↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコパスプリンス  作者: 山空
4/13

第4話「距離」

体育祭まで、あと三週間ほど。


 校内では体育祭の準備が少しずつ進み、放課後も以前より慌ただしくなっていた。


 その日の放課後も、実行委員の会議が開かれていた。


 会議が終わり、僕が鞄を持って立ち上がると、朝倉さんが話しかけてきた。


「明日、競技決めるんだね」


「うん、そうみたいだね」


「白瀬くんは何に出るつもり?」


「……玉入れかな」


「玉入れ? あはは、なんか白瀬くんらしいね!」


「……どういう意味?」


「んー、なんとなく!」


「朝倉さんは何に出るの?」


「私? リレーに出ようかなって!」


「リレー? 足速いんだね」


「んー、どうだろ。走るのは好きだけど!」


「そっか」


「じゃあ、白瀬くん。また明日ね!」


「うん、また明日」


 朝倉さんは軽く手を振り、会議室を出ていった。


 翌日のホームルーム。


「今日は実行委員の二人に進めてもらうからな」


 担任の先生がそう言うと、朝倉さんが教壇の前に立った。


 僕は黒板の横で、決まった競技と名前を書き込んでいくことになった。


 朝倉さんが希望者を募り、競技は次々と決まっていった。


 残っている競技は、玉入れと借り人競走だけだった。


「じゃあ次、玉入れに出たい人!」


 僕もチョークを置き、手を挙げた。


 周りを見ると、思っていたよりも多くの手が挙がっていた。


「一人多いね。じゃあ、じゃんけんで決めよっか!」


 朝倉さんの声に、希望者たちが顔を見合わせた。


「最初はグー、じゃんけんぽん!」


 何度かじゃんけんを繰り返し、最後に負けたのは僕だった。


「白瀬くん、残念だったね」


「まあ、仕方ないね」


「じゃあ、白瀬くんは借り人競走だね!」


「……うん」


 すべての競技が決まり、ホームルームが終わった。


「花ー! うちらリレー一緒じゃん!」


 同じクラスの橘玲奈さんが、朝倉さんに声をかけた。


 明るい茶色の髪が印象的な女子生徒だ。


「あ、玲奈! 一緒だね!」


「絶対勝とうね!」


「うん、頑張ろう!」


 楽しそうに話す二人を横目に、僕は次の授業の準備を始めた。


 それから数日後。


 放課後、僕は体育祭で使う備品の確認をしていた。


 朝倉さんはリレーの練習があるらしく、少し遅れて来ることになっていた。


 僕は倉庫で備品の数や状態を確認し、チェック表に記入していた。


「ごめん、遅くなっちゃった!」


 しばらくして、朝倉さんが小走りでやってきた。


「ううん、大丈夫だよ」


「ありがとう! 私も確認するね」


 朝倉さんは半袖の体操服姿で、額の汗を拭っていた。


 ふと、彼女の手首に目がいった。


 普段は制服の袖に隠れていて、見えない部分。


 そこには、うっすらと青い血管が浮かんでいた。


「白瀬くん、これって何個必要だっけ?」


 その声に、はっと我に返った。


「えっと、チェック表だと二十個だね」


「ありがとう! じゃあ数えてみるね」


「うん、お願い」


 二人で備品の確認を続けた。


「そういえば、借り人競走になっちゃったね」


「うん。まさか最後まで負けるとは思わなかった」


「あはは! 白瀬くん、じゃんけん弱いの?」


「いや、普段はそんなことないと思うけど」


「じゃあ、あの日は運が悪かったんだね!」


「そうみたいだね」


 そんな話をしながら、僕たちは備品の確認を終えた。


「花ー! 終わった?」


 振り返ると、橘さんが手を振っていた。


「あ、玲奈! 居残り終わったの?」


「やっと終わったー! マジ疲れた」


「あはは、お疲れさま! 私も今終わったところ!」


「じゃあ帰ろ!」


「白瀬くん、また明日ね!」


「うん、また明日」


 朝倉さんは橘さんと並んで帰っていった。


 僕も鞄を持ち、学校を後にした。


 家に着くと、リビングから母の声が聞こえた。


「おかえり。今日は遅かったね」


「体育祭の準備があったから」


「そっか。ちょうどご飯できたところだから、食べちゃいなさい」


「うん」


 鞄を部屋に置き、リビングに戻った。


 母と向かい合って夕食を食べていると、ふいに母が口を開いた。


「……ねえ、透」


「ん?」


「最近、学校はどう?」


「どうって?」


「いや、その……楽しい?」


 母は少し言いにくそうに尋ねた。


「……大丈夫だよ」


 僕がそう答えると、母は少し安心したように笑った。


「そっか。ならよかった」


 それから母と夕食を済ませ、食器を流しに運んだ。


「ごちそうさま」


「はーい」


 僕はリビングを出て階段を上がり、自分の部屋に戻った。


 ベッドに腰を下ろすと、ふと今日の朝倉さんの姿が頭に浮かんだ。


 あの華奢な手首に、うっすらと浮かんでいた青い血管。


 高校に入ってから、誰かの手首に見入ってしまうことなんてなかった。


 けれど、今日は違った。


 朝倉さんとは、少し距離が近くなりすぎたのかもしれない。


 ただ、体育祭が終われば、朝倉さんと関わる機会も少なくなるだろう。


 実行委員の会議は残り一回。それから前日の準備と、当日の運営、片付け。


 それが終われば、またただのクラスメイトに戻る。


 そう考えると、少し気が楽になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。