第5話「帰り道」
第5話 帰り道
「体育祭の一週間後には中間テストがあるからな。体育祭が終わってから勉強を始めても遅いぞ。今回は早めに取りかかれよ」
ホームルームの終わり際、担任の先生がそう言った。
「えー、体育祭の後すぐテストかよ」
教室のあちこちから、不満そうな声が上がった。
「文句言っても日程は変わらんぞ。あと、実行委員の二人は放課後に最後の会議があるから、忘れるなよ」
「はーい」
朝倉さんが返事をした。
放課後。
僕は朝倉さんと一緒に、実行委員の会議室へ向かった。
「もう最後の会議なんだね」
「そうだね」
「なんか、あっという間だったなあ」
「まだ体育祭は終わってないけどね」
「あはは、確かに!」
会議室に入ると、すでに何人かの実行委員が席についていた。
僕たちも空いている席に座り、会議が始まるのを待った。
しばらくして、実行委員長が前に立った。
「じゃあ、最後の会議を始めます。今日は前日準備と当日の動きを確認していきます」
配られたプリントには、集合時間や担当する仕事が細かく書かれていた。
「まず、前日準備についてです。用具係は放課後に倉庫へ集合して、競技で使う道具を運んでもらいます」
僕はプリントの該当する部分に目を通した。
「それから当日は、競技が始まる前に必要な道具を準備して、終わったら片付けをお願いします。自分が競技に出る時間は、同じ係の人と交代してください」
説明が続き、最後に質問がないか確認された。
「何か分からないことがあれば、今のうちに聞いてください」
何人かが手を挙げ、当日の動きについて質問していた。
僕もプリントを見直したが、特に分からないところはなかった。
「それじゃあ、前日準備も当日もよろしくお願いします!」
委員長の言葉で会議は終わった。
周りの生徒たちが席を立ち始める。
「白瀬くん、今日もう帰る?」
「うん、帰るつもりだけど」
「そっか。私も帰るところなんだ。よかったら一緒に帰らない?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、行こっか!」
僕たちは会議室を出て、昇降口へ向かった。
靴を履き替え、校門を出る。
しばらく体育祭の話をしながら歩いていると、朝倉さんがふと口を開いた。
「私さ、白瀬くんとこんなに話すようになると思ってなかったんだ。同じクラスだけど、今まであんまり話したことなかったし」
「うん、僕も思ってなかったよ」
「実行委員になってなかったら、話す機会もなかったかもね」
「そうかもしれないね」
「最初はじゃんけんで負けて仕方なくやることになったけど、やってみると意外とやりがいあるね」
「僕はそこまでやりがい感じてないけどね」
僕は少し笑いながら答えた。
「あはは! 正直だね、白瀬くん!」
駅に着き、僕たちはホームで電車を待っていた。
「そういえば、体育祭が終わったらすぐテストだね」
「うん。朝倉さんはテスト勉強どんな感じ?」
「うーん、好きな教科ばっかり勉強しちゃってるかも。あんまり好きじゃない教科は、つい後回しにしちゃうんだよね」
「そうなんだ。ちなみに、好きな教科って何?」
「日本史と数学かな! 好きだから、ついつい勉強しすぎちゃうんだよね。逆に国語と英語はあんまり好きじゃないんだけど……」
「へぇ、僕は好きじゃない教科から先に勉強するかな。それでも良い点数は取れないんだけどね」
「えー、でも嫌いな教科から勉強できるのすごいよ! 私なんてすぐ後回しにしちゃうもん」
電車がホームに入ってきた。
僕たちは話の続きをしながら電車に乗り、並んで座った。
「白瀬くんは何の教科が好きなの?」
「国語と英語かな。数学と日本史はあんまり好きじゃないんだよね」
「えっ、私と正反対じゃん!」
僕はクスッと笑った。
「そうだね」
「じゃあ、今度白瀬くんに国語と英語教えてもらおーっと」
朝倉さんは冗談混じりにそう言った。
そんな話をしているうちに、電車は僕の最寄り駅に到着した。
「あ、僕ここで降りるね」
「そっか! じゃあ、また明日ね!」
「うん、また明日」
僕は席を立ち、朝倉さんに軽く手を振って電車を降りた。
電車がゆっくりと走り出す。
窓の向こうに見えた朝倉さんの姿は、すぐに遠ざかっていった。
僕はしばらくその場に立っていたが、やがて改札へ向かって歩き出した。
そのとき、少し離れたところで小さな子供が転んだ。
大丈夫かな。
膝を押さえて泣き出す子供に、僕は目を向けた。
……血だ。




