝倉さんの方へ寄せた。
二人のやり取りを眺めながら、僕もハンバーグを一口食べた。
その後も話は途切れず、気づけば僕も二人と一緒になって笑っていた。
誰かとこんなふうに食事をするのは、久しぶりだった。
食事を終えてからも、しばらく話し込んでいた。
窓の外は、いつの間にか暗くなっていた。
「そろそろ帰ろっか!」
朝倉さんの言葉に、僕たちは席を立った。
会計を済ませ、店の外に出た。
「あ、私こっちだから、ここで!」
橘さんが駅とは反対の方向を指さした。
「そっか! じゃあまたね、玲奈!」
「うん! 白瀬くんもまたねー!」
「うん、またね」
橘さんは軽く手を振ると、歩いていった。
「じゃあ、私たちも行こっか!」
「うん」
僕たちは並んで駅へ向かった。
さっきまで三人で話していたせいか、二人になると少し静かに感じた。
「白瀬くん、今日は来てくれてありがとう!」
朝倉さんが隣から僕を見上げた。
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。楽しかったよ」
「ほんと? よかった!」
「橘さんって、面白い人だね」
「あはは! そうでしょ? 玲奈といると、いつもあんな感じなんだ」
「二人とも仲いいよね」
「うん! 高校に入ってから仲良くなったんだけど、すごく気が合うんだ!」
「そっか」
朝倉さんは嬉しそうに笑った。
しばらく歩いていると、朝倉さんがふと口を開いた。
「ねえ、白瀬くん」
「ん?」
「今日、楽しかったね!」
「うん。楽しかった」
朝倉さんは嬉しそうに笑った。
それから少しだけ、足元に視線を落とした。
「……これからも仲良くしてね!」
僕は朝倉さんの方を見た。
「もちろん」
「えへへ、よかった!」
そう言って笑う朝倉さんを見て、僕も自然と笑みがこぼれた。
少し歩いたところで、僕は前から気になっていたことを思い出した。
「ねえ、朝倉さん」
「ん? どうしたの?」
「前から聞いてみたかったんだけど、どうして僕に話しかけてくれたの?」
朝倉さんは少し驚いたように僕を見た。
「うーん……」
何かを思い出したのか、ふっと表情が和らぐ。
「秘密!」
「……秘密?」
「うん! いつか教えてあげる!」
「そっか。じゃあ、楽しみにしてるよ」
「あはは! うん!」
そんな話をしているうちに、駅が見えてきた。
「あ、もう着いちゃったね!」
「そうだね」
僕たちは改札を通り、ホームへ向かった。
ちょうど電車が来たところだった。
「よかった、待たずに乗れそう!」
朝倉さんに続いて、僕も電車に乗り込んだ。
車内では、さっきの話の続きをすることもなく、他愛のない話をして過ごした。
やがて、僕の降りる駅に着いた。
「じゃあ、またね!」
「うん、またね」
電車を降りて振り返ると、朝倉さんが窓越しに手を振っていた。
僕も手を振り返した。
扉が閉まり、電車がゆっくりと走り出した。
電車が見えなくなるまで見送ってから、僕は階段へ向かった。
僕も、普通の高校生活を送れる気がした。
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