第3話「無意識」
できれば、この係だけは避けたかった。
「救護係、誰かやってくれる人いない?」
委員長が会議室を見渡した。
「あ、俺やります」
男子生徒の一人が手を挙げた。
「ありがとう! あと一人、誰かいない?」
「じゃあ、俺もやります」
別の男子生徒も手を挙げた。
「ありがとう! じゃあ、救護係はこの二人で決まりね」
僕はほっと息を吐き、安心した。
「白瀬くん、救護係嫌だったの?」
「……まあ、ちょっとね」
「そっか。じゃあ、決まってよかったね!」
残っている係の中では、用具係が一番無難そうだった。
「じゃあ次、用具係をやってくれる人!」
僕はゆっくりと手を挙げた。
「じゃあ、白瀬くんと朝倉さん、用具係よろしくね!」
「……え?」
驚いて隣を見ると、朝倉も手を挙げていた。
「白瀬くん、よろしくね!」
朝倉は笑顔でこちらを向いた。
「……うん、よろしく」
その後も担当決めは続き、会議が終わる頃には外も薄暗くなっていた。
「白瀬くん、じゃあまた明日ね!」
「うん、また明日」
朝倉と別れて家に帰り、夕食と風呂を済ませた僕は、自分の部屋に戻った。
ベッドに横になると、今日の朝倉とのやり取りを思い出した。
実行委員になってから、彼女と話す機会が増えている。
これからも同じ係として、一緒に過ごす時間が増えるのだろう。
朝倉は話しやすいし、悪い人ではない。
でも、もしこのまま仲良くなってしまったら。
僕はそれ以上考えるのをやめ、寝返りを打って壁の方を向いた。
そうして目を閉じると、いつの間にか眠っていた。
翌朝、目が覚めて時計を見ると、まだ六時前だった。
もう一度眠ろうとしたが、なかなか寝つけない。
仕方なくベッドから起き上がり、いつもより早く学校へ行くことにした。
制服に着替えて階段を下りると、母が朝食の準備をしていた。
「おはよう。今日は早いね」
「昨日、早く寝ちゃったから」
「そうなの? じゃあ、今日はちゃんと朝ごはん食べていきなさいね」
「うん、今日は時間あるしね」
母と朝食を済ませ、いつもより早く家を出た。
電車は普段より空いていて、学校に着いた頃には、まだ教室にほとんど人がいなかった。
教室に入ると、朝倉が自分の席で本を読んでいた。
声をかけるべきか、少し迷った。
「……おはよう」
「あ、白瀬くん。おはよう!」
軽く挨拶を交わし、僕は窓際にある自分の席に座った。
鞄を置き、窓の外を眺める。
校庭では、運動部の生徒たちが朝練をしていた。
サッカー部らしい男子生徒がボールを蹴り、それを追いかけて別の生徒が走っていく。
少し離れたところでは、陸上部の生徒たちがトラックを走っていた。
僕は頬杖をつき、ぼんやりとその様子を眺めていた。
走っていた生徒の一人が、足をもつれさせた。
僕は思わず、その生徒を目で追った。
けれど、生徒はすぐに体勢を立て直し、何事もなかったように走り続けた。
「白瀬くん」
「……ん?」
声のする方を向くと、いつの間にか朝倉が僕の前の席に座っていた。
「今日は遅刻しなかったね!」
「……うん」
「いつもこの時間に来てるの?」
「んー、まあね!」
朝倉は笑って答えた。
「朝って静かだから、結構好きなんだよね」
「そうなんだ」
「うん! じゃあ、今日も一日頑張ろうね!」
朝倉は笑顔でそう言うと、自分の席へ戻っていった。
それからしばらくして、いつもどおり一時間目の授業が始まった。
授業中、隣の席から小さな声が聞こえた。
「痛っ」
隣を見ると、男子生徒がプリントを持ったまま、人差し指を押さえていた。
どうやら紙で指を切ったらしい。
その指先に、小さな血の粒が浮かんでいた。
僕は思わず、その指先に見入ってしまった。
綺麗だ。
もう少し見ていたかったが、男子生徒はすぐにティッシュで血を拭き取った。




