第25話「新しい繋がり」
教室では、修学旅行の部屋決めとスキーの班決めが始まっていた。
佐伯悠真は、いつも一緒にいる六人の友人たちと集まっていた。
「部屋って四人ずつだよな?」
「そうそう。俺ら七人だから、三人と四人に分かれる感じか」
「じゃあ、どうする?」
悠真は少し考えてから口を開いた。
「俺、部屋に誘いたいやつがいるんだけど、三人の方でいい?」
「いいよ。誰誘うの?」
「白瀬くん」
「白瀬? 文化祭のとき一緒だった?」
「そうそう。あのとき結構話したし、もっと仲良くなりたいなって」
「いいじゃん。じゃあ、俺ら四人で組むよ」
「ありがとう」
悠真は隣にいた成瀬律と早瀬玲央の方を向いた。
「二人もそれでいい?」
「うん、もちろん」
律が答えると、玲央も頷いた。
「俺もいいよ。白瀬ってあんまり話したことないけど」
「大丈夫だって。話してみたら普通にいいやつだよ」
「じゃあ、決まりだな」
部屋の話がまとまると、今度はスキーの班についての話になった。
「そういえば、スキーはどうする?」
「俺ら五人は経験あるし、一緒に組まない?」
一人がそう言うと、悠真は頷いた。
「いいんじゃない? 俺と律は初めてだし、二人で別の班を探すよ」
「え、いいの?」
「うん。経験者同士の方が滑りやすいでしょ」
「まあ、そうだけど」
「気にしなくていいよ。俺らも誰か探すから」
「わかった。じゃあ、またあとでな」
話がまとまると、四人は別の友人たちのところへ向かった。
玲央は悠真と律のそばに残っていた。
「律、スキーの班どうする?」
悠真が尋ねると、律は少し考えた。
「まだ決まってない人を探すしかないかな」
「白瀬くんに聞いてみようか。部屋も一緒になるし」
「いいね。もし空いてたらお願いしてみよう」
「じゃあ、行こうか」
「俺も一緒に行くよ。同じ部屋になるんだし」
玲央もそう言って立ち上がった。
悠真は律と玲央を連れて、教室の窓際へ向かった。
⸻
修学旅行の部屋決めが始まってから、僕はずっと自分の席に座っていた。
スキーの班は朝倉さんたちと組むことになっていたけれど、部屋はまだ決まっていない。
どうしようかな。
そんなことを考えていると、誰かが僕の席の前で立ち止まった。
「白瀬くん、ちょっといい?」
顔を上げると、佐伯くんが立っていた。
その後ろには、男子が二人いた。
「うん、どうしたの?」
「修学旅行の部屋って、もう決まってる?」
「いや、まだだけど」
「ほんと? じゃあさ、よかったら俺たちと同じ部屋にならない?」
「え、いいの?」
「もちろん。文化祭のときも結構話したし、また一緒に過ごせたらいいなって」
「……ありがとう、佐伯くん」
「そういえばさ、前から思ってたんだけど」
「ん?」
「そろそろ呼び捨てでもよくない? 俺のこと悠真でいいよ。俺も透って呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、改めてよろしくな、透」
「うん。よろしく、……悠真」
思っていたほど、躊躇いはなかった。
以前の僕なら、きっと何か理由をつけて距離を置こうとしていただろう。
朝倉さんのおかげなのかもしれない。
「じゃあ、一緒の部屋になる二人も紹介するね」
悠真は後ろにいた男子たちを見た。
「こっちが成瀬律で、こっちが早瀬玲央」
「成瀬律。よろしくね、透くん」
成瀬くんは整った顔立ちをした、爽やかな雰囲気の男子だった。
「うん、よろしく」
「早瀬玲央。よろしくな」
「よろしく、早瀬くん」
「玲央でいいよ。悠真と律もそう呼んでるし」
「うん、わかった」
「じゃあ、これで四人揃ったね」
悠真はそう言うと、少し嬉しそうに笑った。
「あとさ、透。もう一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「透ってスキー経験ある?」
「いや、ないけど」
「ほんと? 俺も初めてなんだ」
「僕も未経験だよ」
成瀬くんが言った。
「そうなんだ」
「実はさ、もともと一緒にいた七人のうち、俺と律以外はみんなスキー経験者なんだよね」
「そうなんだね」
「だから、俺たちは別の班を探そうと思ってて……」
なるほど。そういうことか。
「スキーの班なら、まだ人数に余裕があると思うから、班長に聞いてみるね」
「えっ、いいの?」
「うん。僕たちもまだ三人だから」
「ほんと? ありがとう、助かるよ」
「俺からもありがとう、透くん」
「うん。じゃあ、確認できたら伝えるね」
「よろしく!」
悠真たちは部屋割りの名簿を提出するため、教卓の方へ向かった。
僕はその後ろ姿を見送った。
⸻
休み時間になり、僕は朝倉さんの席へ向かった。
朝倉さんは橘さんと話していた。
「あ、白瀬くん。ちょうどよかった」
「ん? どうしたの?」
「実は、私たちの班にもう一人増えたんだ」
「そうなんだ」
「うん。紗奈も一緒に組むことになったの」
朝倉さんが近くにいた女子に声をかけた。
「紗奈、こっち来て」
やってきたのは、同じクラスの藤宮紗奈さんだった。
顔と名前は知っていたけれど、これまで話したことはほとんどなかった。
「よろしくね、白瀬くん」
「うん、よろしく。藤宮さん」
「そういえば、白瀬くんも何か話があったんじゃない?」
「あ、うん。実は僕の方も、二人ほど班に入りたいって言ってる人がいて」
「そうなの? 誰?」
「佐伯くんと成瀬くんなんだけど」
「えっ、成瀬くんも来るの?」
藤宮さんが身を乗り出した。
「うん。二人ともスキーは初めてらしくて」
「じゃあ、私も賛成!」
「まだ誰も反対してないんだけど」
橘さんが笑った。
「いいじゃん、別に!」
「それで、二人とも入れても大丈夫かな?」
「もちろん。」
「うん、いいと思う」
「私も大丈夫だよ」
藤宮さんも頷いた。
「これでちょうど六人だね」
朝倉さんが言った。
スキーの班は最大六人までなので、これで全員揃うことになる。
「ありがとう。じゃあ、二人に伝えておくね」
「ねえ、せっかくだし、六人で親睦会しない?」
橘さんが口を開いた。
「親睦会?」
「うん。修学旅行で一緒に行動するんだし、先に仲良くなっておいた方がいいでしょ?」
「いいね。楽しそう」
朝倉さんが答えた。
「私も行きたい」
藤宮さんも頷いた。
「白瀬くんは?」
橘さんが僕に尋ねた。
「うん、僕もいいと思うよ」
「じゃあ、今日の放課後とかどう?」
「私は空いてるよ」
「私も」
「僕も大丈夫」
「じゃあ、駅前のファミレスにしようよ。みんなでゆっくり話せるし」
「いいね」
「じゃあ、あとは佐伯くんたちだね。白瀬くん、聞いてもらってもいい?」
「うん、わかった」
⸻
次の休み時間、僕は悠真と成瀬くんのところへ向かった。
「悠真、ちょっといい?」
「お、透。どうした?」
「スキーの班なんだけど、二人とも入っていいって」
「ほんと? ありがとう!」
「よかった。これで班も決まったね」
成瀬くんが言った。
「それと、もう一つあるんだけど」
「ん?」
「今日の放課後、班のみんなでファミレスに行こうって話になってて。二人は予定ある?」
「俺は空いてるよ。律は?」
「僕も大丈夫」
「じゃあ、二人とも来られる?」
「もちろん。誘ってくれてありがとう、透くん」
「俺も楽しみだな。そういえば、ほかのメンバーって誰なの?」
「朝倉さんと橘さんと藤宮さんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「じゃあ、放課後よろしくね」
「うん、よろしく」
⸻
放課後になった。
親睦会は駅前のファミレスで開くことになっていた。
悠真と成瀬くんは少し用事があるらしく、現地で合流することになった。
橘さんと藤宮さんも先に教室を出ていて、僕は朝倉さんと二人で歩いていた。
今日一日で、ずいぶんと人との関わりが増えた気がする。
悠真と同じ部屋になることも、スキーの班に新しい人が加わることも、嫌だとは思わなかった。
むしろ、少し楽しみにしている自分がいた。
でも、その一方で、不安もあった。
今はまだ、悠真たちに血への欲求を感じているわけじゃない。
それでも、これから親しくなっていけば、いつか同じことになるかもしれない。
優のときのように、相手を傷つけてしまうかもしれない。
あるいは、自分の本性を知られて、嫌われてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、隣を歩いていた朝倉さんが口を開いた。
「白瀬くん、友達が増えるの、怖い?」
「……え?」
突然の言葉に、思わず朝倉さんを見た。
「また、血のことが心配になってるんじゃないかなって」
僕は少し迷ってから、頷いた。
「……うん」
「そっか」
朝倉さんは少しの間、黙っていた。
「ねえ、白瀬くん。これだけは忘れないでほしいんだけど」
「何?」
「白瀬くんは、友達を作っていいんだよ」
「……でも、また同じことになるかもしれない」
「うん。私には白瀬くんの辛さを全部理解することはできないし、無責任に聞こえるかもしれないけど……」
「私は、白瀬くんが優しい人だって知ってるよ。血への欲求に苦しみながらも、相手のことを大切にしようとしてることも」
「だから、辛くなったら一人で抱え込まないで。私にも頼ってね」
朝倉さんの言葉を聞いても、不安が消えたわけではなかった。
これから先、悠真たちとどうなっていくのかも分からない。
それでも、今はもう少し、彼らと話してみたいと思っていた。
「ありがとう、朝倉さん」
「うん」
僕たちは再び、ファミレスへ向かって歩き始めた。
第25話を読んでいただき、ありがとうございます!
今回は修学旅行に向けて、新しい登場人物たちが加わりました。
少しずつ人との関わりが増えていく透ですが、やはり不安が簡単に消えるわけではありません。
それでも、以前なら避けていたはずの人間関係に、自分から踏み出そうとしている姿に、少しずつ変化を感じます。
次回は、六人での親睦会です。それぞれの性格や関係性も、少しずつ描いていけたらと思います。
次回もよろしくお願いします!




