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サイコパスプリンス  作者: 山空
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第2話「満たされないもの」

放課後、体育祭の実行委員は会議室に集められることになっていた。


 廊下からは、応援団に選ばれた生徒たちの楽しそうな声が聞こえてくる。


 応援団は毎年人気があり、希望者も多い。一方、実行委員は準備や会議など、何かと面倒な仕事が多いため、誰もやりたがらない。


 僕も、じゃんけんに負けさえしなければ、今頃は家に帰っていたはずだ。


 鞄を持ち、教室を出ようとした。


「白瀬くん!」


 突然、後ろから名前を呼ばれた。


 振り返ると、朝倉花がこちらに向かって歩いてきた。


「これから実行委員の集まりだよね?」


「うん」


「よかった。会議室の場所、いまいち分かんなくて。一緒に行ってもいい?」


「……いいよ」


「ありがとう!」


 彼女は嬉しそうに笑うと、僕の隣に並んだ。


「それにしても、二人とも運悪かったね」


「そうだね」


「私、最後まで残るとは思わなかったなあ」


「僕も」


「あはは、一緒だね」


 廊下を歩きながら、彼女は楽しそうに話していた。僕はときどき相槌を打つだけだったが、彼女は特に気にしていないようだった。


 会議室に着くと、朝倉は僕の方を向いた。


「これからよろしくね、白瀬くん」


「……よろしく」


 彼女はもう一度笑ってから、会議室の扉を開けた。


 会議は一時間ほどで終わった。


 体育祭までの予定や実行委員の仕事について一通り説明を受けたが、これからしばらく放課後の時間を費やすことになると思うと、気が重かった。


 会議室を出ると、僕はそのまま帰ろうとした。


「白瀬くん、ちょっと待って!」


 振り返ると、朝倉がこちらに向かってきた。


「実行委員長に頼まれたんだけど、白瀬くんだけグループLINEに入ってないみたいで」


「ああ、そうなんだ」


「招待したいから、LINE交換してもいい?」


「うん、いいよ」


 僕はスマートフォンを取り出し、朝倉と連絡先を交換した。


「ありがとう。じゃあ、グループに招待するね」


 すぐにスマートフォンに通知が届いた。


「入れた?」


「うん、大丈夫」


「よかった。じゃあ、また明日ね!」


「また明日」


 朝倉は軽く手を振って歩いていった。


 僕もスマートフォンをポケットにしまい、昇降口へと向かった。


 家に帰ると、玄関には夕飯のいい匂いが漂っていた。


「ただいま」


「おかえり。今日は遅かったね」


 キッチンから母の声が聞こえてきた。


「体育祭の実行委員になっちゃってさ。今日、初めての集まりがあったんだ」


「あら、そうなの? 透が実行委員なんて珍しいね」


「じゃんけんで負けたんだよ」


「ふふっ、そういうことね」


 母は笑いながら、夕食の準備に戻った。


 夕食を終え、部屋着に着替えてベッドに横になった。


 スマートフォンを手に取り、今日追加された実行委員のグループLINEを確認する。明日の放課後も集まりがあるらしい。


 画面を閉じ、しばらく動画を眺めていたが、ふと思い立って検索画面を開いた。


 検索欄に「血」と入力する。


 表示された画像の中から、一枚を選んで開いた。


 白い肌に、鮮やかな赤い血が流れている。


 綺麗だと思った。


 けれど、何かが違う。


 指先で画面を拡大してみる。


 しばらく眺めていたが、やがて画面を閉じた。


 スマートフォンを枕元に置き、天井を見上げる。


 何が違うのか、自分でもよく分からなかった。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠っていた。


 翌朝、目を覚まして時計を見ると、八時を過ぎていた。


「やばっ!」


 慌てて制服に着替え、鞄を持って階段を駆け下りた。


「おはよう。今日は休む?」


 キッチンにいた母が、いつもと変わらない声で尋ねてきた。


「いや、行く! 寝坊しただけ!」


「そう。朝ごはんは?」


「時間ないからいい!」


「分かった。気をつけてね」


「行ってきます!」


 靴を履き、急いで家を飛び出した。


 家を飛び出した僕は、駅に向かって走っていた。


 普段なら余裕を持って家を出るのに、今日は完全に寝坊してしまった。


 駅に着く頃には息が上がっていたが、ちょうど電車がホームに入ってくるところだった。


 何とか乗り込み、扉が閉まると同時に息を吐いた。


 スマートフォンで時刻を確認する。


 どう頑張っても、一時間目には間に合いそうになかった。


 学校に着いた頃には、すでに一時間目の授業が始まっていた。


 静かな廊下を歩き、教室の扉を開ける。


 何人かの生徒がこちらを振り返ったが、僕は特に気にせず、自分の席へ向かった。


 鞄を机の横に掛け、椅子に座る。


 黒板に目を向けると、授業はずいぶん先まで進んでいた。


 放課後、僕は再び会議室へ向かった。


 昨日と違って、今日は体育祭の準備を本格的に進めるらしい。


 会議室に入ると、すでに何人かの実行委員が集まっていた。


 空いている席を見つけて座ると、少し遅れて朝倉が入ってきた。


「あ、白瀬くん。おはよう!」


「……もう放課後だけど」


「あはは、そうだった」


 朝倉は笑いながら、僕の隣の席に座った。


「そういえば、今日遅刻してたよね。どうしたの?」


「寝坊した」


「えっ、寝坊? 珍しいね」


「そう?」


「うん。白瀬くんって、そういうことしなさそうだから」


「昨日、いつの間にか寝ちゃってて」


「あー、分かる! アニメとか見てたら、いつの間にか寝ちゃうことあるよね」


「……まあ、そんな感じかな」


「え、白瀬くんもアニメ見るの?」


「いや、そういうわけじゃないけど」


「あ、そうなんだ」


 朝倉は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞いてこなかった。


 そのとき、実行委員長が会議室に入ってきた。


「みんな揃った? じゃあ、今日は体育祭の担当を決めていくね」


 委員長は手元の資料を確認しながら、仕事の説明を始めた。


 僕は配られたプリントに目を通した。


 用具の準備、会場の設営、競技の進行。


 どれも面倒そうな仕事ばかりだった。


「それで、救護係も実行委員から二人出してもらいます」


 その言葉に、僕の手が止まった。


「競技中に怪我をした人がいたら、保健室まで付き添ったり、先生を呼んだりする仕事です」


 僕はプリントの「救護係」という文字を見つめた。

読んでいただきありがとうございます。


一言でも構いませんので、感想をいただけると嬉しいです。


良かったところや気になったところなど、どんな感想でもお待ちしています。

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