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サイコパスプリンス  作者: 山空
7/13

第7話「体育祭」

「白瀬くん、おはよう!」


 駅に着くと、朝倉さんが笑顔で手を振っていた。


「……おはよう、朝倉さん」


「今日は寝坊しなかったね!」


「うん。さすがに今日はね」


「あはは! よかった!」


 僕たちは並んで改札へ向かった。


 改札を通り、ホームへ向かう。


「白瀬くん、体育祭楽しみ?」


「うーん、どうだろう。今まであんまり学校行事には参加してこなかったから」


「そうなんだ!」


「でも、今日は頑張ってみようと思ってる」


「ほんと!? じゃあ一緒に楽しもうね!」


「うん、そうだね」


 そんな話をしていると、電車がホームに入ってきた。


 電車に乗ると、僕たちは空いていた席に並んで座った。


「そういえば、白瀬くんの借り人競走って何時からだっけ?」


「確か、午前中だったと思う」


「そっか! じゃあ応援しに行くね!」


「……ありがとう。でも、用具係の仕事もあるんじゃない?」


「あ、そっか! じゃあ見られたら応援する!」


「うん。朝倉さんもリレー頑張ってね」


「ありがとう! 絶対勝つから見ててね!」


「うん、応援してるよ」


 朝倉さんは嬉しそうに笑った。


 体育祭が楽しみだなんて、今まで一度も思ったことがなかった。


 でも、今日は少しだけ違う気がした。


 学校に着くと、校庭ではすでに何人かの先生や生徒が準備を始めていた。


 僕たちも荷物を教室に置き、用具係の仕事に取りかかった。


 用具係の仕事をしていると、先生がこちらへやってきた。


「白瀬、ちょっといいか?」


「はい?」


「午後の救護係が一人来られなくなってな。白瀬は午後に競技がないよな? 代わりにお願いできないか?」


「……救護係、ですか」


 思わず表情が曇った。


 そのとき、隣にいた朝倉さんが僕の顔を見た。


「……白瀬くん」


「ん?」


 朝倉さんは少し考えるような表情をした。


「先生! 私が代わります!」


「え? 朝倉さん?」


「でも、朝倉は午後にリレーがあるだろ?」


 先生が尋ねた。


「はい! でも、それ以外の時間なら大丈夫です!」


「……朝倉さん、僕は別に大丈夫だよ」


「私がリレーに出てる間だけ、お願いしてもいい?」


「……でも、それだと朝倉さんにほとんど任せることになるし」


「大丈夫だよ! 私がやりたいって言ったんだから!」


「……そっか。ごめんね」


「ううん! 気にしないで!」


「用具係の方はほかの生徒に任せておくから、二人ともよろしく頼むな」


 こうして、午後の救護係は僕たちで交代して担当することになった。


「……朝倉さん」


「ん?」


「どうして代わってくれたの?」


「うーん、理由は分からないけど、白瀬くん、救護係嫌そうにしてたから」


「……うん」


「困ってるなら、助けたいなって思っただけだよ!」


 朝倉さんはそう言って笑うと、ほかの用具係のところへ駆けていった。


 僕はその後ろ姿を、しばらく見つめていた。


 テントの設営や用具の確認を終える頃には、校庭に続々と生徒が集まり始めていた。


 そして、いよいよ体育祭の開会式が始まった。


 開会式が終わると、生徒たちはそれぞれの応援席へ戻っていった。


 いくつかの競技が終わり、僕が出場する借り人競走の時間になった。


『続いての競技は、借り人競走です!』


 放送委員の声が校庭に響いた。


『今回のテーマは「伝えられていない想いを伝えよう」です! コースの途中にある紙を引いて、お題に当てはまる人を連れてきてください! ゴールした後には、その人に想いを伝えてもらいます!』


 周囲から歓声が上がった。


 僕は第2組だったので、ほかの出場者たちと一緒に第1組の競技を見ていた。


 スタートの合図とともに、5人の生徒が一斉に走り出した。


 途中に置かれた紙を拾い、それぞれお題を確認すると、観客席へ向かっていった。


 しばらくすると、出場者たちが次々と誰かを連れてゴールへ戻ってきた。


 最初にゴールした男子生徒が、隣の女子生徒に向き直った。


「この前、喧嘩したときにひどいこと言ってごめん!」


「……もういいよ。私も言いすぎたし」


 周囲から拍手が起こった。


 続いて、別の男女がゴールした。


「……ずっと好きでした! 付き合ってください!」


 その瞬間、校庭が大きく盛り上がった。


 女子生徒は驚いた様子で男子生徒を見つめた。


 少しの沈黙の後、小さく頷いた。


「……私も好きです」


 校庭から大きな歓声が上がった。


 こんな大勢の前で告白するなんて、すごいな。


 僕には、とても真似できそうにない。


 その後も、ほかの出場者たちがそれぞれの想いを伝えていった。


 借り人競走って、こういう競技だったっけ。


 僕はてっきり、「帽子をかぶっている人」や「赤い靴を履いている人」なんかを探すものだと思っていた。


 でも、今回のお題はどれも誰かとの関係が必要なものばかりだ。


 ……知り合いの少ない僕には、かなり不利なんじゃないか?


『それでは、第2組の皆さん! スタート地点へお願いします!』


 そんなことを考えているうちに、僕の番が来てしまった。


 スタート地点に並ぶと、隣の生徒が軽く屈伸をしていた。


 僕も前方に置かれた紙へ目を向ける。


「白瀬くーん! 頑張ってー!」


 声のする方を見ると、朝倉さんが大きく手を振っていた。


 周りにも聞こえるほどの大きな声に、僕は少し恥ずかしくなった。


 僕は朝倉さんに向かって、小さく手を振り返した。


『位置について、よーい……』


 ピストルの音が鳴り、僕たちは一斉に走り出した。


 紙が置かれた場所まで走り、一枚を手に取る。


 開いてみると、そこにはこう書かれていた。


『感謝している人』


 ……感謝している人。


 その言葉を見た瞬間、僕の頭に一人の顔が浮かんだ。


 僕は観客席の方へ目を向けた。


 朝倉さんの姿を見つけると、そちらへ走っていった。


「……朝倉さん!」


「えっ、白瀬くん!? 私?」


「うん。一緒に来てくれる?」


「えっ、う、うん!」


 朝倉さんは少し戸惑いながら立ち上がった。


 僕たちは並んでゴールへ向かった。


 ゴールすると、朝倉さんが僕の方を向いた。


「ねえ、白瀬くん! お題なんだったの?」


「……感謝している人」


「えっ、私に?」


「……うん」


 僕は少し視線を落とした。


「……朝の救護係のことなんだけど」


「うん?」


「……僕が嫌がってたのに気づいて、代わってくれたでしょ」


「うん」


「その……嬉しかったんだ」


 自分の気持ちを口にするのは、少し恥ずかしかった。


「……ありがとう、朝倉さん」


 朝倉さんは少し驚いたように僕を見つめた。


「……そっか」


 そう言うと、少し照れくさそうに笑った。


「えへへ、どういたしまして!」


 僕たちは並んで退場口へ向かった。


「ねえ、白瀬くん!」


「ん?」


「私がいてよかったでしょ?」


 朝倉さんはいたずらっぽく笑った。


「……うん、そうだね」


「えっ、そんな素直に言うんだ!」


「……変だった?」


「あはは! ううん、嬉しいよ!」


 退場口を抜けると、朝倉さんがこちらを向いた。


「白瀬くん、借り人競走どうだった?」


「……思ってたのとは違ったけど、楽しかったよ」


「ほんと!? よかった!」


「朝倉さんは? 急に連れていっちゃったけど」


「あはは! びっくりしたけど、私も楽しかったよ!」


「……そっか」


 校庭では、次の競技の準備が始まっていた。


「じゃあ、私たちも仕事に戻ろっか!」


「うん、そうだね」


 僕たちは用具係の集合場所へ向かった。


 その後も、僕たちは競技に使う道具を運んだり、片付けたりして過ごした。


 気づけば午前中の競技もすべて終わり、昼休みを知らせる放送が流れた。


「じゃあ、白瀬くん! また午後ね!」


「うん、またあとで」


 朝倉さんは手を振ると、友達のところへ向かっていった。


 僕も昼食を取るため、教室へ戻ることにした。


 教室に戻ると、何人かの生徒が友達と昼食を食べていた。


 僕は自分の席に座り、鞄から昼食を取り出した。


 昼食を食べ終えると、午後の競技が始まるまで教室で過ごした。


 午後の競技が始まる時間になり、僕は校庭へ向かった。


 用具係の仕事をしていると、救護テントの方から朝倉さんが歩いてきた。


「あ、白瀬くん!」


「朝倉さん」


「そろそろリレーの時間だから、救護係お願いしてもいい?」


「うん、分かった」


「ありがとう! じゃあ、行ってくるね!」


「うん、頑張って」


 朝倉さんは笑顔で手を振ると、集合場所へ走っていった。


 僕は救護テントへ向かった。


 テントに着くと、養護教諭の先生に挨拶をして、空いている椅子に座った。


 しばらくすると、クラス対抗リレーが始まった。


 救護テントから校庭を眺めていると、走者の中に朝倉さんの姿を見つけた。


 やがて朝倉さんの順番が来た。


 朝倉さんはアンカーとして、2位でバトンを受け取った。


 勢いよく走り出すと、前を走る生徒との距離を少しずつ縮めていった。


 そして、ゴール直前で追い抜き、1位でゴールした。


 校庭から大きな歓声が上がった。


 朝倉さんはクラスメイトたちと喜び合っていた。


 僕も思わず、小さく拍手を送った。


 しばらくすると、朝倉さんが救護テントへ戻ってきた。


「あ、白瀬くん!」


「朝倉さん、お疲れさま」


「ありがとう! ねえ、リレー見てた?」


「うん、見てたよ。すごかったね」


「でしょ! 言ったとおり勝ったよ!」


 朝倉さんは得意げに笑った。


「うん、おめでとう」


「ありがとう!」


「じゃあ、救護係代わるね!」


「うん、ありがとう」


 僕は朝倉さんと交代し、用具係の仕事に戻った。


 その後も競技は順調に進み、やがて最後の種目が終わった。


 閉会式が終わると、僕たちは用具の片付けに取りかかった。


 朝から続いた体育祭も、ようやく終わりを迎えた。


 片付けを終え、教室へ戻ろうとしたところで、朝倉さんが声をかけてきた。


「白瀬くん! 今日は楽しかった?」


「……うん。思ってたより、ずっと楽しかったよ」


「ほんと!? よかった!」


 朝倉さんは嬉しそうに笑った。


「ねえ、白瀬くん! 今日このあと暇?」


「……うん。特に予定はないけど」


「じゃあ、一緒にご飯行かない?」


「……ご飯?」


「うん! あ、玲奈もいるんだけど!」


「……そうなんだ」


 誰かと一緒に食事をするなんて、いつぶりだろう。


「どう? 行けそう?」


「……うーん」


 少し迷った。


 でも、せっかく誘ってくれたんだ。


「……うん、行こうかな」


「ほんと!? やった!」

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