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サイコパスプリンス  作者: 山空
29/32

第29話「それぞれの答え」

夕食と入浴を済ませたあと。


部屋にはすでに悠真と成瀬くん、玲央がいた。


「お、透! 遅かったな!」


悠真が声をかけてきた。


「……うん」


僕はそう答えて、自分の布団に腰を下ろした。


朝倉さんと付き合いたい。


でも、このままではどうすればいいのか分からない。


だからこそ、三人の意見を聞きたかった。


僕は覚悟を決めて、口を開いた。


「……みんなに、相談したいことがあるんだ」


「お、何?」


悠真がこちらを向いた。


「……ちょっと、変な話なんだけど」


「いいじゃん。話してみろよ」


玲央が言った。


僕は一度、深く息を吸った。


「……僕、人の血が好きなんだ」


三人は何も言わなかった。


僕はそのまま、話を続けた。


血を綺麗だと思ってしまうこと。


親しくなった人ほど、その人の血が見たくなること。


中学時代、優やほかの四人の友達との間にあった出来事。


そして、その過去から、高校では誰とも親しくならないようにしていたこと。


僕は、これまで隠してきたことを、三人にすべて打ち明けた。


「……でも、朝倉さんには全部話したんだ」


三人は黙って聞いてくれていた。


「朝倉さんは、そんな僕から逃げずに、ちゃんと向き合ってくれた」


あのときのことを思い出す。


「それが、すごく嬉しかったんだ」


僕はゆっくりと言葉を続けた。


「朝倉さんのおかげで、前よりも少しだけ、自分のことを受け入れられるようになったと思う」


……だからこそ。


「僕は、朝倉さんのことが好きなんだ」


僕は三人の顔を見た。


「できることなら、付き合いたいって思ってる」


……でも。


「朝倉さんを好きになればなるほど、血を見たいって気持ちも強くなってるんだ」


昼間のことを思い出す。


あのときの苦しさは、今も忘れられない。


「今日も、朝倉さんと一緒にいるだけで苦しくなって……」


「……そっか」


悠真が小さく呟いた。


「もし、この先もっと好きになったら、どうなるか分からない」


僕は俯いた。


「いつか、朝倉さんを傷つけてしまうかもしれない」


口に出すだけで、胸が苦しくなった。


「……それが、怖いんだ」


しばらく、誰も口を開かなかった。


僕は三人の顔を見ることができなかった。


「……それに」


まだ、伝えなければいけないことがある。


「僕は、朝倉さんだけじゃなくて……みんなに対しても、いつか同じことを思うかもしれない」


「……俺らにも?」


悠真が尋ねた。


「……うん」


「仲よくなればなるほど、血が見たくなるんだろ?」


玲央が確認するように言った。


「……そう」


僕は恐る恐る顔を上げた。


三人は何も言わなかった。


……やっぱり、話さない方がよかったのかな。


そう思った途端、三人の顔を見るのが怖くなった。


嫌われたかもしれない。


もう、今までみたいに接してもらえないかもしれない。


そんな考えばかりが頭に浮かんだ。


それでも、三人は席を立つことなく、僕の言葉を待ってくれていた。


「……僕自身も分かっていないことなのに、みんなに聞くのはおかしいって分かってるんだけど……」


僕は三人の顔を見た。


「……みんなは、どう思う?」


しばらく、沈黙が流れた。


その沈黙を破ったのは、玲央だった。


「透が俺らに対してもそう思うかもしれないって話は、一旦置いとこうぜ」


「まずは朝倉のことだろ?」


「……うん」


「で、お前らはどう思う?」


玲央が悠真と成瀬くんを見た。


「俺からいい?」


悠真が手を上げた。


「透ってさ、今まで誰かを本気で好きになったことないんだろ?」


「……うん」


「じゃあ、なんで本気で好きになったら、もっとひどくなるって思うんだ?」


「……今までも、仲よくなった人ほど血が見たくなったから」


「なるほどな」


悠真は少し考え込んだ。


「でもさ、今日、朝倉さんが来てくれたら落ち着いたんだろ?」


「……うん」


「だったら、好きって気持ちがもっと強くなったら、逆に血を見たいって気持ちを抑えられるようになるかもしれなくね?」


「……そういう可能性も、あるのかな」


「どうなるか分からないのは確かだろ? だったら俺は、まだ分からないことを怖がって、逃げるのは反対かな」


悠真はそう言って笑った。


「もちろん、絶対大丈夫なんて言えないけどさ」


「……ありがとう」


僕が答えると、悠真は小さく頷いた。


「律は?」


玲央が尋ねた。


「僕は……ごめん」


成瀬くんは少し迷ってから口を開いた。


「僕だったら、少しでも相手を傷つける可能性があるなら、諦めちゃうかな」


「……そっか」


「好きな人には、幸せでいてほしいから」


成瀬くんは静かに続けた。


「もちろん、僕のことじゃないから、反対まではしないけど……」


そう言って、僕を見た。


「でも、どんな答えを出しても、僕は透くんの味方だよ」


「……ありがとう、成瀬くん」


二人の意見は違っていた。


でも、どちらも僕のことを考えてくれているのが伝わってきた。


「じゃあ、最後は俺か」


玲央が腕を組んだ。


「透、俺はお前が朝倉と付き合いたいって思うなら、その気持ちを大事にしてほしい」


「……うん」


「ただ、お前の悩みは普通の恋愛とは違う。実際に朝倉を怪我させる可能性があるなら、そこはちゃんと考えなきゃいけねえと思う」


「……そうだね」


「でもさ、だからって自分の嫌な部分を全部なくしてからじゃないと、誰かと付き合えないってわけでもねえだろ?」


僕は玲央を見た。


「それに、好きな相手に自分のいいところだけ見せて付き合おうなんて、無理だろ」


玲央は続けた。


「嫌なところも、弱いところも、全部ひっくるめて自分なんだからさ」


……自分の、嫌なところ。


「俺だって、そうだしな」


玲央が呟いた。


「俺、思ったことすぐ口に出しちまうんだよ」


「……玲央が?」


「おう。嘘つくのも苦手だし、言わなくていいことまで言っちまう」


玲央は少し苦笑した。


「それで実際に人を傷つけたこともある。あとから後悔したことだって何回もあるぞ」


いつも自信に満ちている玲央が、そんなことを考えていたなんて。


僕は少し驚いた。


「でも、だからって誰とも関わらないわけにはいかねえだろ?」


「……うん」


「だったら、ちゃんと向き合って、直せるところは直していくしかねえんだよ」


「……ああ、そういうことか」


悠真が何かに気づいたように呟いた。


「俺もさ、みんなからは明るいって思われてるけど、実は結構傷つきやすいんだよな」


「悠真が?」


僕が尋ねると、悠真は笑った。


「そうそう。ちょっとしたことでも気にしちゃうし、嫌われたかなって考えたりもする」


「意外だね」


「だろ? でも、そういうところも俺なんだよな」


悠真は少し照れくさそうに笑った。


「……律は?」


玲央が成瀬くんを見た。


「え、僕も言うの?」


「当たり前だろ」


「嫌だよ」


成瀬くんが即答すると、悠真が笑った。


「ここまで来たら律も言おうぜ!」


「……もう。分かったよ」


成瀬くんはため息をついた。


「僕は、すごく臆病なんだと思う」


「……臆病?」


僕が聞き返した。


「うん。大切な人を傷つけるのが怖いんだ」


成瀬くんは少し俯いた。


「だから、好きな人ができても、なかなか踏み出せないんだ」


「……藤宮さん?」


悠真が尋ねると、成瀬くんは顔を上げた。


「……今は僕の話でしょ」


「だから聞いてんじゃん!」


「……そうだよ」


成瀬くんが小さな声で答えた。


「えっ、認めた!」


悠真が驚いたように声を上げる。


「……もう、うるさいな」


成瀬くんは少し顔を赤くした。


「紗奈のことは好きだよ。でも、付き合うことで、いつか悲しませてしまうのが怖いんだ」


「……そっか」


「だから、さっき透くんに言ったことも、結局は僕自身の考え方なんだと思う」


成瀬くんは僕を見た。


玲央は小さく頷いた。


「人と本気で付き合うって、こういうことだからな、透」


僕は三人の顔を見た。


悠真も、成瀬くんも、玲央も。


僕が知らなかった一面を持っていた。


それを、今こうして僕に話してくれた。


……僕だけじゃないんだ。


誰にだって、人には見せたくない部分がある。


もちろん、僕の欲求は、三人の悩みとは違う。


もし誰かを傷つけてしまったら、取り返しがつかないかもしれない。


それでも。


怖いからといって、何もしないままでいいんだろうか。


朝倉さんと一緒にいたい。


もっと近くにいたい。


その気持ちまで、諦めなくてもいいのかもしれない。


「……ありがとう、みんな」


僕はゆっくりと口を開いた。


「まだ、どうすればいいか全部分かったわけじゃないけど……」


三人が僕を見た。


「朝倉さんと付き合いたいって気持ちは、諦めたくないんだ」


「おう!」


玲央が笑顔で答えた。


「いいじゃん! 応援するぜ!」


悠真も嬉しそうに笑った。


「僕も応援してるよ」


成瀬くんが微笑んだ。


……相談してよかった。


ずっと、一人で抱えてきた悩みだった。


誰かに話すことさえ、怖かった。


でも、三人は最後まで聞いてくれた。


それが、何より嬉しかった。


「で、律はどうすんの?」


悠真が突然尋ねた。


「……何が?」


「藤宮さんのこと」


「……やっぱり、それでも僕の考えは変わらないかな」


成瀬くんは静かに答えた。


「好きだからこそ、傷つけたくないって気持ちは変わらないから」


「……そっか」


悠真が頷いた。


「でも、透くんのことは応援してるよ」


成瀬くんは僕を見て、微笑んだ。


それから僕たちは、しばらく他愛のない話を続けた。


いつもと変わらない、賑やかな時間。


でも、僕にとっては、今までとは少し違って感じられた。


三人のことを、前よりも少し知ることができたから。


そして、僕のことも知ってもらえたから。


布団に入って目を閉じると、朝倉さんの顔が浮かんだ。


……朝倉さん。


僕は、やっぱり君が好きだ。


その気持ちから、もう逃げたくない。


もちろん、怖さがなくなったわけじゃない。


でも、これからどうすればいいのか、ちゃんと考えていきたい。


朝倉さんが僕のことをどう思っているのかは、まだ分からない。


それでも、この気持ちを大切にしたい。


僕はそんなことを考えながら、静かに目を閉じた。

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


第29話では、透が悠真たち三人に自分の秘密を打ち明けました。


同じ悩みに対しても、三人の考え方はそれぞれ違います。誰の意見が正しいというわけではなく、それぞれの価値観を大切にして描きました。


透もまだ答えを見つけたわけではありませんが、少しずつ前に進もうとしています。


これからの透と花、そして3人との関係にも注目していただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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